【試合展望】県選手権決勝 長野戦 ※無料配信

負けて良い試合など一つもない。
だがこの一戦は特に、絶対に負けてはいけない。
むしろ、必勝が求められる。

信州ダービー、である。

互いにJリーグ参入を目指し、文字通りの「生存競争」を繰り広げていた時代は去った。臓腑からの切迫感が充満していた往時を第1章とするならば、11年ぶりに対峙する今回は第2章の幕開けと言えるかもしれない。いずれにせよ、負けてはいけないのは不変だ。

なぜか?沽券に関わるからだ。松本には県庁所在地があるわけでもないし、新幹線も走っていないし、冬季オリンピックの会場にもなっていない。人口規模も2番目で、最近ようやく保健所ができたばかりだ。

もちろん松本にも誇るべき財産は数多くあるけれども、ことスポーツに関しては、特にサッカーに関しては我らがパイオニアなのだ。1926年(昭和元年)に旧制松本高等学校(信州大)で「近県中等学校蹴球大会」が始まり、これが信州におけるサッカー大会の元年と位置付けられている。

以降ものちに県協会会長を務めた渡辺三郎氏らが行政と長きにわたる折衝を重ね、専用球技場の建設を勝ち取った。そのスタジアムはのちに「アルウィン」と呼ばれる。近年でも高校サッカーの県代表は大半が中信地方だし、県協会の事務局は松本が所在地。この地が信州サッカーの熱源であることに一切の疑問を挟む余地はなく、その熱が具現化した象徴が他ならぬ松本山雅FCなのだ。

つまりAC長野パルセイロとの信州ダービーは、松本のサッカー熱がナンバーワンであることを示す戦いでもある。選手たちがこうした歴史や経緯を知らずピンときていないのなら、代表してここに記す。この地が100年もの長きにわたって大切に育んできたフットボールのDNAがJリーグクラブ・松本山雅FCとして立ち現れ、諸君はその代表としてピッチに立つ。

見る者はただ、託すしかない。横断幕の1枚1枚に、タオルマフラーの1枚1枚に、怨念にも似た魂をありったけ込める。声なき声を送り届ける。それがピッチに伝播すると信じて。背中を押し、勝利につながると信じて。自分が支えねば始まらないと信じて。

だから、左胸のエンブレムに誓ってほしい。
走れ、戦え。暴れろ、荒れ狂え。
遂行せよ。制圧せよ。平定せよ。

「KING Of 信州」は我々である。

編集長 大枝 令 (フリーライター)

1978年、東京都出身。早大卒後の2005年に長野日報社に入社し、08年からスポーツ専属担当。松本山雅FCの取材を09年から継続的に行ってきたほか、並行して県内アマチュアスポーツも幅広くカバーしてきた。15年6月に退職してフリーランスのスポーツライターに。以降は中信地方に拠点を置き、松本山雅FCを中心に取材活動を続けている。