【特別企画】下條 佳明SDコラム vol.1 「山雅の現在地」※無料配信

DoingよりBeing。どうするかではなく、どうありたいか――。昨年来、大きくモデルチェンジして新たなスタイルを構築しようとしているトップチーム。その過程でさまざまな課題に直面してきた。そうした営みを繰り返してきたいま、現在地はどこなのか。そもそもなんのために、何を目指しているのか。下條佳明スポーツダイレクター(SD)が、ビジョンと照らし合わせながら現状をつづっていく。

霜田監督にチームをお任せし、1年目からボールを握ってアグレッシブに戦うことを掲げてきました。2年目に入って、いまはシステムを4―3―3に変えたタイミングになりました。目指してきた部分に対して課題をもち、PDCAを回しながら修正してきた結果。段階を踏んで今があります。「今まで積み重ねてきたことを変えた」という認識は、監督も私自身も持っていません。

ただ、ファン・サポーターの皆さんにとっては、たとえ選手がうまくなったところで「チームの成績が上向かない」「複数得点が入らず、失点が相変わらず多い」という空気感もあると思います。それは数字が突き付ける現実なので、そこから這い上がっていくしかありません。

J3は混沌としています。激戦の中でより多くの勝点を重ねるために必要な考え方は、クイック、シンプル、トゥー・ザ・ポイント。わかりやすくやっていくしかありません。これは霜田監督とも共通している認識です。「システムを変えて整理した」というよりも、「配置を整理してプレーがより明確になった」というイメージです。

さて、先日の日本代表はワールドカップアジア2次予選でシリアに5-0と大勝しました。苦手とされていた中東のチームに対して圧勝することは、以前であれば考えにくいことです。選手たちが海外でもまれるのと同時に監督やコーチから戦術論を学び、柔軟な戦い方が可能になったのだと思います。4-2-3-1だけでなくて4-3-3にしたり、3バックにしたり。現代サッカーでは珍しくないですが、それぞれがサッカーのロジックを理解して、コレクティブに戦えるのであれば陣形は大きな問題ではありません。

それは山雅にも言えることだし、目指すべき場所だと考えます。そのためには技術も重要ですが、まずサッカーのノウハウ。「ここで誰かが前を向いたら自分はここだ」と、相手の出方を見て立ち位置を取れるか。「相手の矢印を折る」とも言われますが、ロジカルな部分についても理解度の高い選手が増えてきました。実際に鳥取戦は4-3-3から4-4-2、最後は5-3-2に組み替えてクリーンシートとしました。

ただ、それをどの相手にも通用するように昇華させていく必要があります。基本的にやることは同じで、それに対して相手が準備してきます。その上で何ができるかと言えば、高いレベルでサッカーを捉え、強い気持ちを持ち、ハードワークで耐えられるかどうか。

相手の準備に対応するには、ピッチ内でのコミュニケーションが欠かせません。山雅は昨年来、「自主性」を育むことにも取り組んできました。今は監督やコーチの指示を待たずとも、選手間で意見交換ができる。段階的にそうした現象が出てきています。選手によって感覚的な齟齬が出てくるのは避けられないことですが、理解度を高めるように互いに指摘し合ったり、話ができたりする空気感は醸成されていると感じます。もともと霜田監督は選手の立場に立ち、個人のやり方をスポイルするような投げかけはしません。意図的にファジーな部分も残しながら、選手の判断を尊重しています。

では、ここからさらに何を高めていくのか。

一つは「コンパクトさ」の追求。実際にミーティングでも、「攻守にわたってコンパクト」という言葉が頻繁に出ます。いまはコンパクトにしている分だけ、昨年と比べてチーム全体の総走行距離が減っています。けれどもパスの本数は増え、危険なロストは減っています。この現状から私たちが目指す理想は、サッカーのレベルが上がって走行距離も今以上に上がること。ボールが動いて、人も動く。パスをして追い越す、出てくると信じて走る。何よりも大切なのはラインブレイク。まず動き、走ったところにパスを通す。質が上がれば運動量が上がるし、コンパクトにならざるを得ません。それが理想でしょう。

横浜F・マリノスや川崎フロンターレが例に挙げられることがありますが、私は「山雅のオリジナル」を作ればいいと思っています。チャレンジすることが監督やコーチの醍醐味だし、選手も特殊感があるとやりがいを感じられると思います。山雅の名刺代わりとなるサッカーを構築し、相手を凌駕したい。判断の速さ、動きの速さ、アイデアの豊富さ、相手よりも常に一歩早く。そういうことも含めて、自分たちのやるべきことを刷り込んでいきたいです。トップチームだけではなく、アカデミーから継続的に取り組んでいかなければいけません。

そのためにはまずトップチームの選手がレベルアップして、より自信を持ってプレーすることが何よりも重要。その自信をつけるために、日々トレーニングをしています。自分たちの取り組みに対する肯定感は成功体験にも繋がるし、成功体験がないと積み上がっていきません。全ては勝つためのチャレンジ。方向性は問題なく、「山雅のサッカーはこれだ」「これをやれば勝てる」という確固たるベースを築くことが大事だと思っています。