【キャンプレポート】サッカー×テクノロジー EPSONと拓く地平 ※一部無料

第1次串本キャンプ第12日の26日、和歌山県串本町のサン・ナンタンランドで午前練習が行われた。トップスポンサーのセイコーエプソンが開発した小型GPSデバイス「M-Tracer」を選手が装着し、各種フィットネスデータを採取。多岐にわたる項目の数値を解析・評価・蓄積しながら、パフォーマンス向上などに活用していきたい考えだ。

独自のモーションセンシング技術を活用したデバイスで、細かなデータが手に入るのが特徴だ。例えば30m直線走ならタイムだけでなく最高時速、初速、加速度といったスピードに関する指標のほか、上半身のブレ(前後/左右)や肩の前後ブレ、体の上下ブレ、足の接地時間などの運動解析データが得られる。

セイコーエプソンと松本山雅は2022年からU-12と連携して定期的にデータ採取と活用法の模索を続けており、今年からは一部のスクールにも展開する予定だという。今回はトップチームの國保塁フィジカルコーチが昨年にM-Tracerの存在を知ってから協議を重ね、トップチームへの試験導入に至った。

「統一された条件の中で身体能力を客観的に把握・評価し、選手に働きかける材料にしたい」と國保フィジカルコーチ。この日は「フィジカル」の構成要素のうちスピード・アジリティー・爆発的パワーに絞って4種目を実施。30m直線走、3×10mシャトルラン、反復横跳び、垂直跳び(両脚/片脚)を計測した。

詳細なフィードバックは後日。大内は「自分でも左右のバランス差を感じていて、それが具体的にデータで絶対に出ると思う。弱い部分を知って克服できれば、おのずとプレーの安定感にも繋がる」とパフォーマンス改善に期待を寄せる。

トレーニングの成果を数値で知る好機でもあり、それを心待ちにするのは常田。「ジャンプの部分はオフシーズンで取り組んできたものを一番大きく占める。昨年より跳べている感覚がある。トレーニングしてきた成果が結果として出ていればいいし、ものすごく楽しみ」と話した。

今後も継続的に計測してデータを蓄積し、パフォーマンス向上につなげていく。この日はセイコーエプソンのエンジニアが串本まで訪れて計測に協力し、担当者は「数値化したデータを蓄積しながら、データドリブンのチーム評価ができるようになれば」と展望を口にしていた。

最終日のトレーニングマッチ・アルテリーヴォ和歌山戦を控え、この日は計測と軽めのメニューのみとした。夕方にはミーティングがあり、小澤修一取締役が選手スタッフを前にクラブの成り立ちや特徴などを説明。「松本山雅FCの存在意義」「プロサッカー選手の価値」をテーマに熱弁をふるった。

霜田監督と選手2人(神田、村越)のコメントは以下の通り。


霜田 正浩監督

――今日はセイコーエプソンのデバイスを活用して各種データを採取しました。意義や狙いを聞かせてください。

フィットネスデータはあくまで個人にフォーカスすることなので、「これが速いから」「これが強いから」というのがチームの成績に直結するかどうかはわかりません。ただ選手の力を上げていくには、自分の現在地をわかること。自分の身体がどうなっているのか、スピードがどれくらいなのか。普段のトレーニングをやっていくと、どのくらいスピードが上がってきているのか。それがしっかり数字で出ることが、データを取る上で一番大事だと思っています。

セイコーエプソンさんがその最新技術をお持ちで、チームとスポンサーの関係性の一つとして単にスポンサードいただくだけではなくて、企業のストロングポイントをチーム強化に生かせればいいのではないかとずっと話していました。今回こういう機会が実現できて、とてもうれしいです。

――単純にスピードだけではなく、身体の向きなどのデータも取れます。どんな活用法を考えていますか?

それはこれからです。どんなデータがどこまで出てくるのか。「こんなデータが出てくるんだったら、こういうことができるのではないか」という新しい発見にもなるでしょう。(身体の)右が強いのか左が強いのか。表が強いのか裏が強いのか。肉離れしたときにどこまで数字が戻れば現場復帰していいのか。それらをしっかり数字で出せるようになるのが理想です。選手が「なんとなくもう大丈夫」ではなくて、メディカルサイドにも十分生かせられると思っています。バランスが悪い選手、傾いている選手、クセがある選手。いろいろあります。ケガ予防につながればいいし、いろんなことをやってクラブの財産にしていきたいです。

――サッカーにおける各種データの重要性は非常に高まっていて、監督も重視されていると思います。

数字、データ、テクノロジー。そうした要素をもっと取り入れたいと思っています。世界はどんどん進んでいて、僕が日本サッカー協会で仕事をしていたときもドイツやイングランドなどは本当に進んでいると思っていました。J3だからとかは関係なく、日本のサッカー界もビジネス界からいろんなアイデアやテクノロジーをどんどん取り入れて、勝つための手段として新しいことにチャレンジできればいいです。塁(國保塁フィジカルコーチ)にエプソンさんのデータを提供していただいて、チーム強化に繋げていきます。

データは取ることが目的ではなく、取ったデータをどう使うか。それをセットで考えないと、せっかく良いデータや良い素材、良い数字が出ても、宝の持ち腐れになってしまいます。まずは僕がどんなデータを欲しいのか。このサッカーをやるために、こういうデータと映像があって、こういう見せ方ができるといい。それを解決してくれるエキスパートに協力してもらう。そんなスタンスです。

――今年は従来より高精度なフィジカルデータの計測デバイスを導入しました。昨季からはドローンも活用しています。それ以外にも新たに取り入れたことはありますか?

まだ手探りですが、映像解析のところ。ドローンによって非常に見やすくてわかりやすい映像が手に入るようになったので、それを解析するソフトを活用していきたいと思っています。テクニカルコーチやGKコーチがトライしている最中です。

――判断を含めた「サッカーIQ」や「メンタル」の部分は、定量化が難しい側面があります。そこは人の目による評価になってきますか?

どちらか一つには決められません。科学の力でデータを使って解析するところ、目に見えない無形の力を使うところ。科学とデータ、努力と根性。間違いなく両方が必要です。

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