【特別企画】下條 佳明SD一問一答 「2024後半戦に向けて」※無料配信

DoingよりBeing。どうするかではなく、どうありたいか――。昨年来、大きくモデルチェンジして新たなスタイルを構築しようとしているトップチーム。その過程でさまざまな課題に直面してきた。2024年シーズンも前半戦を終えた段階で、下條佳明スポーツダイレクター(SD)はどのように見ているのか。今回は報道陣の囲み取材をインタビュー形式でお届けする。


――霜田監督が就任して2年目のシーズン、前半戦が終わりました。ここまでを振り返っての率直な評価を聞かせてください。

システムを4-3-3に変えてから、選手たちもやりやすくなったのではないかと思います。ボールを握って主導権を持って戦うという意味では、交通整理ができて役割が明確になった。システムに深くこだわっていないにしても、選手たちの持ち味が出てきた印象を受けています。4-3-3を採用しているチームは多く、やり方はそれぞれ違うと思います。その中で山雅はすべての選手の持ち味を活かすために、4-3-3にした意味もあります。守備も攻撃もクオリティの問題はあるにせよ、今のやり方に混乱なくやれているのが現状だと思います。

信州ダービーでも顕著でしたが、チャンスとなるべきタイミングはたくさんありました。ラスト3分の1のアタッキングサードに行くまでのアシスト、クロス。いざというところのスイッチのパス。ここから一番面白くなるところでミスが起きてしまうことが目立ちました。周りを見ていないがために、落ち着けばよいところで慌ててワンタッチで動かしてしまったり。少し逆を見ておけばビッグチャンスになったけど、そこを見ていなかったり。ボールを受けに来たのであれば次のイメージを持つことが重要。僕らは外側から俯瞰しているので簡単に言えてしまうのですが、「選手のクオリティを上げる」ということは、そういうことができるようになることだと思います。

パスやシュート、クロスの精度が高いこと、ファーストタッチの置きどころがいいのも大切な要素。すべては周りを見て情報を持ってイメージを作っているわけです。その「情報の把握」がもう少しタイムリーにできれば、我々はもっとテンポアップできるし、スムーズにチャンスに繋げることができると感じています。

第19節が終わったので、現場の分析コーチを中心に傾向と対策を立てており、私自身も各種の数値を出しました。しかし例えばゴール期待値が高いからといって、それが何なのかは非常に複雑です。ゴール期待値が高いのに点が入っていないということはクオリティの問題。内容よりもチャンスを生かして点を取れれば、4-0の2試合のようなハマり方もあるということです。ただ裏を返せば、相手にもチャンスを与えて失点して、スコアがガラッと変わるケースもあります。

そう考えると、やはりディテールにこだわってクオリティを高めていくしかない。そのクオリティとは、選手個々に預けられた判断。「こうしなさい、ああしなさい」というレベルは脱していると思っているし、形、仕組み、パターンはトレーニングの中にあります。選手個々の特徴をスポイルしてしまうのはよくないので、チームとしてのベクトル合わせをミーティングなりトレーニングで刷り込んでいるところです。

そこから先は個の能力を高めていく。今年の「ツヨクナル」というスローガンに照らせば、「賢くなる」という意味もあると思います。サッカーはインテリジェンス、判断のスポーツでもあるので、そういうノウハウを知った上で何を高めるのか。僕はサッカーのクオリティの高さとは、ボールを持っていない選手の動きの質だと思っています。相手がこう出たらこのスペースが空く、そこに落ちる、出ていく。そのクオリティが、オフザボールの動き。オンザボールの選手は、そういうことが起きるから見逃してはいけない。

そのイメージができると、ファーストタッチの置き場所が変わります。右足で蹴るか、左足で蹴るか。スピードを上げすぎると周りが見えなくなるので、このスピードでいいのか。こちらが数的優位であればカウンターで人の動きを見て的確に判断する。動きのイメージを高めていくことがすごく大事だと思います。どこのチームに行っても、選手たちはそういう部分を高めないといけません。どんな戦術だろうが数的優位を作るのはサッカーの基本です。

――7勝6分6敗で9位です。この数字に対する受け止めはいかがでしょうか?

7勝6分6敗という数字を考えると、引き分けの「6」は勝てた試合も多いのではないかと思います。75分過ぎに失点をして追い付かれたり、逆転されたりする。ではどうするか。「守り倒す」という選択は、僕は後半の40分すぎからでもいいと思っています。プレーの切り方、クリアする場所。そうした細かい部分も本当はこだわってやっていければ理想的です。試合の流れを読んで、今はどちらに優位な状況で物事が動いているのかを的確に感じ、良い終わらせ方をする。そういう感覚を持たなければいけません。

今は相手が良い状態だから、あまり深追いしない。ブロックを一つ下げて耐える時間。ベンチから指示が出なくても、ピッチの選手が感じながらプレーする。齟齬が起きると、相模原戦のように間延びしてボランチのサイドを突かれるような現象が起こりますが、それはまだまだ判断に成長の余地があるということです。逆に言えばセンターバックの2人、あるいはボランチが吠えればいい。試合の流れが微妙な時間帯やスコアであれば、やはり監督の指示待ちというよりも、大声を張り上げて合わせないといけない部分はあります。

――ピッチ内での意思統一は継続的な課題となっています。どのようにそれを実現するのかというアプローチにはいくつかあって、強烈なリーダーシップを持つ選手が発信するやり方もあれば、各自が意見を持ってすり合わせるやり方もあります。今は後者を選んでいて、簡単な道のりではないようにも感じますがいかがでしょうか?

パーソナリティーがあってのパフォーマンスです。いつスイッチが入って、ポテンシャルのある選手が変貌するのか。「若い、若い」と言っているうちに、あっという間に歳を取っていきます。たとえ間違っていても「俺が、俺が」というのがスポーツでは必要で、出しゃばって頭を叩かれるほうが良いケースが多いと思います。そういう意味では途中から出てくる選手にもっと期待したいです。僕のイメージでは、エネルギーを持って流れを変えたり、ときには守り倒すために出てくる。そういう選手たちの存在感が高まっていってほしいと思っています。今のサッカーは5人交代。出場時間は短いかもしれないですけど、それぞれ役割があります。チーム戦術もあるし、試合の流れも外から見ている。それで必要になって途中から投入されるので、自信を持って役割を遂行してほしいです。

――J2自動昇格圏内との勝点差は4です。上位争いは非常に混戦ですが、27という勝点についてはどう受け止めていますか?

高いか低いかというよりは、毎節拮抗した戦いということです。1〜2試合分の勝点差に多くのクラブがいる中で、後半戦で違いを見せていくとすれば連勝していかないといけません。相模原戦は3連勝が懸かっていた中、今年に関わらず「勝負弱い」と思わせてしまう試合でした。引き分けにしても追いつかれる引き分けとか、敗戦にしても最後にやられてしまった敗戦。試合の中身よりも、引きずってしまうようなやられ方が多かった印象はあります。我々だけではなくファン・サポーターの皆さんにも「またか」という空気感が漂ってしまう。「頑張りが足りない」「球際が弱い」「切り替えが遅い」といったご意見も出ていると推察します。

その「勝負弱さ」には理由があると思います。それは単純に選手が頑張っていないとか、メンタルが弱いとか、そういう話ではないと思っています。それよりもクオリティであったり、やろうとしていることの精度を上げる。攻守にわたってコンパクトをどこまで維持できるか。それをやれば、いろんな良いケースが出てきます。攻撃のテンポを上げ、守備の奪いどころを見定めてインターセプトを増やすとなれば、キーワードは「コンパクト」。選手の距離感を的確に取る、ラインコントロールを怖がるのではなくて上げる。コンパクトというのは、効果的に守るための方法で相手に有効なスペースを与えないことです。

攻撃もコンパクトが大切です。最近は相手守備を引き付けた状態から逆サイドを突く効果的な斜めのロングパスが減っていると感じませんか。これは良くも悪くもボールをコレクティブに持てるようになって、遠いエリアに目を移さなくても目の前にサポートラインができているからだと感じています。ボランチがまめに顔を出してくれるし、サイドバックも相応しい高さ調整ができるようになりました。あとは使い分けです。サッカーはスペースとタイミングのスポーツなので、人がいるエリアをゴリゴリこじ開けたり、パスの出し入れで難しいプレーを選択するのではなく、オープンスペースにスムーズにボールを移し、そこを起点にスピードアップ。その崩しから精度の高いクロスが入れば、おそらく良いチャンスになるでしょう。

数的優位を作るために質の高いランニングを増やし空いているスペースを生かす。相手を走らせる。それがボディブローのように効いて相手を疲弊させ、終盤になれば我々がイニシアチブを取る。そうなるのが一番です。GPSのデータを見ても的確な動きが増えたことで良い意味で走行距離は減りましたしパスの本数も減りました。以前は判断が遅れて横パスやバックパスで回避する場面も多くありました。ボールポゼッション(保持)に大きなこだわりはありませんが、ボールを簡単に失わないことでプログレッション(前進)が成功してチャンスメイクできているのも事実。もっとまめにサポートポジションを取ることや選手同士の距離を的確に維持するためのハードワークを繰り返すことによって人もボールも動く我々が望んでいるクオリティに近づいていくのではないかと思います。オフザボールの動き。そのクオリティを上げていくことで魅力的なサッカーが展開されると信じています。

――「勝負弱さ」を解決するアプローチとして、コンパクトにしてクオリティを上げる、ディテールにこだわる。それを積み重ね、よりしたたかに勝点3を取る、あるいは落とさないという部分にフォーカスしていく方向性ということでしょうか?

今言われた「したたか」というのは、勝負には絶対に必要です。ただ試合終盤のしたたかさだけではなくて、狙い目を持った守備、相手に隙を見せないアラートな感覚、、二次的に起きることを予想する力もそう。こうしたことをチームの基準にしていきたいです。「大人のサッカー」というイメージが自分の中にはあり、子どもと何が違うのかと言えば、「判断の幅」と「柔軟性」です。大人は冷静沈着でバタバタせず、現象を分析して判断できる。そういう意味での大人です。手順をすべて監督が言わなくても、選手が自ら感じてできる集団になっていってほしいと思います。

今のリーグは混沌とした勝負になっていて、勝敗は紙一重です。それはJ3だけではなくJ1でもJ2でも起きているのが今の日本のサッカー。そこで安定した力を発揮するレベルに持っていくために、やはりクオリティが必要です。

――クオリティに関してうかがいます。チームが日々努力しているのは拝見して理解も共感もしていますが、そもそもクオリティの初期値はJ3の中でも高いのではないかとも感じます。それを踏まえると、「もっとできたのではないか?」と感じる部分もありますがいかがでしょうか?

霜田監督の目指すサッカーの実現にはポジション適性のあるタレントが必要で、限られた予算の中で補強をしてきました。我々は主体性を持ってアクティブに攻撃的にやろうとして稚拙なミスから隙を与えてしまうところもありました。今は自分たちの流れを作るために守備を安定させることを重視しています。失点の多いチームは優勝できないですから、これは正しいアプローチだと思っています。一方で「ボールを握ってしまえば守備をする時間も短い」というロジックも、霜田監督の中にはあります。その両方をやっていかないと優勝はできません。大量得点するよりもやはり失点を少なくしたい。すべての試合で勝ちたいし、すべては勝つためにやっているという認識は間違いありません。しかも連勝できるように。チームのパフォーマンスを高く維持できるよう、日々狙いを持って時間を費やしているということです。

――「失点を減らす」という話がありました。ゴール前での守備について決まったことをしっかり遂行することもそうですが、奪われた直後にコンパクトさを取り戻すまでの時間が長いようにも感じます。ボールを奪われたときにすぐ戻ることも含め、自分の背後のスペースに責任を持って細部を徹底するのも大事になってくるのではないでしょうか?

両方です。オフザボールの質が高まると次のプレーをイメージして、より高く出て行ったりする。そこでミスが起きると、ライン間にギャップができていることがあり相手が出てくるスペースを与えることになります。稚拙なミスはしないでほしいですが、相手にボールを奪われたときのリスク管理も想定し頑張って全体が連動したいものです。危機察知をした人間が大きな声で指示するとか、個々の判断力を上げないといけません。相手のカウンターにスプリントバックはできるようになりましたけど、的確に戻るべき場所にスプリントバックしているかどうか。まだまだクオリティを上げる余地が大きいです。素早く切り替えて戻ってきたけどそこではなく、相手を挟み奪えるところに戻ってきてほしい場面はよくあります。そういうことを言うとキリがなくなるんですが、そこも判断のクオリティの問題になってきます。

――できることが多くなっているのも事実としてあるとは思います。選手の意識や質が少しずつ高まってきている中で、ここから巻き返して昇格を狙えるという感触はありますか?

勝った負けたは当然ありますが、パフォーマンスはワンランク上がったと思っています。これをさらに磨きたい。クオリティに天井はありません。システムとか形だけでは勝てないですけど、やり方を共有しスピーディーに事を進める上ではそれがないと勝てません。だけどもっと大事なことは、やり方を共有した後にそれぞれが感性を研ぎ澄まし、流れを読むことも含めて集中力を途切らせないこと。それをやることで後半戦は絶対に勝率は上がると思います。

システム変更にもチャレンジし、判断の柔軟性も加わり、幅広い戦いができるようになりました。コンビネーションプレーも増え、チーム全体として目を揃えることが当たり前となってきました。そんな手ごたえを感じているせいか、選手のコメントもポジティブなものが増えてきたと思います。チームにはそのような空気感が大事だと思っています。そこに結果を伴わせていくことが今季の後半戦ですごく大事なことだとあらためて感じています。