コラソン試合レポート 第3節 清水エスパルス戦

開幕戦を名古屋エスパルス相手に引き分け、次戦はサンフレッチェ広島に惜しくも敗退。何としても勝ち点3が欲しい松本山雅、第3節の対戦相手は清水エスパルス。開幕戦はホームであるIAIスタジアム日本海で鹿島アントラーズと対戦し31で快勝。第2節は新潟と引き分け、負けなしでこの試合に臨む静岡を代表する古豪だ。

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この一戦、僕なりの注目ポイントを挙げておこう。先ず見逃せないのが、清水の9番長沢選手と13番犬飼選手の二人。熱烈なサポーターの皆さんには改めて説明するまでもないが、長沢選手は一昨年まで、そして犬飼選手は去年まで山雅に所属していた選手だ。松本山雅がJ1に昇格するための力となり、貢献してくれた二人とピッチ上で相対することになるわけだ。長沢選手は山雅在籍時、常時スタメンではなかった。しかし、自分を成長させようとする意識が非常に強かった。だから、たとえスタメン・途中出場に関わらず山雅の厳しいトレーニングに挑み、自分というものを高めようとしていた姿が強く印象に残っている。

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もう一人の犬飼選手は、一昨年、僕がヒザ手術のため4か月間で戦線を離脱しなければならなかった時に加入し、ポジションを掴んだ選手。去年に関しては、完全にレギュラーとして定着し山雅のJ1昇格に貢献した選手の一人だ。犬飼選手も成長しようとする気持ちがとても強かった。ポジションも僕の横だったため、精神的な面を中心に積極的に質問してきてくれたことを覚えている。個人的には、彼ら二人が山雅で頑張っていた姿も近くで見ていたし、体力的にも精神的にもサッカー選手として成長していく姿も見ていた。だから思い入れもあり、清水エスパルスに戻った今年も応援している選手たちだ。

サポーターの皆さんも、彼らが山雅に貢献してくれた姿を目にしていただろう。そんな選手たちが競い合う一戦。かつてのチームメイト同士が戦う姿を見ること自体はサッカーではよくあること。でも、J1の公式戦という舞台が興味深く感じられたと思う。

次に戦術面を。清水エスパルスは、右サイドにいる11番の村田選手がチームにとってのストロングポイント。山雅としては、彼を何としても抑えたい。この成否が勝敗を分けるだろう。

そして午後2時。2万人近い観客で埋まったIAIスタジアム日本海にホイッスルが鳴り響き試合開始。

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前半の10分間は、山雅・清水ともお互いに慎重な立ち上がりとなった。

そんな中、13分のプレー。ロングスローをしてくると思われた相手の裏をかき、スローインを短くつなぎ8番岩上選手が右足でクロスを送る。そこで待っていたオビナ選手が、ワントラップして振り向きざまにシュートを打ちゴールネットを揺らした。山雅、先制か!? …と思われたが、これはオフサイドの判定。少し分かりにくかったかも知れないので、ちょっと説明しておくと…この場面、ボールを受けた時にはオビナ選手はオフサイドポジションではなかった。だから、このオフサイド判定に「何で?」と思われた方も多いかも。でも、オフサイドというのは、オフェンス側がボールを蹴った瞬間にチームメンバーがオフサイドポジションにいれば成立する。この場面で言うと、岩上選手がボールを蹴った瞬間、オフサイドポジションにいたオビナ選手はオフサイドとなる。(相手ゴール前から自陣側に戻る、いわゆる「戻りオフサイド」)。意外と知られていないルールですが、この辺が分かるともっとサッカー観戦も楽しくなると思います。

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さて、オビナ選手のこのプレー。オフサイドとはなったが、非常に難しいプレーだった。あの浮き球をトラップし、振り向きざまにゴールに流し込む技術には改めてオビナ選手の能力の高さを感じさせる場面だった。

そして迎えた18分。6番岩沼選手のスローインから9番オビナ選手が起点を作り、相手を一人吹き飛ばし、8番の岩上選手へとパス。そのボールを受けた岩上選手が、相手ディフェンスラインの背後に浮き球のスルーパスを出す。それに反応した14番池元選手が柔らかい右足のタッチでゴールに流し込もうとした。しかし、そのシュートは清水GK杉山選手のセーブに遭う。そのこぼれ球に、なんとなんとなんとッ!走り込んでいた山雅の4番飯田選手が右足でゴールに流し込み、1点を先制。

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この得点の場面、僕は二つのポイントがあったと思う。一つは、ワントップツーシャドウを組む今季新加入のオビナ選手と池元選手、そして既存戦力の岩上選手。この3人がいい距離感を保って得点へと結びついたが、これが今季初というのが先ず一点。今までの試合、この3人が絡んで相手を崩す場面が少なかったのが実は僕にとっては気掛かりだった。。しかし、この場面では、3人が素晴らしい連携を見せた。オビナ、池元、岩上…この3人のコンビネーションは、今後、山雅が得点を生んでいくために必要不可欠なコンビネーション。これはそう簡単に出来るものではないが、反町監督がキャンプ時から続けてきた攻撃のトレーニング成果が出た場面といえるだろう。

もう一つのポイント、それは飯田選手がなぜあのポジションにいたのか、ということ(笑)。攻めている時のリスクマネジメントは、山雅にとっての生命線。普段、飯田選手はリスクマネジメントをしている筈だが、飯田選手もディフェンダーながら得点に対する嗅覚が働いたのだろう。この場面、流れの中でリスクマネジメントは岩間選手に任せ、ゴール前へと出没した。これも『チャンスと思った時には、スリーバックの選手でも得点を奪いにいく』という山雅の良さが出た場面だったと思う。

それからも相手に決定機を与えることなく31分、またもツーシャドウの岩上選手から池元選手にクロスボールが入る。池元選手が潰れ、こぼれ球となったセカンドボールを清水エスパルスの5番ヤコヴィッチ選手よりも一瞬早く触った11番喜山選手が倒されてPKを獲得。セカンドボールの取り合いを制してPKを得たこの場面は前週の対広島戦とほぼ同じ形となったが、これもまた山雅の良さだ。セカンドボールには相手のエスパルスも十分に警戒していた筈。でも、コンマ何秒で体を反応させることが重要なのがセカンドボール。山雅はこの3年間、反町監督の就任以来セカンドボールの大事さを他のチームよりも意識して積み上げてきた。セカンドボールに対する反応は、J1においても山雅がトップクラスにあるということが、先週の広島戦に続きこのPK獲得の場面でも証明されたと言えるだろう。

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しかし、このPKをオビナ選手が外してしまう。決定的なチャンスであるPKを外すということは、サッカーの試合においてはとても大きな出来事だ。だからこそ、このPKを外した後に僕が注目したのは、チームのリバウンドメンタリティ。PKで点を取れなかった場合、往々にしてメンタルが落ち込んでしまい、目に見えてチームのパフォーマンスは低下してしまうものだ。しかし、山雅はこのメンタリティも3年間、毎日の練習から意識して積み上げてきた。皆で声を掛け合い、助け合う…そのメンタルと姿は、『さすが山雅』と言える素晴らしいもの。そうした普段の積み重ねがこういった場面で生きたのだと思う。

そして、山雅が1点のリードを守ったまま前半は終了し、迎えた後半戦。

開幕戦の名古屋戦を見ても分かるように、J1のチームは先制されるとあらゆる手を講じてゴールをこじ開けようとしてくる。今回の対戦相手である清水エスパルスも然り。あらゆる手を使い得点を奪いにかかってきたが、僕が注目ポイントにも挙げていた清水のストロングポイント・11番の村田選手に対して山雅はほぼチャンスを作らせることがなかった。その答えが70分に現れる。清水はこの村田選手に変えて19番のミッチェル選手を投入。ここから清水エスパルスは攻撃のギアが上がり、前がかりとなった。でも、そういう時こそ逆に山雅にもチャンスが生まれるもの。76分、相手のクリアミスを拾いオビナ選手が独走。キーパーと11になりかけシュートを放つ。しかし、これはゴールネットを揺らせなかった。

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そこからは清水の猛攻が続く。直後の77分には交代した19番ミッチェル選手のクロスを18番のピーター ウタカ選手が落とし、9番の長沢選手がシュート。これは右ポストを叩き得点ならず。その後も、この3人を中心に山雅ゴールに襲い掛かるが、選手全員が最後まで体を張ってリードを守り、1点差のまま試合は終了。J1における松本山雅FCの記念すべき初勝利の瞬間だ。

サッカーとは難しいもので、反町監督の言葉を借りれば「(オビナ選手の)PKが入っていたとして、20になっていた方が(油断が出て)負けていたかも知れない」。現に、開幕戦となる対名古屋グランパス戦では、一時は2点差をつけリードしながらも追いつかれてしまい、結局試合は引き分けに終わった。得点を重ね、点差を引き離せばそれだけで勝てる、という単純なものではないのがサッカー。だからこそ面白く、深みがある。「サッカーはメンタルスポーツだ」ということを改めて実感したゲームだった。

さて、山雅にとっては待望の、待ちに待った勝ち点3を手にしたゲーム。サポーターの皆さんも試合後は勝利の美酒に酔いしれた方も多いのでは?もちろん僕も嬉しかったです。でも、その気持ちに水を差すつもりはこれっぽっちもないけれど、これはあくまでもスタートであってここからが始まりなんんだってことだけは忘れないでいたいし、サポーターの皆さんにも忘れないでいてもらいたいと思います。1勝して満足、で終わらせずに次もその次も勝ち続ける、山雅にはそんな貪欲さで試合に臨んで欲しい。

…とまあ、勝って兜の緒を締めよ的に厳しいことも言わせてもらいましたが、やっぱり清水エスパルス相手のこの1勝はチームにとって非常に大事なものでした。

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だって、1戦目、2戦目とJ1の舞台で戦い選手が感じていた「J1でもやれる!」という気持ちを、この勝ち点3が後押ししてくれる筈だから。「やれる」「勝てる」と試合中に感じながらも、何故か勝ち切れない…そんなパターンに陥ってしまうのが怖いし厄介。そういった意味でも、3戦めという早い段階で嬉しい初勝利をもぎ取れたことは、山雅にとって大きい意味を持つものだと思います。

さあ、この勢いに乗って次はホーム・アルウィンでの勝利を!

飯尾和也

文章:コラソン 飯尾 和也

元 松本山雅FC センターバック。
ヴェルディ川崎、ベガルタ仙台、サガン鳥栖、横浜FCなどでのプレーを経て、2011年 松本山雅FCへ加入。松本山雅FCのJFL→J2→J1昇格へ貢献し、2014年シーズン終了後引退。 現在はメンタルサロン コラソンの代表を務める傍ら、講演会等も行っている。
Jリーグ通算311試合出場
U-16、U-18、U-19日本代表