【試合展望】第5節 長野戦 ※無料配信

世の中には2種類の信州人がいる。
一方は信州ダービーに来る人間、もう一方は来ない人間だ。

断言しておこう。

万障を繰り合わせてサンプロ アルウィンに駆けつける人間には、極上の体験が待っている。13,580㎢ある信州の中で、そこだけで演じられる緑の劇場だ。

熱狂、感動、興奮――。

そうした言葉では到底収まり切らない空間。いわば、そこが「松本」という概念そのものでもある。そして最後は、松本山雅が大勝利に沸くだろう。

2022年以降11回目の対戦。
新鮮味はすでになくなった。

「もうダービーはいい」
「どうせ今回も勝てない」
「コンテンツとして陳腐化した」

そう感じる向きもあるかもしれない。そもそも、背を向けられても不思議でないほど低迷が続いて今がある。

だからこそ強調しておきたい。

今回ばかりは、来て後悔することはない。11回目の顔合わせにして、オレンジを圧搾する最大最高のチャンスが到来したのだ。

それはなぜか――。
対戦実績が積み上がったからこそ、明確に言えるものがある。

本来の力関係を示す千載一遇の好機
走り、戦い、身体を張り、ただ勝利へ

最大の根拠は、そのスタイルの違いにある。

早川知伸監督が率いる松本山雅は、「ベース」を大切にする。

走る、戦う。
身体を張る。
最後まで諦めない。

言葉にするのは簡単だし、言うだけなら昨季までもそうしてきた。しかしそれを実現できるかどうかは、伝える強度と頻度、そして練習のオーガナイズに尽きる。その繰り返しだけが強靭な組織を生む。

今季はそれが毎節のように強調され、そうしたトレーニングも組み込まれている。

気付いているだろうか。シーズン当初は65分過ぎにピタリと止まっていた脚が、今は止まっていない。鈍るにしても、その時間帯はもっと遅い。蓄積が少しずつ、ピッチに表れ始めている。

FKのカベに入って顔を背ける者も、半身に逃げる者もいない。いても、ピッチに立つ資格を有さない。シュートブロックは鋭く、戦術行動は忠実に。そうやって勝利へと至る。

この手法は「変数」が少ない。相手がどうであれ状況がどうであれ、下ブレしづらい。コンディショニングさえ間違えなければ、走れていた人間が急に走れなくなることはない。

ひるがえって、長野。

藤本主税監督の元で志向するスタイルがどうであるのか、県選手権決勝で目の当たりにした人も多いだろう。変数は多く、クオリティが問われる。それをアウェイのダービーマッチというシチュエーションで、誤差を許容範囲に収めて遂行できるだろうか。

もちろんその可能性はゼロではない。

ただし、就任1年目でスタイルの大きな変革に挑んでいる最中。時あたかも、5月中旬――。

ここまで書けば、勘の良いファン・サポーターなら気付くだろう。2023年アウェイで松本山雅が完敗したシチュエーションに、極めて酷似しているのだ。

やることを大きく変えるだけの可塑性はまだ備えていない。かなぐり捨てる段階でもない。つまり、「やってきたことを出す」のが常道となるし、ドッグファイトや蹴り合いに持ち込んでくるならそもそも優位。それも県選手権で実証済みだ。

実際、過去10回の顔合わせを全て思い返してみれば、ほとんどがハイインテンシティの肉弾戦となっている。そして勝った4回は全て、強度と気迫でまさって押し切った。

もちろん戦術的な要素も介在はするが、大勢を決めていくのは球際とセカンドボール。その意識を普段から「ベース」としているのは、早川監督が率いる松本山雅だろう。見せかけのメッキは90分も経たずに剥離する。

さて。
世の中には2種類の人間がいる――と書いた。

今回の信州ダービーがあることを知りながら、そして行ける状況にありながら、足を運ばぬ人生も存在はし得る。

しかしそれは、選挙権を有しながら投票所に行かないようなもの。緑のともがらが一人また一人と増えるごとに、大勝利の可能性はいやが上にも増すのだ。

確かに、気疲れはするだろう。

信州人は総じて温厚で、感情をむき出しにするのは慣れていない。特に、黒い感情を発露した後は一気に疲れる。それが過去に10回あり、厭戦ムードに覆われつつあるのも理解できなくはない。

であればこそ、今年で終わらせるべきではなかろうか。

黙らせる千載一遇のチャンス。緑に染め、勝ち、上昇気流に乗る。そして一顧だにせずとも済んでいた以前の環境を取り戻す。カテゴリーの違いがすでに、戦わずしての勝利。「KING OF 信州」を取り戻した県選手権に続き、今回はその力関係を正常化するための戦いでもある。