【報道対応】2023シーズン体制について(2022.12.1)※無料配信

組織再編の内容、意思決定のプロセスについて

――下條佳明氏が今回、新たな組織「トップチーム強化本部」のトップになりました。テクニカルダイレクターからスポーツダイレクターに肩書きの名前が変わったことには、どのような意味があるのでしょうか?

神田 「トップチーム強化本部」という部署を新たに設け、そこにスポーツダイレクター(SD)という強化の責任者を置く組織としました。責任者をクラブとして明確にするために部門を整理し、テクニカルダイレクター(TD)から1段階職位を上げて権限を委譲する形でスポーツダイレクターを配置しました。

――権限というのは、トップチームでの監督などの人事権や予算の執行権も含まれると思います。従来その権限は組織で言うと取締役会にあって、それをトップチーム強化本部に移すという認識でしょうか?

神田 今年で言えばフットボール部と、それに並行してトップチームを預かるプロの立場であるTDを置くことで、トップチームもアカデミーもその部署が管轄してきました。今回はトップチームの強化を最重要に位置付ける考え方から、改めて特化した組織として分けました。監督以下、選手の決裁権はSDに委譲し、予算に関してはある程度の年間予算をトップチーム強化本部に渡して、その中でやりくりしていただく形になる見込みです。とはいえ、クラブ内では取締役会でそれらを承認することはこれからも続けていきます。引き続き、私を筆頭とした役員の責任でもあり続けます。

――人事などの決裁権は、昨日までであれば取締役会が最終的に持っていたということでしょうか?

神田 今までは取締役会の決議を上位で決めていましたが、今回はその権限が基本的にSDに渡される形です。

鐡戸裕史・前フットボール部長について

――鐡戸裕史フットボール部長が育成部長に移るということは、トップチームの強化からは外れるということでしょうか?

神田 「育成部」にはアカデミーと、トップチームに繋がる育成も含まれます。プロパーの社員は、育成部を含めた部の組織で基本的には役割を完結し、プロの集団としてトップチームの強化本部に分ける。これを明確にしたかったということです。とはいえ鐡戸の経験も生かしたい部分はありますし、当面はそうしたサポートも必要だと思っています。その中でトップチーム強化本部に、もう少し経験のある担当者を招聘してくるとか、飯田真輝をそこに配置するということで、ゆくゆくはそこで完結できる形になっていけばいいと思います。

(育成部は)山雅のDNAをしっかりと育成する部署です。もともとこのクラブに鐡戸を残した意義はそこにあると思っているので、育成という立場をお願いしました。トップチームの強化に関して言えば、もう少し明確に分けたほうがいいというのが今回の判断でした。

――成績面で目標が達成できなかったことについて、責任の所在の声があります。監督にあるのか、フットボール部長にあるのか、役員にあるのかというのは当然議論されると思います。鐡戸裕史フットボール部長が育成部長に移るというのは、組織を見るかぎりでは強化から外れるというのが素直な受け止めと思いますが、それは今回の結果を受けての判断ということでしょうか?

神田 それは、最終戦(の挨拶)で「私がクラブとしての甘さが出た」「会社も含めて規律を見直すべきだ」と伝えたかった部分です。今まで気を緩めて取り組んでいたわけでは決してありませんが、(選手や監督など)プロを相手に契約交渉も含めて向き合う立場にはプロの強化担当者がそれを対応する必要があります。そこを改めて引き締めた組織にしていく意味合いを込めて、鐡戸を外すことがいいという判断をしました。

組織としての構造上で、このようになってしまったのは私も含めた役員の責任です。昨年から今年にかけて両副社長が抜けて、フットボール部門の穴を、去年12月に入った下條とこれまでサポート的な役回りだった鐡戸が一気に埋める形になりました。そこが構造上のひずみになってしまっていたので、そこを整理しました。

――鐡戸氏が強化に携わるようになったそもそもの経緯として、プロパーの社員が継続的に務めることによって山雅のDNAを表現できる側面もあったと思いますし、強化という役割を与えながら鐡戸氏を育てていく考えもあったと記憶しています。その中で一旦トップチームから距離を置くことになったのは、どのように評価した上での判断だったのでしょうか?

神田 引退後に社員という立場で残った鐡戸には、昨年末のチーム編成をしていた真っただ中に、強化の責任者である加藤前副社長が退任した大きな穴を埋める形で、フットボール部長の役割を担ってもらいました。そして1年間、クラブの最重要課題であるフットボールの強化に奔走してもらいました。鐡戸なりに懸命に取り組んでくれたと思っていますが、このタイミングでの登用は、クラブとして少し難しい人事だったと振り返っています。もともと彼がやりたかったこと、クラブが彼に期待していたことは、「山雅のDNAを長い間チームに色濃く浸透させること」です。それはクラブに関わる全員で共有しました。一旦トップチームの強化からは離れますが、今年で言えばトップチームに若手が現れて、アカデミー出身者も出てきました。おそらく今後は育成に関わることで、その血がトップチームにどんどん行き渡るような組織になっていくと思います。そのときにはまた鐡戸の成果が必ず現れると思っていますし、お互いに出直すという意味合いで、強化から切り離す判断をしました。

神田社長の進退について

――昨日(11月30日)の取締役会でご自身の進退を諮った上で、現体制を継続することが決まったという説明をいただきました。神田社長が代表取締役から下りることや内部昇格や外部から迎えるということ含めた議論がされたうえで、続投が決まったということでしょうか?

神田 基本的には仰る通りです。トップチームの結果については私自身が大きな責任を感じ、進退を伺うべきだと思っていました。今回2人(柄澤深取締役、小澤修一取締役)が皆様の対応に同席したのは、今後の山雅を作っていく上で常勤の体制を皆さんに伝える趣旨でもあります。

――昨年末に経営責任に関するリリースを出した中で、「進退をかける」という表現をされていました。その中で今の体制を継続していくと決めたことについて、言葉を尽くしてご説明いただく必要があると思います。来季も山雅を応援していこうという地域の人たちに対するメッセージをお話いただく責任があると思いますがいかがでしょうか?

神田 昨年末の「進退をかけて」というメッセージは、私自身が経営も含めていろいろなことを重要視していくという意志であり、私だけではなくクラブ全体が、応援する皆様に結果にこだわっている姿を伝えるための一つのやり方でした。その中で「J2復帰」という結果が出なかったことは、私の責任として受け止めています。取締役会でも進退について諮った中で、これまでの課題や反省がありましたし、それと同時に「このクラブが今後どうありたいか、どうなっていきたいか」も議論する機会となりました。その中で私も含めた常勤3名の体制になりますが、2人は役員として実際には1年目。今後の山雅がどういう経営体制、経営者像、もっと言えば社長像。どんな姿があるか議論を深めた中で、チームだけではなくクラブとしての土台をもっと作らないといけない時期だと整理しました。

私は常勤として1代目の社長という立場です。しっかりとその立場で今後のクラブの土台を作り、責任を果たした上でこのポストを次の方に譲っていきたいと考えています。それが必ず山雅のためになると思っています。サポーターの皆様にも賛否があることは承知していますが、必ず強い山雅を取り戻し、結果を出してそれを示して責任を果たすよう、とにかく努力していくしかないと思っています。

――リリース文には「トップチームの低迷や会社の在り方について多くの議論を交わし」とあります。2020年を皮切りに、思い通りのフットボールが表現できていない側面があります。それについてはどのような総括をした上で、この体制でどう覚悟を示していくという結論に至ったのでしょうか?

神田 今後はそういった機会を設けて、ファン・サポーターの皆さんにも詳しく説明したいと思っています。反町(康治)監督体制が終わった後に、低迷が続いており、応援する方にとって非常に満足いかない想いをかけ続けていることが、トップチームにおける問題だと認識しています。そこは「強い山雅」を作る上で、クラブの土台をより確かなものにする必要があったと整理しました。

今回監督を招聘するにあたっても、監督ありきのチームをつくる訳ではなく、フットボールのデザインややり方については従来通り監督に自由に表現してもらいますが、ここまで山雅を共に作ってきたステークホルダーと共有してきた「山雅らしさ」と言われるストロングな部分を改めてクラブの土台とし、強化担当者を中心にそれを整え、監督をはじめトップチーム全員と共有した上で躍動してもらいます。その中で「ヒト、モノ、カネをかけて」と最終戦にお伝えしましたが、強化にはそれらのリソースを注ぎ込み、その上で監督以下選手の編成をしっかりとして、シーズンを通して強化と現場がさらにタッグを組んで取り組めるよういたします。クラブとしてもフットボールのピラミッドに深く関わりながら、一緒に強い山雅を作っていくという体制を整備しなければ、新しい山雅を作ることは難しい。今回はそう反省して課題を整理し、体制を組みました。

――先日の報道対応でも「監督に頼らないサッカー」という表現がありました。これは監督にどのような人物を据えたとしても、今季で言えば「レフェリーに文句を言わない」「不必要なファウルをしない」あるいは「練習中の振る舞いはこうあるべき」などの部分をクラブとして整理して監督と共有する意味合いだと理解しています。それら土台となる部分はすでに整理が済んでいるのでしょうか?

神田 ほとんどその振り返りは終わっています。決して名波(浩)前監督を否定するわけではなく、クラブとしてフェアプレーを徹底できなかった1年でした。それはチームだけでなく、クラブ全体として徹底できなかったのが甘さだったと振り返っています。そういう意味で山雅として大事にしなければいけないのは、まず規律あるプレーという中でフェアプレーがあるのは間違いないと思っています。その上で魅力的なフットボールをどう表現するか。今までのハードワークをベースにする堅守速攻も一つですが、トレンドも含めてサッカーは変わっていきます。その部分のやり方や見せ方はどんどん変わっていくと思いますが、「チーム一丸となってハードワークする姿、そこに規律がある」という部分は、より土台として徹底します。そこに強い意志を持ってクラブスタッフとも強化とも共有して、トップチームの監督も含めた選手編成を進めていきます。

――柄澤さんと小澤さんにもお伺いします。11月30日の定時取締役会において、どのような議論があった中で現体制を継続することに至ったのか、それぞれのお考えもお聞かせください。

柄澤 現場で一緒に執行する立場として申し上げると、この時点で代表取締役社長である神田が別の人間に代わるというのは、当然良い面も悪い面もあると承知していますが、組織を維持して体制を作っていくという側面からベストな選択ではないと考えました。私と小澤も含めて4月から取締役になって丸1年も経っていない状況で、まだまだ経験も力量も乏しい、それは私たちの力不足だと感じています。その中でまずは現体制を続けて、サポートをしていく。今までは神田に依存していた体制であったと、私も小澤も思っています。そこから脱却して3人でともに歩み経営していく姿勢をしっかり見せたいですし、その部分について取締会で意思と覚悟を語ったつもりでいます。その中で例えば、「経営と執行をしっかりと分けたほうが良いのか」などを3人の中で議論し、プランも示していきました。現状の常勤3名体制を維持しながら、今まで以上に強い意思と覚悟をもってやるべきではないかという結論に至ったところです。

小澤 ファン・サポーターの皆様も含めたステークホルダーの皆様からすれば、社長の業務がどういうものかはなかなか見えにくい部分があると思っています。その中でオフシーズンにかけて、神田が社内でやっている業務を改めて私自身も洗い出ししていく中で、神田でなければ埋められないものが会社の中で現状としてたくさんあることが分かりました。それを神田が少しずつ柄澤と私に共有しながら、私たちが次の世代を育ててしっかりと下に伝えなければいけないと考えています。

ただ現状で言うと、そういった部分で神田の力が今のこのクラブには必要だと個人的に判断をしました。取締役会の中では常勤、非常勤含めた自分たちの進退も含めて話をしましたし、そうなったときに執行の部隊として、誰がこの会社を担っていくのか、将来の山雅がどうあるべきか。深く話をする中で、現状から次の世代にバトンタッチをしていくとき、今は我々がここで体を張るべきではないか。トップチームの成績で判断されるのはプロサッカークラブの運営会社としてはあるべき姿でもあるということは理解していますが、フットボールの側面だけではなく、クラブが今まで取り組んできたことにも目を向け、その判断をもとに代表取締役を決めていかなければいけない。それも含め、自分たちは覚悟をして決断しました。

――今のお話の中で、「神田社長にしかできない業務」という言葉がありました。少なくとも現状で余人をもって代えがたいとするのであれば、具体的な部分も含めてサポーターの皆さんと共有するのがベターではないかと考えます。例えばどのようなことがありますか?

小澤 実際に私が一番感じたのは、社員や現場のスタッフ、選手を含めて細かいフォローをしているということです。サッカー界はすごく狭いですし、どうしてもプロフェッショナルの世界で生きていくと、契約満了が必ずあります。そうなったときにどういう形で送り出すのかは重要な作業だと思っていて、そこに対してフットボール部だけではなかなかフォローし切れない部分を神田が動き回っているのを改めて目にしました。

あとは社員に対するメンター的な役割も大きいと思います。やはり今の会社は神田がずっと引っ張ってきて、柄澤の言葉を借りると依存しすぎないというか、自分たちがもっと前に出ていってそういった役割も担った上で、一枚岩となりしっかりと会社を回せるようにしていきたいという覚悟を持って今ここに立っています。

飯田真輝CB²ら、強化本部の新体制について

――今回は飯田氏が強化本部に入ることになります。彼も長く松本山雅に携わり、DNAの何たるかを理解している人物だと思います。飯田氏の関わり方としては、今季のCommunity Bond Builder(CB²)のようにクラブのアイコンとして地域との関わりも引き続き持ちながら強化に関わっていくのかどうか、そうであればどのくらいの密度で関わっていくのか。今後は強化の畑でキャリアを積んでもらう方針なのか。その部分の道筋はどう考えていますか?

神田 彼とも話をして、「強化の仕事で勝負したい」というメッセージももらい、下條SDのもとに身を置く形になります。そこはプロの集団と言った通り、彼もプロ契約の中でこの強化担当になることが決まっています。これまでのCB²の活動だったり、スクールの一部責任者を務めたり、松商学園(サッカー部)に外部指導者として出向いたりしていますが、そういった活動は、今後強化や指導者に関わることも含めて全て彼の経験に繋がると思っているので、まずは並行して進めていければいいと下條とも相談し、そのようなスタートを切るつもりです。

ただ強化の仕事を覚えたり、恐らくスカウト活動に行くという機会も増えていく中で、彼の時間のバランスがどんどん変わっていくと思います。その時は強化の割合をどんどん増やしていって、その時間を100%に近付けるような形を見据えての配置ということで決まった経緯があります。

――トップチーム強化本部にもうお一方加わるとのことですが、現時点で目星はついているのでしょうか?

トップチーム強化本部はプロの組織で、その長は下條です。基本的には下條を中心に人事をしてほしいと思っています。そこに予算をつけることができますので、人事に関しては下條と私たちで相談して、どういう方が適任かも含めて、人物像を共有しているところです。今回は飯田が入ることになりました。その役割も山雅のDNAをトップチーム強化の立場から残していくことであり、鐡戸のノウハウを実務的に引き継ぐ人材も必要です。下條も後進の育成も含めて1年前にこのクラブに加わってくれましたし、今後残る強化の人材を育てていかないといけませんので、その意思もくめる経験ある人間を呼びたいと思っています。まだ現時点では絞り切れていませんが、リストアップはしています。

松本山雅が目指すものについて

――松本山雅は何のために存在していて、今後どういった事業を展開していくのか。改めて確認したことと、それをどう表現していくのかをお聞かせください。

小澤 「クラブが地域のためにあるべきだ」というのは間違いありません。その中で今の体制で言えば、フットボールの表現のところでイエローカードが多い部分は改善をしなければならないと感じました。必死さの裏返しの部分もあるので一概にカードをもらう事が全て悪いとは思いませんが、本当に地域に誇れる姿であるのかは重要視されることだと思いました。

――フットボール以外のところでも地域に出ていく活動などは、これまでも大事に育ててきたところだと思います。ヒト、モノ、カネをトップチームに集約することで、そういった活動への影響は?

神田 まずこのクラブの予算のことをお話すると、収入を基本的に伸ばして、利益で出た時にはトップチームに効率的に使う経営をずっとやっていました。逆に言うとJ1に上がったときもJ2のときも現在も、それ以外の部分を決して贅沢に使っているクラブではありません。そういった意味では販管費などはかなりスリムに経営してきている会社ではないかと思います。当然経営的にもう少しコストカットするのは、より検討が必要な1年だと思います。一方で働く社員や私たちがスポーツビジネスで収益を上げることがこれからの強い山雅を作っていく上で必要な要素だと思っています。そこを研ぎ澄ませる作業はこれからも必要で、そこでコストカットできた成果は効率的にトップチームの成果に繋がるよう、さまざまなリソースの集約に力を注ぎたいと思っています。そこによりグラデーションをつけながら取り組む1年になると思っています。

柄澤 そのようなところを含めて地域のご期待にしっかり応えていく責務があると思います。ただ誤解のないようにお伝えすると、今まで推進してきたホームタウン活動の事業に関しましては、皆様が思っていらっしゃるまでの規模のヒト、モノ、カネをかけてやってきているわけでは決してありません。ホームタウンの活動に力を入れているから「フットボールがおろそかになっている」「フットボールがないがしろになっている」「並列に扱われている」ということはございません。

小澤 本当にいろいろな活動をクラブとしてやっていますが、その結果が全てピッチに繋がっていかないといけないことを認識した1年でした。やはり関わる人が増えればそれだけ熱量も増えて、それがピッチの結果にも繋がっていく。この構図は必ずあると思っています。その中で来季は資源をしっかりと投下していくことになります。