【編集長コラム】若き雷鳥たちのために -2019ユースアカデミー新体制 ※無料配信

「トップチームの活躍は地域に伝わったが、現実的に育成は結果を出せなかった1年。そこは大きく変えなければいけない。スタッフの体制を見れば育成にさらに力を入れるということが伝わると思うし、育成も過去最高の予算を取っていく」

1月7日の仕事始めで、神田文之社長はこんな言葉を残していた。山雅がJリーグに参入してから8年目。当初から育成強化は色濃く打ち出していたが、現実問題としてアカデミー出身者がJリーグの選手になったのは長澤拓哉(讃岐)と小松蓮(金沢に期限付き移籍中)の2人にとどまっている。U-18もプリンスリーグ参入戦の”境界突破”に苦しんでいるのが現状。「育成は一朝一夕にはいかない」というのが暗黙の了解ではあるものの、手をこまねき続けていてもギアは上がらない。

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そこで今回、山雅はアカデミーを拡充する運びとなった。新任のU-18監督とトレーナーを加え、計17人と過去最多の陣容でアカデミーを運営していく方針。「もっとあふれ出るようにトップチームに輩出できるアカデミーにしていきたい。(創設から)15年経っているが、他のJクラブのようなシステムにまでたどり着いていないのが現状。それをなんとか打破したい」。4日に松本市かりがねサッカー場で行われたメディア説明会の席上、山﨑武アカデミーダイレクターはそう力説した。

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まずはやはり、U-18の監督人事が目を引く。2015〜17年にJ2水戸、18年にはJ3相模原で指揮を執った西ヶ谷隆之氏を招聘。Jクラブの監督経験者が山雅U-18を指揮するのは岸野靖之氏以来だ。「トップチームが急激に成長している中で育成のレベルアップを任されたと思っている。人間形成も大事にしていく中で選手を成長させていくというのが僕の使命。この地域だからこそできること、この地域の選手の特性とかいろんなことがかみ合わないといけないので、その部分を見極めてクラブ全体として共有しながらやっていきたい」と抱負を語った。

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そして右腕には、提携クラブのゲイラン・インターナショナルFC(シンガポール)から3年ぶりに戻った臼井弘貴氏がコーチとして就任。自身は今季、コーチを務める傍らで日本協会の公認S級ライセンス取得も目指していく。講習のため年間15週間ほど費やすことになるものの、「自分が松本にいる時間の中で西ヶ谷監督を支えて選手と向き合っていく」。そして「ライセンスはあくまで資格であって、そこ(の過程)で何を学ぶかの方が大事。学んだことをクラブや子どもたちや地域の方々にうまく伝えることを意識して今シーズンはやっていきたい」と力を込める。

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昨季まで2年間U-18監督を務めた山﨑茂雄氏は新設されたアカデミーテクニカルダイレクターに就任し、主に指導者育成に力を注ぐ。昨季に「山雅スタイル」というアカデミーの根幹をなす指導コンセプトを打ち出しており、それに則して「ハードワークも大事だし個として見るとテクニカルでタクティカルな選手を育てていくことがとても大事」といい、「アカデミースタッフで研修の機会を設けて落とし込みを図っていく。U-15で能力ある選手はどんどんU-18に出ていくことが必要だし、U-18ならトップに練習参加する。選手のためにそういう環境をつくり出し、共有を図る仕事になる」と説明する。

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2018年度は小学校4年生〜高校3年生のアカデミー生が146人で、スクールは松本のほか中南信地方と東信の計7拠点で940人。報道陣の質問に対し、山﨑アカデミーダイレクターはまず3年以内にトップチーム昇格者を出したい考えであることを述べた。Jリーグにホームグロウン制度が導入されたいま、育成への注力は喫緊のミッション。地方都市の後進クラブにとって難題だとは知りながらも従来から力を入れてきた部分だが、今回は一層のスピードアップを図っていく。

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このほか新体制の中で特筆しておきたいのは、2人いるユースアドバイザーのうち昨季U-15監督を務めた渡辺卓氏がM.A.C SALTOへ指導者派遣される点だろう。新潟ユースからトップ昇格したDF西村竜馬らを輩出した上伊那地方の有力な街クラブで、今回は双方の意向が重なって山雅から派遣されることとなった。山﨑アカデミーダイレクターは「地域が必要としているニーズに対応して、サッカーだけでなくスポーツ全般の普及拡大に努めていく」と強調する。

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県内には数多くの街クラブが存在し、それぞれの指導者が心血を注いでいる。そこに山雅という「黒船」がやってきてブルドーザーのように地ならしする手法は採らない。固有の地域課題に沿った形で綿密にコミュニケーションを取りながら関わり、「そこで必要であるのなら松本山雅という名前を使ってもらう形があってもいい」と山﨑武氏。先達をリスペクトし、手を取り合いながら進んでいく考えでいる。

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編集長 大枝 令 (フリーライター)

1978年、東京都出身。早大卒後の2005年に長野日報社に入社し、08年からスポーツ専属担当。松本山雅FCの取材を09年から継続的に行ってきたほか、並行して県内アマチュアスポーツも幅広くカバーしてきた。15年6月に退職してフリーランスのスポーツライターに。以降は中信地方に拠点を置き、松本山雅FCを中心に取材活動を続けている。