【試合展望】第38節 沼津戦 ※無料配信
愛鷹はユメがたどり着く場所だ。
2024年J3最終第38節、舞台は沼津。J2昇格プレーオフ進出が確定したとはいえ、松本山雅はもう一度ホームに帰らねばならない。そのためにはリーグ戦のフィナーレも白星が必須。街に寄り添って歩んできた今季のストーリーは、アウェイの地を緑に染めて一つのピリオドを打つ。
ユメはまだ終わらない
リーグ戦最終節で5連勝を
数えたらキリがないほど、いろいろなことがありすぎたシーズンだった。
白星が続かず、金沢では大量6失点した。岩手では6ゴールを奪いもした。激しく感情をぶつけ合ったり、勝利の喜びに浸ったり。それらの全てが、汗と涙が、「57」という数字に凝縮されている。そしていろいろな出来事がありながらも、「J2昇格」という目標だけは誰もが共有できている。
確定しているのは4〜6位。プレーオフは「上位チームのホームで戦う」「同点なら上位チームの勝利」というレギュレーションの一発勝負だ。現状で4位につけている山雅は、次節で勝ってこの順位を維持すれば、準決勝はホーム開催。サンプロ アルウィンに帰ることができる。
ホームで勝つことがどれだけ大切か。長く在籍している者には、その意味が骨の髄まで染みている。在籍11年目を迎える最年長GK・村山。「一発目はやっぱりアルウィンで戦って、勝って町全体を巻き込んで盛り上がりたい。そのためにも次は勝たないといけない」と力を込める。
山雅は本来、松本の街とともに歩んできた。
9年前の2015年には、クラブ初のJ1を経験もした。しかし2020年以降、ふがいないパフォーマンスと苦い結末が続き、少しずつサポーターの足は遠のく。閑散としたスタジアムに憤怒が渦巻いたことも一度や二度ではない。
しかし今回ようやく、J2昇格の可能性を残して最終節を迎える。もちろん4チーム中1チームしかラストチケットは与えられないし、残り3チームは望みが断ち切られる。松本山雅はまだ、何も勝ち取ってはいない。
「ホーム最終戦で9000人ちょっと。僕としては少し寂しかった」。往時を知る村山の胸中にはそんな感情が去来していた。人が去ってしまった危機を救えるのは、ピッチの舞台に立つ選手たち。そこで見せるパフォーマンスが人を惹きつけ、仲間が増え、物語が紡がれていく。
それをわかっているからこそ、土俵際でチームはまとまった。
もともと今季は、足元で繋ぎながら崩していく手法を前提に集まった面々。それでも今は、自分がやりたいことを脇に置いてでも戦う。実際、山本康裕は「技術や戦術以外のところで勝負が分かれることもある。そういう世界である以上、『気持ち』は大前提として持っていなければいけない」と話す。
今はそれが、勝利へとつながる唯一の道。「どのように勝つか」は、この期に及んでこだわるべき点でもないだろう。その覚悟を決めた表情が、日々の練習会場にはそろっている。あと3試合勝てばJ2。「全員で勝つ」ためのリーグ戦最終節だ。
「あと1試合、沼津でしっかり勝ってホームで戦う。その時にたくさんの人に応援してもらえるようにやっていくしかない。街の熱量や支えてくれる人たちの熱量は選手に間違いなく伝わるし、それが勝つための原動力に絶対繋がる」。村山はそう力を込める。
声援、チャント、拍手、旗。日常から受ける熱い激励。ファンサービスであるはずなのに、逆にもらう活力。それらも含めた全てが、松本山雅に欠かせない大切なカケラたちだ。取材の最後、村山が口にした言葉が全てだろう。
「みんなでまた昇格したい」
みんなで歩いた軌跡の果てに、リーグ戦のフィナーレを飾る愛鷹へ。
ユメはまだ終わらない。