【試合展望】J2昇格プレーオフ決勝 富山戦 ※無料配信

初冬の富山に、常若の緑が結集する。

2024年シーズンの最終章、J2昇格プレーオフ決勝。山雅はリーグを3位で終えた富山のホームに乗り込む。アウェイ富山はJ3を舞台にした2022年以降3回とも大量失点で黒星を喫しているものの、事ここに及んで過去の戦績は関係ない。

「あとひとつ」の勝利を、「みんなで」つかむ――。どれだけ不格好でもいい。求められるのは松本山雅のエネルギーを全てその90分間に注ぎ込み、スコアで上回ることだけだ。

サポーターが吹き込む無限大の力
終盤戦の「劇場」で浮き彫りに

5連勝の猛追、そしてプレーオフ準決勝の勝ち上がり。10月26日のニッパツ三ツ沢球技場から始まった快進撃を通じて、改めて浮き彫りになったことがある。

松本山雅はやはり、サポーターも含めて「みんな」である――ということだ。

三ツ沢に約1,300人、リーグ戦最終節の沼津には2,700人。そしてプレーオフの福島戦は、サンプロ アルウィンに12,000人超のサポーターが押し寄せた。

その声援はスタジアムを完全なるホームの絶対空間とし、選手の背中を力強く後押しする。たとえアウェイであろうとも、緑の劇場に様変わりさせていく。

そうやって、5連勝+αを勝ち残ってきた。

「街の熱量だったり支えてくれる人たちの熱量は選手に間違いなく伝わるし、それが勝つための原動力に絶対繋がる。みんなでまた昇格したい」

2014年、18年のJ1昇格を経験するGK村山智彦はそう力を込める。このクラブにはおそらく、ピッチの中と外に2つのエンジンが存在している。どちらか一方が機能不全に陥れば船を進めることは難しく、逆に噛み合えば無上の推進力を発揮する。

「これだけのサポーターが応援してくれる。僕のゴールで『泣いた』と言ってくれる人もたくさんいる。そういう人たちと一緒に上にいきたい」

リーグ戦最終節で劇的なミドルを決めた安永玲央はそう話す。

「みんなで昇格しよう」

実際に選手の間でも、こうした発信が増えてきたという。その熱源は村山だけでなく、山本康裕や高橋祥平、橋内優也など実績と経験を持つベテランたち。その言葉が、瀬戸際のチームを繋ぎ止めてきた側面もあるだろう。

そしてプレーオフ準決勝。特に後半は、声援がサンプロ アルウィンを絶対的な空間に変え、その勢いから“決勝点”となる同点弾が生まれた。

最後尾からチームを支えたGK大内一生は明かす。

「(福島は)明らかにアウェイ感とプレッシャーを感じたと思う。『サポーターの力ってこういうことなんだ』ということを改めて感じた。力強さも声量も含め、本当に+1人で戦っているのを感じる」

最前線でプレスに奔走した安藤翼も同調する。

「勝つごとに人が増えて熱量が高まってきた。チームの勢いっていうのはサポーターにもらったものだと思うし、12番目の選手の偉大さを感じた。(プレーの背中を押されるような)ああいう感覚は正直、初めてだった」

それを富山の地でも示すのみだ。ただし、アウェイ富山は「鬼門」そのもの。圧倒的なスピード感でJ1昇格を果たした2014年でさえ、2-3と敗れている。

そして富山は今季、ホームの戦績が11勝7分1敗。勝点を得ている確率は――つまりプレーオフ上位チームのレギュレーションに照らせば、実に94.7%となっている。

最終ミッションにふさわしい、難攻不落の砦だ。

2014年11月1日に明暗分けたクラブ
J2昇格を希求する「思い」が激突

そして富山も、アドバンテージを最大限に生かしながら必勝の構えで臨んでくるだろう。そもそも山雅は3年だが、富山はJ3降格1年目の2015年から実に10年間、J3で戦い続けてきた。

最後にJ2でまみえたのは2014年。第10節はMF中島翔哉らに3点を奪われて敗戦。山雅にとってはこれが、J1昇格を決めるまでに喫した最後のアウェイ黒星だった。

2014年J2第10節のアウェイ富山戦。この試合も山雅サポーターは約2,000人が訪れた

その年の第38節、ホームで再戦した際には白星を挙げた。富山はDF前貴之、MF白崎凌兵、FW宮吉拓実などが先発していた一戦。富山にとってはこの一敗が、J2残留を難しくした。

そして次の第39節。山雅がレベルファイブスタジアムで昇格の歓喜に沸いたのと同じ11月1日、富山は22チーム中最下位での自動降格が決まった。

2014年11月1日、J1昇格を決めた山雅。同日、富山は前貴之のゴールで栃木に勝ったもののJ3降格が確定した

あれから10年。

山雅はJ1に2年、J2に5年、そしてJ3に3年いた。その間、富山はJ3から再びはい上ろうともがいてきた。ずっとだ。風雪に耐え、フットボールの命脈をつないできた。ようやく「あとひとつ」まで来たのは相手も同じだし、リーグ戦とは異なる一発勝負。そこに全てを懸けない者などいるはずもないだろう。

2022年J3第32節、大量4失点を喫して痛恨の黒星

つまり、だ。

松本山雅はそうした相手の本拠地に乗り込み、上回り、勝利をもぎ取り、凱旋しなければならない。生半可な覚悟では結果など到底得られない。心技体すべてを鋭敏に研ぎ澄ませ、90分間のパフォーマンスを追求するのみ。泥くさいセカンドボールの拾い合いになるかもしれない。フィジカル勝負の要素も大きいかもしれない。

2024年J3第11節のホーム戦は3-1で勝利を収めた

それでも最後は、信州松本が快哉を叫ばねばならない。

“全ての想いをその脚に込めて、闘おう山雅”

「あとひとつ」の勝利を、「みんなで」つかむ――。12月7日のスタジアムは、そんな場でありたい。