
【一問一答】横関 浩一代表取締役CEO ※無料配信
――4月21日の定時株主総会と臨時取締役会での承認を経て、代表取締役CEOに就任されました。その受け止めと抱負をお聞かせください。
大変な重責を拝命したと受け止めております。 (第15期決算まで)3期連続赤字だったということもあり、フットボールだけでなく、経営面においてもの早期の改善が至上命題であると捉えています。
――CEO就任にあたって周囲からもさまざまな声があると思います。率直にどんな心境ですか?
大役に対して真摯に向き合わなければならないという気持ちが大きいです。一方でフットボールだけでなく経営面においても、何ができるのかを試されていると思います。皆様の期待値を上回り、不満や不安を解消することが仕事だと思っています。
それがフットボールなのか、フットボール関連の事業なのか、社会課題なのか。いろいろな方向から追求していきたいと思います。どこまでできるのか、身が引き締まる思いです。
――CEO就任の打診を受けた時期と、即答だったのかをお聞かせください。
時期に関しては、昨年からどのような役員体制にするか、社内で議論してきました。今回の役職(CEO就任)に関しては、結論に至ったのは年をまたいでからです。指名・報酬委員会からの評価と査定もありました。そのフローを経過してからの話になりますので、個人として即答した。という感覚はあまりありません。
――今までは「社長」という役職名を用いてきましたが、今回からCEOになりました。より役割を明確化したい狙いもあったのでしょうか?
おっしゃる通りです。ビジネスタイトル(肩書き)は重要かもしれませんが、それ以上にどのような役割をやり切れるかが重要だと考えます。また、小澤(修一・代表取締役CRO=前代表取締役社長)の意見も尊重した部分もございます。20年来クラブに関わっています。故に松本山雅が大切にしなければならない考え方や変えてならない価値観もあると思いますので。また、今までの歴史や人への敬意だけでなく、この地域に根ざしている文化や期待があると思います。その上で役割を全うするために、どのようなビジネスタイトルがいいのかを議論してきた結果になります。
――CEOとCROという2人体制は、今後に体制変更が生じても継続される可能性はありますか?
変化の激しい外圧に適用することを考えると、CEOやCROという役割だけでなく、長期的に同様の役員体制が維持されることは現実的ではないと考えます。
――第16期(2025年2月-26年1月)は前期より売上高が7400万円余増加し、4期ぶりの黒字化を達成しました。どのような背景がありましたか?
ステークホルダーのみなさまのおかげだとお伝えしたいです。 株主、パートナー、ファン・サポーターなど、さまざまな形でサポートいただいた結果だと思います。
コスト面では、適正なコストを探し出すことは簡単ではありません。ただし、一定水準でのコスト削減には努めました。 一方で、チーム人件費は減少傾向ですので、もう一度押し上げ直す必要があると考えています。そのためには売り上げの拡大は避けて通れない――という順番です。
過去を振り返ると、3期連続の赤字に関してはJ3からの脱却に向けて予算組みを行った結果、赤字になってしまった部分もあると思います。
売上を拡大させ、チーム人件費を適切な金額でセットするという順番に変えていかないと、いつまでたっても赤字経営は脱却できません。ただ、どこかのタイミングでは赤字になってでもフットボールに注力し、赤字と向き合う必要はあるかと思います。そのタイミングと投資金額が適した判断なのか、大きなポイントになると思います。
――どうしても経営面はトップチームの成績に左右される部分もあると思いますが、黒字化だけでなく売上高も前期に比べて増えています。そこにはどんな創意工夫がありましたか?
おっしゃる通り、営業売上に関しては、トップチームの成績も一つの要因だと考えます。ただ、営業売上を一つずつブレイクダウン(詳細な分析を)していくと、法人営業は前年から104%超を達成することができました。 これは社内の営業担当の功績でもありますが、パートナーの皆さまに支えられた1年だったと思っています。
一方、オフィシャルパートナーの課題解決に貢献し、対価を受け取ることができているかというと、まだそこまでには至っていない部分もあると思います。本来的には対価をいただくにあたって、何らかしらの課題を解決しなければならないと思います。
物販(主にグッズ販売)は2期連続で予算及び前年比達成ということで、商品に対する多様なニーズをとらえながら、適切なロット数の発注・管理など徐々に精緻化されてきているのではないかと思っています。
入場料収入に関しては、外圧が大きすぎた一年でした。(サンプロ アルウィンの)鉄骨部材の落下に伴い、(サンプロ アルウィンでの)ホームゲームが4試合できなかったことは大きかったです。結果的に予算を達成することはできなかったですが、未達を最小限にとどめられたことは、関係者のみなさまのご理解・ご協力のおかげだと感じております。
分配金に関しては降格に伴う救済期間が終了し、昇格・降格がない今のタイミングで回復することは容易ではないと思っています。
――コストの適正化に関しては、どんな形を取られたのでしょうか?
コストの削減に関しては、お伝えしづらいことがあるのも事実です。トップチームの経費に関しては、ある一定水準の金額を削減したことは事実です。
具体的な数字として、約1.5億円のコストを削減いたしました。約1億円はトップチームに関わる部分ですが、約5,000万円はトップチーム以外の部分でコスト削減しながら売上を拡大しています。今後はトップチームに関わる費用は、もう一度増加させなければなりません。こちらは何よりも最優先となります。
――前期はチームの経費もホームゲームの運営費も削減されています。削る割合はどのように決められたのでしょうか?
決定フローとしては、多くの指標があり、一言で容易に説明することは難しい部分があります。
少し長くなり恐縮ですが、固定費はJ1時に拡大したことは事実です。拡大した固定費の削減には努めておりますが、劇的に削減することは簡単ではありません。故に変動費は非常に重要な数字となります。
もう少し具体的にお話しさせていただきますと、変動費をどの水準で予算化(投資)し、売上目標をどのレベルに設定するかが重要になります。例えば、現在であれば変動費は5億円(〜6億円)程度です。売上を変動費の3倍を目指すとするならば、売上は15億円程度となります。15億円から5億円(変動費)を引いて残りは10億円となります。チーム人件費以外の固定費は(近年平均値)4億円程度必要となります。結果、収支均衡程度を目指すのであれば、6億円がチーム人件費のアッパー(上限)です。6億円以上使うと、どうやっても赤字になります。
売上から変動費を引いて、さらに4億円(トップチーム人件費以外の固定費)を引くとチーム人件費になる。チーム人件費に対してプラスマイナスが出ると、利益にもなるし損失にもなる。そうやって自分の中での感覚値(概算数字)を算出し、コストを削減する方向を検討しています。
――現在のJクラブの経営には高いビジネススキルが求められているというコメントもありました。具体的にはどのようなことが求められていると感じますか?
結論としては、領域問わず各領域の専門性が必要だと思います。
一方、スキルではないですが、企業にとって、結局は人の育成や採用は大きな課題です。 社内でよく伝えている部分として、人の不満や不快、不便を解決すると、対価を得ることができる。松本山雅FCというサービスに対して、皆さまが不満や不快をお持ちの部分として「勝敗」や「フットボールに取り組む姿勢」に対して、ご意見を頂戴することがあります。もしこのような課題を解決することができれば、対価をお支払いいただける可能性は高まると思います。
一方で、フットボールの結果だけに100%依存するのではなくて、パートナーの皆さまが抱えている課題の解決や、投資に対する効果・効率と向き合う必要もあると思います。
――現在の松本山雅の企業体質に課題やテコ入れしなければいけない部分があると捉えていますか?
一般的な中小企業と同じだと思っています。昨今は人材の育成や獲得が難しくなっています。その中で人材の育成にリソース(時間や資金)を投資しなければなりません。採用に関しても本当に大きな課題だと思っています。
人材に関して十分と言い切れる中小企業は少ないと思います。弊社も育成や採用を通じて改善が必要だと思っています。また、今回の役員の任期は1年5カ月となります。次のタイミングを含め専門性の高いプロ人材を外部から招聘するのか、もしくは社内人事として投与するのか。そのあたりも大きな課題ではないでしょうか。
――中長期的な視点で考えた場合、CEOとしてやらなければいけないことは何だと考えていますか?
1つ目は、2024年から最低でも10年後に、1. 5倍から2倍の経営基盤を築かなければならない。
2つ目はフットボール及び経営規模において「TOP30(60クラブ中)」に一刻も早く到達すること。
3つ目は収益の面において、圏外収益。商圏のみでの収益に関しては、いつか限界値を迎える可能性もあります。圏外収益はここ数年で27%から32%、5ポイント程度アップしていますが、その拡大に関しては非常に大きなウエイトを占めてくる可能性があります。
4つ目は新収益です。Jクラブ平均としての入場料の平均値は約4億円強ですが、その他収益はもう5億円を超えてきています。平均値ではありますが、入場料収入よりもその他収入のほうが大きくなってきています。われわれとしては新たな収益源を探さなければならないというところで、今までとは違った能力が必要になります。
5つ目は地域への貢献であったり、関係人口の増加であったり、非財務的な価値をどうやって可視化しマネタイズするか。これも早急に検討が必要です。
――経営基盤の拡大については、なぜ2024年から数えるのでしょうか?
Jリーグの野々村(芳和)チェアマンが初めて「10年間でJクラブの経営規模を1.5倍から2倍に」と発信したのが2024年末だったと記憶しております。J1はここ数年で150%程度、J2で130%程度、J3で180%程度、経営規模を拡大しています。
故に、2024年から10年間で経営規模を1.5倍から2倍にすることが求められていると認識しております。そうなるとおおよそ105%程度で10年間成長を繰り返すと、1.6倍程度になります。そう考えると(毎年)105%程度の成長は経営として必要になってきます。
Jリーグの成長スピードに沿う形で連続的に成長した場合、2024年から2034年の10年間で22億円程度になります。同規模に到達しない限りJクラブとして存続することが容易ではない可能性があります。
もちろんカテゴリーが上がれば売上も増加します。ただ、思考停止的にサッカーの結果に依存するのではなく、自助努力も含めベースアップした上でカテゴリーアップしないと、Jクラブ全体の成長に追いつかないのも事実だと考えています。
――J1では親会社の資本で成長を遂げているクラブもあります。先ほど圏外収益という話もありましたが、これまでに接点のなかった分野や企業へのアプローチも考えていますか?
「けんがい」と言うと「長野県外」にフォーカスされがちですが、長野県内でも未着手な領域であれば圏外と考えております。地理的に県内・県外という意味ではなく。例えば、社会課題の一つとして、自治体は部活動の地域移行と向きあっています。これは今まで松本山雅にとって圏外でした。
必ずしも首都圏に行かなければならないということではなく、事業領域としての圏外であれば、11のホームタウン、もしくは長野県内でも大きな可能性があります。もちろん長野県外に出ていき、チャレンジすることもあるかもしれません。
――第17期は5カ月間での予算組みとなりますが、本格的な予算組みは第18期からになりますか?
本来、1.5カ年で予算をみていく必要があると思います。ただし、ステークホルダーの皆様に向けて短期的な説明も必要です。それはわれわれに求められていることですが、事業の成長としては1.5カ年として見る方が、経営の安定に寄与できると考えます。付け加えるならば、2026年7月から2027年6月の1年間に関しては、105%以上(の成長)を目指していく必要があると思っています。
――応援する方々の幸福度を高めるという意味では、数字で測れない側面もあると思います。そこに対するご自身の価値観やアプローチというのは、どう考えていますか?
「応援の声量が勝利に対して大切」という意味の言葉が、アルゼンチンのサッカー業界や日本のプロ野球業界から聞こえてきたことがあります。日本の野球業界では観客の声量を測り、それが勝利に結びつくかを分析しているというお話も聞いたことがあります。
声量やパッションというのは、お金で買えるものではありません。松本山雅は例年、サポーターミーティングや意見交換会を3回から4回実施しています。2026年1月期は17回程度開催しました。結局、最後は人と人が共感できるかだと思います。
熱量が高まるかは、接点をいかに作って共感してもらえるかが重要です。数字で測れないものを創出するためには、効率性を重視するだけではたどり着けない時もあると思います。達成しなければならない数値的なものと切り分けて議論が必要だと思います。
別の視点として、非効率かもしれないけどやらなければならないことはたくさんあると思います。ただし、全ての非効率な活動や不採算事業を推進することは容易ではないと思います。経営判断としてストップをかけるものもあれば、さらにアクセルを踏むものもあり、そこは判断だと思います。
――今季の(明治安田J2・J3)百年構想リーグは、選手もスタッフも大きく入れ替われました。ご自身の目からはどう映っていますか?
トップチームの変化は本当に素晴らしいと思います。但し、現状についてお話しすることは難しいと思います。百年構想リーグは、世代交代を推進している、戦術の落とし込みに特化している他クラブがあると思います。言い換えれば、他クラブと松本山雅を比較するには、時期尚早且つ不確定要素が多々あると思います。
株主総会ではスタッツも紹介させていただきました。昨年の1対1の勝利数は 、J3の20チーム中最下位に近しい順位で推移してきました。今年は40チーム中でトップ3前後を推移しています。
――8月から始まるJ3は、昇降格が関わってきます。今後に向けて、トップチームにはどうあってほしいと考えていますか?
規範的であってほしい、タフであってほしい、クリーンであってほしい。もちろん重要だと思います。一方、勝利に貪欲になる必要があると思います。(負けは)結局は誰かの不満や不快に繋がってしまいます。われわれのステークホルダーの多く方は勝利を求めていると思います。そうなると、サービスを提供する側としては勝利を提供する義務があると思います。
スタジアムを歩いていると、「勝てなくても試合に真摯に向かって、タフに戦ってくれることをわれわれは望んでいる」とご意見を頂戴することもあります。そのように言っていただけるのはありがたいですが、そこは土台だと思います。土台の上に勝つというものを乗せていかなければならない。さもなければステークホルダーの満足度や気運が高まらない可能性があるのも事実だと思います。
――4代目の経営トップという立場になりますが、どのようなステップを歩んでいると感じますか?
(経営規模を)10年後に1.5倍から2倍にするという数字にひもづく部分になりますが、収益に関しては飛躍的な10年間の基礎を作らなければならないと考えています。収益源を新たに開発するのか、既存領域をさらに改善するのか、ということです。
一方でフットボールに関しては、根本的な変化があったかもしれません。もう少しブレイクダウンすると、Jリーグインターナショナルとも連携し、「ポゼッション(率)が高い・低い」、及び「プレッシング強度が高い・低い」という4象限に注目しました。2012年以降、「主体的なボール保持」および「高強度なプレッシング」を安定的に実現できたシーズンは限定的であったと分析されております。
2022年以降はこの4象限に対して、ポゼッション側に少し偏重したように感じられた方もいらっしゃると思います。あくまでも他チームの実績となりますが、ポゼッション側に偏重し、J2に昇格したチームはほとんどありません。将来的なことを見越してそちらを選んだのは事実です。ただ、J3を最短で脱却することを考えれば、他のルート(手法)を選定すべき必要があったかもしれません。
(明治安田J2・J3百年構想リーグに向けて)プレッシング強度の高い方向に、監督及び選手の編成を行ったことも事実です。
――トップチームは強化責任者の都丸善隆スポーツダイレクターもいる中で、どのように関わっていく形になりますか?
ご存知の通り、スポーツダイレクターは「今後の選手契約」、「フットボール戦略・哲学立案と執行」、「育成・移籍を通じて収益戦略・管理」など、様々なタスクが存在します。一方、最高責任者として、「フットボール事業における事業戦略の承認と執行」「フットボール領域における予実管理」「長期ビジョンの立案と執行」など、スポーツダイレクターと連携し、役割を果たしていく必要があります。
一方、スポーツダイレクターや最高責任者以外にも、株主、取締役会、監督、それぞれの役割、説明責任、監督対象についても明確にしております。
また、最高責任者として、ファン・サポーターを含めた全てのステークホルダーへの説明責任を果たす必要があると考えております。
――ステークホルダーの不満や不快を解消されたいとの話もありましたが、それはご自身のキャリアから導き出した考え方なのでしょうか?
松本山雅に入社する前から自分の中で大切にしていたものだと思います。事業会社で食品の開発に関わった時、なぜこの商品を買ってもらえるのか。言い換えるとなぜ対価を払ってもらえるのかを考える機会がありました。味が他の商品よりも美味しい、持ち運びに便利、健康に寄与するなど、結局誰かの何かの不満を解決する時に、初めて対価を受け取ることが成立することを体験したことが非常に大きなポイントだと思います。
もちろん松本山雅に関わる多くの方は、勝利を求めています。敗戦が続けば不満・不快が発生することは明らかです。対価を得るためには、フットボールの領域で勝利を提供することが重要だと思います。商材は違いますが、不満や不快を解決する商品やサービスが、対価を得るためには非常に重要だと思います。
――ご自身は一度サッカー業界から離れて、もう一度戻ってこられました。そこはどんな心境がありましたか?
プロサッカー選手としてうまくいかなかったというバックグラウンドがあります。サッカーからとにかく離れたいと思っていました。サッカー界から離れた理由は、見返したいという気持ちがあったかもしれません。故に、仕事としてサッカーに関わりたいという気持ちは全くありませんでした。
価値観に変化がおとずれたきっかけは、前職から飛び出し、海外での経験や事業会社での新しい刺激が大きかったと思います。また、(松本山雅に)入社するきっかけは八木(誠・元副社長)さんです。2004年に八木さんからクラブに呼んでいただき、それ以降はずっと連絡を取っていました。松本山雅との縁を繋いでくれたので、感謝しています。
――これから松本山雅をどんなクラブにしていきたいと考えていますか?
社内では「地域の活力になる」という言葉をよく使います。試合に勝てば楽しい気持ちで月曜日をむかえられるという言葉をファン・サポーターからよく聞きます。また、地域貢献活動を通じて喜びを感じてくださるステークホルダーも存在します。フットボールだけでなく、地域の皆様の喜びや生きがいにつながるクラブとして存在していければと思います。
――趣味はありますか?
趣味は仕事か、家族と一緒にいる時間ですかね。家族と一緒にいる時間はなんでも趣味で、できる限り時間を割きたいです。


