【編集長コラム】異例の新年度スタート 「恩返し」を胸に ※無料配信

新年度がスタートした。

新型コロナウイルスの感染は収束する気配も見せず、先行き不透明な状態が続いている。これだけ社会が閉塞感に包まれた状況での新年度スタートというのも、なかなか記憶にない。チームはきょう4月1日までの6日間を自主トレーニング期間としており、取材機会はない。まさに「ないない尽くし」だ。

松本山雅FCプレミアムも、正直に白状するとネタが「ない」。それでも日々の中で少しでも山雅を感じてもらいたいし、活力になってもらえれば――という一心で試合のない3月を駆け抜けた。その中で生まれた新コンテンツが「ガンズ・ポートレイト」。昨日に第2回を公開したが、おかげさまで反響がある。

20200323-3

かつての山雅を振り返る企画は、実は以前からネタのストックとして存在していた。ただ、なかなかタイミングが合わなかったことや、細部を詰めるだけの余裕がなく実行に至らなかったのが実情。ただ今回は、ないない尽くしの中でもじっくり考える時間だけは十分すぎるほどある。そのため、「中の人」に表舞台まで出てきてもらって実現にこぎつけた。

新企画を打ち出すにあたり、一つだけ譲れないことがあった。単に「振り返る」だけにはしたくない――ということだ。確かに昔を懐かしむ人生の瞬間はあってもいい。この企画でピックアップする試合も、山雅が紡いできた歴史の中での「点」にすぎない。しかし長い年月を費やして生まれる歴史は「点」を無数に繋げて生まれる「線」であり、その線はまさに現在にも繋がっている。

だからこそ、「今に生きていること」「今でも言える同じこと」を織り込みながらコンテンツを展開していくことにこだわろうと考えた。実際、第1回は「一歩ずつ確実に」というスタンスを共通項として見い出したし、昨日の第2回は小澤修一氏が「あの試合から色々が始まった」と述懐。今後フォーカスする試合も何かしら、現在と未来に生かせる要素を抽出していきたいと思っている。

それにしても、だ。語り部役の中の人こと丸山浩平広報がピックアップして送ってくる写真の数々を見ると、当時からの「熱感」がひしひしと感じられる。第1回で取り上げたJAPANサッカーカレッジとの最終節。この会場は自分も新聞社時代に高円宮杯U-18プリンスリーグ北信越最終節の東海大三高(現東海大諏訪)を取材するために行ったことがあるが、本当に何の変哲もない専門学校の人工芝ピッチだ。

20200321-2

そこがサポーターでぎっしり埋まり、皆がゲーフラを掲げている。一つひとつをじっくりと見ると、ウイットに富んだ文言だったり選手を力強く鼓舞するようなものだったり。いずれにしても、あふれんばかりの「山雅愛」が表現されている。選んでいるだけで胸が熱くなったが、それと同時に「自分もこの頃から山雅と出会っていたかった」という思いも募った。ただ、こればかりは人生のアヤなので仕方がない。

portrait02_11

第2回も同様だ。日曜ナイトゲームの平塚に、約1,000人の大サポーター。公式記録だと入場者数は2,580人なので、半分とまではいかないまでも地域リーグとしてはまさに「規格外」の熱量に包まれていたことがわかる。視察に来てそれに驚いた加藤善之氏は翌年にGMとして山雅に来て現在に至る。そして2011年にコーチとして山雅に来た柴田峡氏も、当時所属していた東京ヴェルディと山雅の練習試合に大サポーターが押し寄せた光景がインパクトに残っていたという。

portrait02_8

山雅の歴史は群像劇のようで、誰もが主人公で欠かすことのできない登場人物だ。だがこのように紐解いてみると、歴史を動かしてきたエネルギーの根本はいつだってサポーターの皆さんに他ならないことが改めて明確になる。大元をたどれば、確かにアルウィンというハードの存在が前提で始まった活動かもしれない。ただ、その器を満たす人々にこれ以上ないほど恵まれた。なんという数奇な運命なのだろうか――と、今の山雅がある奇跡に身震いする。

column0229_2

だが現在。山雅を山雅たらしめてきたサポーターの方々も、新型コロナウイルスという見えない敵との戦いでかつてない苦境にあるだろう。皆さんに支えられて初めて成立する市民クラブの山雅としては、あらん限りの手段で勇気や活力をお返しすべき局面。自分自身は「中の人」でこそないが、そんな思いを勝手にシンクロさせながら日々絶やさずコンテンツを展開している。

そもそもこのような事態でスポーツどころではない――という空気が生まれてくることも自然の成り行き。このコラムを読んでくださっている時点で、本当にありがたい。今回はせめてもの恩返しとして、「ガンズ・ポートレイト」で使わなかった写真を一挙掲載。当時から支えてくださっているサポーターの皆さんも、それ以降から応援してくださっている皆さんも。懐かしきスナップの数々とともに往時に思いを馳せつつ、新年度への活力としてもらえれば幸いだ。

File.01 未使用カット

column0401_1 column0401_2 column0401_3 column0401_4column0401_5

column0401_6

File.02 未使用カット

column0401_7 column0401_8 column0401_9 column0401_10

column0401_11 column0401_12

編集長 大枝 令 (フリーライター)

1978年、東京都出身。早大卒後の2005年に長野日報社に入社し、08年からスポーツ専属担当。松本山雅FCの取材を09年から継続的に行ってきたほか、並行して県内アマチュアスポーツも幅広くカバーしてきた。15年6月に退職してフリーランスのスポーツライターに。以降は中信地方に拠点を置き、松本山雅FCを中心に取材活動を続けている。