コラソン試合レポート 第13節 横浜F・マリノス戦

横浜F・マリノスといえば、元日本代表でもある松田直樹さんが長年に渡り支えてきたチーム。松田さんは、マリノスから当時はまだJFLだった山雅に加入。…そして言うまでもないことだが、松田さんにとってこの松本山雅が生涯最後の所属チームとなった。そんないきさつもあり、その当時からカテゴリーこそ違えど、この両チームの間には常に深いつながりが感じられる関係性があった。

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「山雅を絶対J1に連れていく!そして、マリノスと試合をする」と言っていた松田直樹さん。

当時からは想像も出来なかったJ1という晴れ舞台における松本山雅と横浜F・マリノスの戦い。試合の見所に入る前に私情になってしまうが…僕自身にとっても、この試合には特別な思い入れがある。僕は、本当は松本山雅で松田直樹さんと一緒にプレーをする予定だった。当時、横浜FCに所属していた僕がオファーを貰った時、松田直樹さんは元気に活躍されていた。しかし、いざ契約の話をする日に松田さんは倒れてしまったのだ…。結局、僕は松田さんと一緒にピッチに立つことはなかった。

今でも、一緒にプレーをしたかったと強く思う。もし、一緒にプレーしていたら?などと考えることもある。会ったことこそないが、僕にとっても松田さんは特別な存在なのだ。

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そうは言っても、松田直樹さんと共にマリノスで優勝を経験し、山雅では松田さんがつけていた背番号3を受け継いだ田中隼磨が試合前に語った通り「思い入れはあるが、34分の1と考えている」。この言葉の通り、まさに選手は相手に勝つことしか考えていないだろう。

さて、ここからは話を戦術的な見所に移そう。対戦相手である横浜F・マリノスは、ここ3戦を3連勝中と絶好調。なんと言っても前線の4人が強烈だ。アデミウソン、三門、藤本、そして何より山雅にとって厄介なのが斎藤学である。斎藤は利き足こそ違うが和製メッシとも言われるドリブラー。なぜそこまで厄介なのかと言うと、組織的に守る山雅にとってはドリブルで人を23人かわされると自然とマークはズレてしまいフリーの選手が出来たりするからだ。ここをいかに抑えられるか、は本戦のポイントのひとつだろう。

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試合前のアルウィンは、特別なゲームなだけに、いつもとは違う雰囲気を醸していたように僕には思えた。そんな中で試合は始まった。

まずは前半5分。前を向いた田中が左足で、この試合の意気込みを感じさせるミドルシュートを放つ。しかし、先手を取ったのはマリノスだ。8分。左サイドの下平からのクロスをアデミウソン、三門が絡むとこぼれ球を飯田がクリア。上に高く上がったボールの落下地点に、反応したアデミウソンが右足でジャンピングボレーを放つと、GK村山の頭上を抜きゴールネットへと突き刺さった。

「今までにない個の力がスバ抜けて高い相手。前半、チームとして腰が引けてしまった」と村山が語る通り、先制を許したあとも山雅らしいいつものアグレッシブなプレーが見られない時間が続く。

そして、31分には警戒していた斎藤が山雅に牙を剥く。山雅の右サイドのスローインから前を向くと、三門とワンツーパスを入れて中に入って来る。そして大久保のタックルをかわし右足でシュート。これはカバーに入った岩間がシュートブロックしたが、こぼれ球を走り込んできた中町がゴールに流し込み0-2。斎藤がドリブルでかわしたことによって、中町についていた岩沼がカバーせざるを得なかったため、自然と中町はフリーになる。

まさに斎藤の個の力が生んだ得点だった。そのままマリノスのリズムで前半は終了。

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反町監督がハーフタイムに指示した「ミスを恐れるな」と言う言葉を胸に後半のピッチに立つ山雅。だが、56分には自陣でボールを失い再び決定機を作られるなど後半もなかなかリズムが取り戻せない。

そこで65分。反町監督は石原と阿部を一気に投入。更に81分には鐡戸を投入。攻撃的布陣にすると、その3分後の84分に山雅がこの試合で唯一、そして最大のチャンスを迎える。左サイドでボールを受けた鐡戸が、左足で正確なクロスボールを上げると、飛び込んで来た阿部がダイビングヘッド。

だが、惜しくもボールはゴール左に外れてしまう。

このチャンスを逃した89分。山雅のクリアボールを拾ったアデミウソンが頭で優しく落とすと、藤本が左足でその持てる技術をこれでもか!と見せつけるボレーシュートを山雅ゴールに突き刺した。これが決まって0-3となり、そのまま試合は終了。

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色々な思いが交錯した90分はこうして終了。

「完敗と言わざるを得ない」と反町監督が試合後に述べた通りの結果だった。ここまでチャンスらしいチャンスもなく終わった試合は、J1昇格以来初めてではないだろうか。

そして反町監督はこう続けた。「3戦負けなしで過信していたのではないか」と。

…選手の立場から言うと、過信などはなかったと思う。

しかし、結果が全て。マリノスが強かったとは言え、早い時間帯での失点が少ない山雅が、早い時間に失点してしまった。「過信」と言われても仕方がない敗戦だった。

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松田さんと一緒にプレーをした経験のある飯田と鐡戸は、この試合を振り返り奇しくも同じコメントを残した。「松さんが、『そんなに甘くないよ、お前ら。まだまだやらないとダメだよ』と言っているんだと思う」と。…その通りかもしれない。横浜F・マリノスと言うビッククラブに、真剣勝負を通して色々と厳しさを教えて貰った90分。

これを糧とし、山雅は前を向いて戦い続けるしかない。きっとそれが、マツさんの願いでもあるはずだから。

飯尾和也

文章:コラソン 飯尾 和也

元 松本山雅FC センターバック。
ヴェルディ川崎、ベガルタ仙台、サガン鳥栖、横浜FCなどでのプレーを経て、2011年 松本山雅FCへ加入。松本山雅FCのJFL→J2→J1昇格へ貢献し、2014年シーズン終了後引退。 現在はメンタルサロン コラソンの代表を務める傍ら、講演会等も行っている。
Jリーグ通算311試合出場
U-16、U-18、U-19日本代表