【報道対応】下條 佳明テクニカルダイレクター(2022.11.23)※無料配信

1年間本当にご支援、サポートいただきましてありがとうございました。

私は松本生まれなので、松本山雅というクラブが地域の顔であることを感じながら今季初めて山雅の仕事をさせていただきました。皆さまの思い、それからメディアの皆さまのニュースソースとして占める比率の多さも含め、改めて山雅というクラブの歴史と偉大さを感じる1年でした。

来季に向けて、前向きにチームを作るキーマン(責任者)として頑張っていきたいと思います。

――次期監督について伺います。どのような部分を伸ばし、どのような方向性に向かう監督を求めていますか?

一番は、今季もそうですが「昇格」が我々のミッションです。ということは、勝つためにどうしていくか。勝つ確率の高い戦術論を持っている監督に来ていただきたいです。それと同時に、神田から申し上げたように、クラブとしてやりたいサッカー、今のトレンドで勝つ確率の高いサッカーをメインに、指導力のある監督を求めています。

――何名かピックアップしている状況なのでしょうか?

先ほど社長からも話がありましたが、今シーズンは非常にきわどい戦いで、もちろん昇格できる状況にありました。アクションとしては、そこが一番のポイントになったと思います。年間を通して、選手の編成と同じように候補は頭の中には常にあります。

――下條TDの立場から、名波監督のマネジメントやピッチ上でのパフォーマンスも含めてどのようにご覧になってきたのか。最終的には契約満了という結論になりましたが、そこに至る判断材料やプロセスをお聞かせください。

私はテクニカルダイレクターというネーミングのもとで仕事をしてまいりました。現場にできるだけ近いところで、まず山雅というクラブを知らなければいけない。選手たちの特徴を知らなければいけない、監督の戦術論を知らなければいけない。そのため、距離感を保ちながら現場を日々見ていました。自分の見解は当然あるのですが、そこは名波監督と向かう方向性に大きな違いはありませんでした。ですから選手にも、いつも「私はいつも距離を守りながら、温かくクラブ、チームを見守っているよ」と伝えていました。その代わり戦術的なこと、特に監督の戦術に即しているかという部分で、選手に対して「もっとこういう工夫が必要ではないか?」「こういう技術が必要ではないか?」ということは、折に触れて経験からアドバイスしたところはあります。

その中で、ご存知のように勝ち点1、2の差が大きく響きました。J1、J2、J3にかかわらず、優勝争いは「試合数×2」の勝ち点。一番分かりやすい数字はそこでした。今季も終わってみれば、すべてのカテゴリにおいてその範囲で優勝争いをしていました。そういう意味では中身は別としてそこに近づけましたが、いまひとつ力が足りず突破できなかったのが現実です。そこまでのプロセスやアプローチの仕方はそれぞれの監督さんに任される部分ですが、本当に真摯に向かい合って、選手も監督の掲げているものに向かい合って、本当に一生懸命やったシーズンだったと思います。

今はちょうど選手との面談を進めている最中ですが、なにより私が一番感じたのは、私の経験してきたクラブの選手よりやっぱり年齢層も若く、「自分はもっと高みを目指して上のカテゴリからオファーが来るようにならないといけない」というマインドが選手たちにあること。だからこそ、真面目に取り組んで日々の(全体)トレーニング以外のプラスアルファの(自主)トレーニングもみんなが一生懸命にやっているということ。これは逆に言えば今の若い選手たち、他のJ1のチームでは見られないような努力なのかもしれません。

――最終的には「昇格を逃した」という結果が最大の判断材料ではあったわけですが、ではなぜ上がれなかったのか。名波監督や選手たちは「ここで勝てば首位、昇格圏内」といった勝負どころでことごとく勝てなかったことを挙げます。コロナの影響や出場停止などのファクターはあったにせよ、勝負強さのなさは実際あったわけですが、ではなぜそうなのか。ひも解いてみると、「日々の取り組み、積み重ね」という声も出ます。その部分に関してはどのように総括しますか?

サッカーの見方はいろいろあると思います。ただ我々が求めなければいけないのは、正解の大きなパーセンテージを占めるものは勝利であるということ。そこに向かって今季も突き進んでいて、その中身については監督の考え方を中心として動いていくものです。やはり勝負弱かったです。チャンスを何度ももらいながら勝ち切れなかったわけですが、(それを打破するために)一つは得点力アップで、もう一つは昨年苦しんだ失点の多さ。最後は失点がかさみましたが、さすがに去年を経験しているので、名波監督も守備のチーム戦術に重きを置いていました。ただ、運を自分たちで引き寄せられない、勝ち切れない。最後は「帰る家がなかった」という印象を受けています。

いろいろな考え方はありますが、私はこういった部分にこだわる人間です。もう少し監督が求めて訴えている、その「行間」を埋めることができればよかったです。名波監督が掲げていることは決して間違いではなく、今のサッカーはそれでやるべき。それとともにより高みを目指すうえで、もう一つ上乗せした考え方や戦術論があると、さらによかったかと思います。

――サッカーの部分に関して、課題として改めて浮上したのはどのような要素になりますか?

一つはスピーディーなサッカー。今はちょうどワールドカップが開催されていて、非常に高いレベルのサッカーが展開されています。その中でもやはり、今は時間のかかったサッカーはなかなか通用ません。そういう意味で今季掲げたサッカーというのは、まさしくトレンドを追いかけていたと思います。ただ、主導権を握ってサッカーをするということは、我々の時間を作らなければいけない。ということは、マイボールになった時に我々がどう崩すかの仕組み作りです。簡単に「仕組み」と言いますが、ただ形があれば相手を崩せるというわけでもありません。

もう一つ「我々の時間を作る」という意味では、ボールを早く相手から奪わなければいけません。それがあってはじめて、我々の時間が成立します。なぜ時間があるといいのかと言えば、主体性を持って相手の出方を見て、主導権を握れるからです。ただの緩いボールポゼッションサッカーは不要です。サッカーは得点を争うゲームなので、ゴールに向かった中での質の高いサッカー。なかなか簡単ではないですが、パスの成功率の高いものをやっていかなければいけない。成功率だけ求めて横パスやバックパスの山を築いても、お客さんは飽きてしまいます。そういう意味では今年は前へ前へと行くエネルギーはある程度表現できたけれど、成功率という意味になると、不完全燃焼な部分がありました。それを変えていかなければいけないと思っています。

――神田社長はクラブとしてクリア(明確)にするべき要素、クリアにしたうえで次の監督さんと明確に共有すると話されました。「チームはチーム」「クラブはクラブ」ではなく、チームとクラブが一つになって価値観を共有しながらチームを構築していくという意味だと思うのですが、細部に関して「クリアにした前提条件」を言語化していただくと、来年に向けた編成をされる中で何をクリアにして土台として築いているのでしょうか?

それはクラブサイドから発信しなければいけません。山雅はこういうクラブというアイデンティティについて、私や社長、鐡戸(裕史)フットボール部長や(田中)隼磨も分かっていると思います。全部を列挙することはできませんが、やはり「行間」を埋めていかなければいけません。サッカーをやるうえで、あえて言えば「山雅らしさ」という部分は、昔から作ってきた歴史です。どのチームでも、サッカーをやる大前提のもとでの取り組み方や姿勢がないと、どんな戦術を持っていたとしても勝てないのがこの世界です。松本山雅としてそこをきちんと再確認し、新しい選手と新しいスタッフとも共有した中でチーム作りを進めていきます。

こういう言い方をさせてください。サッカーの世界には「リスペクト」という言葉があります。これは日本サッカー協会も、何年も前から掲げています。うちのクラブも「リスペクト」と言いますが、定義は結構難しいんです。その中で私の頭の中にあるリスペクトは、「大切なことを大切にする」ということ。ここにいる社員や皆さんにとって、「大切なことは何ですか?」と問われたらバラつきがあると思います。それと同じで、「行間を埋める」という作業は、今の若い選手たちにとっては世代が変わると一致したものにならないかもしれない。例えば隼磨が言うリスペクトと、(横山)歩夢の言うリスペクト。「はい、わかっています」と言っても、よくよく聞いてみたら方向性が少し違うぞ…とならないようにすることが大切です。全員が一丸となって同じ方向を向いて進めようということになると、学生サッカーではなくプロのサッカーなので、全部を言う必要はないけれど、「クラブの考えていることはこうだ」ということは明確に示していきたいです。

――概念として理解はできますが、例えば規律ひとつをとっても、人それぞれに辞書とは違う基準を持っていることが往々にしてあります。山雅として例えば、「練習が始まったらこれはやるな」「90分はこうあり続けろ」という明確なものがないと、またボンヤリしてしまうのではないかと思うんですが、いかがでしょうか?

規律にはプレーの規律も私生活の規律も含まれるもので、クラブができるのは新しい監督には方向性を示すことです。言葉のやり取りの中である程度のガイドラインが見えればいいと思います。ただ、ピッチの中の規律、サッカーではディシプリンという言葉で表現されるものについては、何でもいいとは言いません。勝つ確率の高い規律、別の言い方をすればパターンかもしれないしシステムかもしれないし、オートマチックかもしれません。そういう部分を共有する必要があります。何にせよテンポアップしたサッカーは、早く判断して速くボールを動かして、相手の守備の的を絞らせないことが非常に大切です。

ワールドカップを見ていても戦術は変わって、劣勢のチームがボールを奪いに前に出て行っています。なぜかと言ったら、引いてどんなに守ってもピンポイントで良いボールが入ってくると守り切れないものがあるから、それだったらどちらのリスクを選ぶか。世界ランクが上のチームに対して、昨日のサウジアラビアも、チュニジアもそうでした。きっと今日の日本もそうだと思います。ワールドカップのたびにトレンドを変える側面があります。だけど、変わろうがなんだろうがいいけれど、「勝ってほしい!」という皆さんの思いがあるわけです。だから我々は常に監督、選手とともに一般的な言い方になりますが、「勝てるサッカー」をやります。そして、「勝ったサッカーが正解だ」という考え方もありますが、私は中身にもこだわりたいです。

そうした観点から今季のチームを見ていると、昨年と比べたら選手の走行距離も含め、アグレッシブというより、運動量が増えたと思います。距離、つまり「量」は大事です。けれどもさらなる高みを目指したら当然、「質」という話になってきます。だから、当初から実現できるかどうかは別にして「クオリティ」という言葉をキーワードにしないと、やりがいがないと思います。そして、その基盤を名波監督は作ってくれたんだと思います。「アグレッシブにいきなさい」「ゴールに直結した動きをしなさい」と。これがなければサッカーは面白くないと思います。けれども選手の基本的なミスもあって、あまりにも簡単に相手にボールが渡ってしまうから、推進力が時間とともに衰えてしまう…という現象は感じていました。いきなりは変わらないですが、クラブとして求めていきたいものはやはりクオリティの部分です。

――(先ほど神田社長に契約満了選手のお話を伺った際に)クラブが前提条件を設定した時に、名波監督であろうが新しい監督であろうが、そこに相応しくない選手は契約満了になるという考えでしょうか?

フラットに見て聞いていただければありがたいですが、契約社会で生きているので、満了期間はどの選手にも来るものです。ご心配されているような「名波監督が来季指揮を執る可能性がある段階なのに満了を決めてしまったのか?」ということではなく、シーズン途中で監督に選手の中間評価を打診したことがあり、「そこはクラブが先行して進めてください」という言葉も聞いています。新卒でも移籍してきた選手でも、クラブがリーダーシップを取って、やりたいサッカーにマッチするであろう選手を取ってきて、それが監督の掲げる戦術にハマっていけば一番いいと思っています。ですから、監督の仕事とクラブ強化の仕事は若干、違います。だから、感覚も若干違うかもしれません。

さらに、ご理解いただけると思いますが、J1のクラブとJ3のクラブでは、移り方も違います。取ろうと思ってもJ3だと来てくれないという状況もある中で、スカウトを中心に来てくれて力になってくれそうで、ポテンシャルのある選手。そういう選手を我々は育てることもしなければならず、そういう視点でクラブフロントは動いています。世代交代も含めて新陳代謝のいいチームになっていかなければいけないし、在籍している選手に関しては、チーム戦術にマッチした選手もいれば、シーズンを送っていく中で戦術と違うところが出てくる選手もいます。その場合は移籍などを考えるのも現実です。

――サッカーの中身の所に戻りますが、名波監督も当初に理想としたスタイルから比べるとより現実的にシフトして、失点を減らして守備から構築してきました。ある意味松本山雅はこの1年だけではなく、ディフェンスに基軸を置いてきた側面もおそらくあると感じています。それは後任の監督を選ぶ中でクラブの方向性として提示したり、あるいは守備戦術をしっかり持った方をピックアップする観点になるのでしょうか?

当然そうです。一つのターニングポイントというか、社長も私もそうですが、チームの成績が良い時でも監督を代えるケースはあると思います。それは選手の交代と同じで、次のステージに行かなければいけない。クラブは続いていくし、逆に監督や選手も高みを目指してやっていくとき、やはり見える世界が変わってくると思います。そういう意味では、クラブが掲げるものに準じてシーズンを通して修正・改善しながら進めていくものです。山雅にとって一番適性があるのは何か。それはもちろんシーズン始動時に選手含めても共有してもらいます。そのエネルギーが新シーズンを迎える時にあれば一番いいと思っています。

――次期監督について、何人かの候補が頭にあったというお話がありました。今は絞り込みが進んでいて、価値観の共有に入っているのか、お願いできないかという具体的な話にまで進んでいるのか。お話しいただける中で、どのステップなのかをお示しいただけますか?

いい成績であったら、その監督と一緒にさらなる高みを目指しましょう――という話になります。代えるよりも、勝って成果を出して次のステージへいき、次のテーマに向かう…というフェーズがこの前まで。ただ、1年半やられて、なかなかそこの成果が出なかったので、これは切り替えていかなければいけないということです。端的に言えば「勝った」「負けた」、「我々の目指すものに到達できたかどうか」が一番の評価基準になります。どんなにいいことをやっていただいていても、成果が上がらなければ納得が得られないというところにフォーカスしたらいいと思います。

ですから我々がさらに上を目指すためには、「こういうサッカーをやっていく」「選手たちにこういうマインドを持ってもらう」と提示し、それに賛同してくれるスタッフを探すことです。監督候補については、そういう情報をタイミングを見て検討していくということです。外国人の選択もあれば、日本人の選択もあるなかで、どの監督の特徴がどこにあるかというのを。以前指揮していたチームで結果が出ていなかったとしても、優勝していたとしても、サッカーの時間の経過は早いので、次を狙って戦術や日々のトレーニングを変えられるアイデアが豊富な方がいないとダメだということが1つにあります。

それと一番大事なのは、我々神田社長はじめ強化担当の人間が、「こういうサッカーをやりましょう。サンプロ アルウィンに来てくださるたくさんのお客さんに勝利をお届けしましょう」ということを示さなければなりません。それを大前提に、もっとワクワクできるものをご披露しなければいけない。サッカーはエンターテインメントで、そういう側面も求められるビッグビジネスだと思っています。「魅力あるもの」「カッコいい」ものを見せることが大事で、選手にも「カッコよくあろう」といつも言っています。

それにはサッカー以外の部分をキチンとやることも求めます。裏返せば、それが山雅らしさかもしれません。たまに例に挙げるのは大谷翔平です。ゴミを拾っているのが話題になるわけです。プロ野球選手としてものすごい能力を発揮しながら、ゴミを拾っている。そういうマインドが結局サッカーの戦術も含めたパフォーマンスにも繋がっていく。そうした部分はご理解いただけるのではないかと思います。

(次の監督候補との進捗については)今は、次の候補を絞りながら交渉するところです。当然このタイミングですから、選手との契約に際して「何も決まっていません」なんてとても言えません。ただ、契約事なので、正式に契約が成立しないと伝えられないだけのことです。

――来シーズンこそJ2復帰は大前提だと思いますし、その中でクオリティの追求という部分もあります。その2つを追っていく難しさは、この3シーズンずっと感じてきたシーズンでした。新しい方にはどのようなバランスで求めていきたいですか?

やはり結果が中心です。結果が中心ではあるのですが、単発の結果じゃなくて、よりシーズンを送るごとに右肩上がりの状態になること。今日より明日、明日より明後日。そんな簡単なことではないですが、そういう進め方だと思います。監督中心としたコーチングスタッフのグループと選手に加え、クラブスタッフも一緒に。我々が掲げたコンセプトのもとで進めていただくことになります。

――結果はもう、全くおっしゃる通りだと思うんですが、今シーズンで言うと、名波さんが若手を抜擢して活躍させる難しいミッションもされていました。「育成」という要素に力を入れることも新たな監督にリクエストしたい部分でしょうか?

多分切り口が少し違うと思います。若手を育てるにしても、成功体験を持ちながらでないと育ちません。起用方法は(監督が)それぞれの感覚の中で判断する一方、クラブの目的として「若手を育てる」ということは一部にはあります。出場機会が増えていけば若手は育つと思いますが、試合に出る出ないではなくて、環境を作ったり、若手にもわかりやすいものをクラブや監督が提示できたりすれば、自然と選手は育つと私は思っています。その中に我々の譲れない価値基準があり、「我々のクラブがやろうとしていることはこうであり、監督がそれを通して表現しようとしているものはこうだ」という部分に齟齬がないようにするのが大切です。

若手育成は大事です。地方クラブとして、ましてやJ3にいたら取りたい選手は来てくれませんから、本当に力を注ぐ必要があります。もちろんアカデミーから次々いい選手が出てくれればいいけれど、まだまだそこまでは望めませんが、そこはやっていくところです。

若手選手は、試合に出ている出ていないは関係なしに、「試合に出たらこういうことをやりたい」というようなことをやっていくことも成長のフックになると思います。「(試合に)使ってくれたらやるよ」という選手も昔はいましたが、私としては「使ってもらえるようにしなさい」ということです。

――それに関連して、監督人事が当然大きなテーマになる中で、編成も同時並行で進めなければいけない局面にあります。そこに関してはどのような考え方で進められていますか?

「このチームに来たらこういうサッカーをやっている」という名刺代わりになるものを作っていかなければいけない段階だと思っています。このクラブの良さは、外から見ても、「サンプロ アルウィン」とか「サポーターの皆さん」とかメディアの皆さんも含めて非常に好意的に見ていただいている環境が、山雅の財産だと思っています。それはそれで置いておいて、これからだとは思いますが、「ここに来たらこういうサッカーをやる、だから行きたい」という選手を増やしていかないと難しいと思っています。ビッグネームを連れてこようが無名の選手であろうが、大事なのはそこだと私は思います。そのためには正直、J2の中位以上は必ず維持しておきたいです。そのためにも本当に、早くJ2に戻らなければいけません。