【特別企画】シンガポールのソラから(1) ※無料配信

松本山雅FCと業務提携するシンガポールのゲイラン・インターナショナルFCに、FW田中想来が期限付き移籍で飛び込んだ。アカデミー出身で、高卒2年目となるストライカー。クラブとしても提携先に選手を預けるのは初のケースとなる。異国の地でどんな日々を送っているのか、不定期連載で近況を綴ってもらう。

新天地で奮闘 不慣れなポジションに挑戦

シンガポールに来て2カ月あまり。
もうすぐ国内リーグの開幕を迎えます。

初めての海外生活で不慣れな環境にいる中で、サッカーの部分でも新たなチャレンジをしてきました。まずポジションは4-3-3の右ウイングです。本当は真ん中でプレーしたいところですが、ワイドの高い位置で張って1対1を仕掛ける役回りです。左サイドで作って右の僕がもらって、縦に仕掛けてクロスか、中に行ってシュートで終わるか。もちろんビルドアップに関与することもあります。

正直に言えば難しいですが、成長できるチャンスだと捉えています。真ん中だけしかできない選手は使われづらいかもしれません。上に行けば行くほど、例えばJ1なら強烈な外国籍選手も多くいます。この1年で「仕掛けられるウインガー」としても成長できたらプレーの幅が広がります。とはいえセンターFWでやっている日本人もいるので、贅沢かもしれないですが両方を追求したいです。

フィジカルの面は松本にいるときから結構やっていたので不自由はありません。でも、人工芝とボールに慣れるのに苦心しています。ボールが跳ねてファーストタッチが狙い通りに止められなかったり、公式球も感覚として蹴り味が柔らかくて体重が乗らず、狙ったシュートが打ちづらかったり。特に最初の頃はフラストレーションを溜めてしまっていました。雨季だとなおさらです。

ゲイランには日本人選手が6人います。もちろん仲良くさせてもらっていますが、話せるときはできるだけ日本人以外の人に話を聞くように自分の中で意識しています。何を言っているのかは正直あまりわからないんですけど、できるだけ理解するように努力しています。気さくに話かけてくれますし「仲良くなろう」という感じが伝わってくるので、それはすごく助かっています。

日本人は、大学を卒業してからずっとシンガポールでプレーしている選手がほとんどです。シンガポール国内である程度の実績を残していて、最初からチーム内で信頼を勝ち取っている選手も。そういう選手と、初めて日本から来た19歳と、どちらを気にかけるか?となると、監督の中でも思うところはあるのでしょう。特に最初の頃、言葉がわからないながらに「ミーティングで僕の名前が出ないな…」と思っていました。

ピッチ外は衝撃の数々 文化と物価と

ピッチ外での生活も日本と全く違います。
むしろ、衝撃の連続でした。

日本での常識は全く通用しないし、気候も文化も食事も違います。

まず最初に衝撃だったのは、イスラム教の断食月・ラマダンです。入国してから4月中旬までずっとラマダン期間で、その間は夜9時が練習スタート。僕は日本でプレーしている時も夜は10時半くらいに寝るタイプだったので、練習中に眠くなってしまいます。真夜中に練習して帰ってきても、アドレナリンが出ていて寝付くのが午前4時とか。生活リズムが昼夜逆転してしまいました。それが一番キツかったですね…。

国内にもチームの中にもいろんな人種がいて、ラマダンをしている選手としていない選手がいました。食事を手で食べる選手もいます。日本とは違った刺激をピッチの外でも得られていますが、4月にマレーシアに練習試合に行った時は本当にキツかったです。夜行バスで10時間ほどかけて移動するんですが、マレー系の選手たちは真夜中にめちゃくちゃ元気なんです(笑)。僕、寝たいのに寝られなくて、散々でした…。

その期間は夜にバザーが出たり、街も賑わいます。イスラム教の人たちが集まる「アラブストリート」は深夜12時ごろでも人でごった返しています。ただ、昼間は何もないです。毎日昼に起きて、当時住んでいた家にジムとプールがあるので、そこで筋トレして泳いで、ちょっと昼ごはんを食べて夜9時から練習――みたいな日々を、ラマダン中は繰り返していました。

食べ物も正直、あまり口には合いません(笑)。自炊しています。ホーカーセンター(飲食の屋台や店舗を集めた屋外複合施設)というのがあって、そこに行けばだいたい安くて山盛りなんですけど、僕には脂っぽいかなと…。アスリート的に身体にいい食生活なのか?と考えた時にあまりそうでもないだろうし、うん…という感じです。

ちなみに、大好きなうどんは日系のスーパーマーケットで買っています。あとは日本でも有名な定食店や牛丼店のチェーンもあるので、練習場に近い牛丼屋はちょくちょく通っています。でも、ここで衝撃的すぎるのが物価。3人前の乾麺が入って1袋になっているうどんが、4.5シンガポールドル(1SGD=113円前後/2024年5月2日現在)。日本円にすると500円以上になります。

牛丼チェーン店で「サラダセット」的なのを頼んだら14SGD(約1580円)でした。そもそも入国した時、日本から国際線に持ち込めなかったボディクリームを買いに行ったら、めちゃくちゃ高くてびっくりしたのが最初。確か25SGDくらいだったので、2,800円くらいですね。チームが借りてくれている今のコンドミニアムも家賃は月3,500SGDだそうで、自分で借りると考えると震えが止まりません…(笑)。

こうしてピッチ内外で本当にいろんな経験をしています。最初のうちは本当にキツかったし「日本に帰りたい」と思ったことも何度もありますが、いよいよ開幕です。タフな環境でもしっかりサッカー選手として活躍し、一回りも二回りも成長した姿でまた皆さんとお会いできるのを楽しみにしています。日本から遠く離れていますが、応援よろしくお願いします!

構成/大枝 令


シンガポールプレミアリーグ(以下SPL)が5/10(金)に開幕します。
対戦カード:Balestier Khalsa FC
キックオフ:5/10 20:45(日本時間)

毎試合SPLのYouTubeでライブ配信されていますので、ぜひご覧ください。

SPL Youtubeチャンネル:
https://www.youtube.com/channel/UCiJTKr-wja_JVM2dVTYCELA

試合日程:
https://spl.sg/wp-content/uploads/2024/04/SPL-2024-Fixtures.pdf