【試合前コメント】霜田 正浩監督 第18節 福島戦 ※無料配信

――自分たちの良さをほとんど出せずに敗れた琉球戦を踏まえ、選手たちにはどのような話をしましたか?

福島戦の話と、メンタルなどについてです。今治戦や愛媛戦で見せたような魂のこもった試合ができれば、どんな上位と当たってもいいゲームができます。能力があるのにそれを出し切れないと、最後のパワープレーに屈してしまいます。もちろん戦術的にもいろいろ課題はありますが、やっぱり本当に魂を込めて戦ったかどうか。暑かったかもしれないし、移動もあったかもしれない。いろいろエクスキューズはありますが、本当に今治戦や愛媛戦のように戦ったか。そういう意味ではキレイにボールを繋ぐとかビルドアップするとかだけではなく、戦う原点を思い出さないと。大きな目的に達するためには、それがまず大前提なんじゃないか。もう1回足元をちゃんと見つめ直そう。そういう話をしました。

――前節の試合後、選手たちからはさまざまな意見が出ました。その中でプレスに行くのか行かないのか、ボールを繋ぐのか蹴りたいのか。どちらを選んだにせよそれを正解にするだけですが、まずピッチ内の統一感がなくチグハグだったことが問題ではないでしょうか?

そこはすごく反省しています。僕自身の反省としては、やっぱりチームの中に温度差ができるような言い方をしてしまったと思ってまいす。暑かったので「クレバーに戦え」と話をしましたけど、では「クレバーって何だ?」という部分。沖縄でのミーティングで、「こういうのがクレバーなプレーで、こういうのが味方の疲労を誘ってしまうプレーだよ」とちゃんと説明しましたが、それはなかなか口で言うほど簡単なものではなく、「暑いから行かない」「暑いけど行きたい」という選手の温度差を作ってしまったと思っています。チームの中でどちらかに統一すること、いつも僕が準備として一番大事にしている「この試合はこうやって戦う」という戦術的一体感をちゃんと持たせることができませんでした。そういう意味では自分の責任だと思っています。

――霜田監督が1月から取り組んできたものの一つはボールを前進させることで、現象としてはマイボールの時間が長くなるし攻撃の回数が増える部分にも繋がってくると思います。その観点からすると数字が全てではないにせよ、ボールを持っている時間や攻撃回数、30mやペナルティエリア内の進入回数などが出てきていません。

琉球戦は見るまでもなく、今年一番悪い数字です。数字を挙げると具体的にわかりますけが、自陣35m内のパス成功率が7割もいかない。いつも僕らは自陣で90%はちゃんと繋げてるんですけど、それが7割いかないのが全ての元凶でした。後ろからスムーズに運べないので、前もなかなか難しくなります。

(開始2分の)1点目は右サイドバックの藤谷から左サイドバックの下川にボールがサイドが替わったので、下川が自由に進入できて、そこから完璧なタイミングで裏を取った滝にスルーパスが出て、クロスを菊井に渡しました。藤谷から下川、下川から滝、滝から菊井。3本のパスです。たった3本でああいうスーパーゴールが生まれる仕組みを、僕らはずっと作ってきました。タイミングと意識さえぴったり合えば、そういうプレーが今までもできていたので、自陣では何がビルドアップの最適解なのかをもう一度思い出さなければいけません。

そのうえで選手に伝えたのは、「百歩譲ってそういうことは時間をかけてやっていこう」ということ。それと同時にだけど僕らは、「あのまま1ー0で終わらせなければダメだったよね」ということです。83分まで1-0で勝っていて、野々村が足をつったアクシデントはあるものの、あれをゼロで終わらせることがやっぱり一番大事ではないのか。向こうが大きい外国籍選手を入れてパワープレーでどんどん蹴ってきたのを全部跳ね返して、1ー0で守り切る。そういう気持ちの強さを示して、そこに魂を込めなきゃいけないんじゃないのか。

結局ゴールキックとFKから点を取られました。もちろんクリアが味方に当たるなどのアンラッキーな部分もあるけど、それをただ「アンラッキー」で済ませたら絶対に勝負強くはなりません。僕らは今のところロスタイムで点を取られる試合をしてしまってるので、もっと勝負強くならなければいけません。「勝負強さ」とはキレイなボール回しとかキレイなビルドアップではなくて、勝負のアヤをつかめるかどうか、キワの部分でちゃんと戦えるかどうか。そういうサッカーの原理原則を、もっともっと追求していかなければいけません。そこが僕らが今、一番やらなければいけない部分だと思っています。

――立ち上げからキャンプを含めて話を聞いていく中で、「勝負強さ」というワードは初めて聞いた気がします。それは監督の中でもともとマネジメントの中で範疇にある言葉だったのか、それとも松本山雅においては必要であると感じた要素なのか。どちらでしょうか?

もちろん勝負事で結果を出さなければいけないので、勝負強くなければいけません。だけど「勝負強くなるための練習」はなかなか難しいんです。どうやって点を取ろう、どうやってボールを奪おう、どうやってゴールを守ろう…という、いわゆる戦術に紐づいた部分からやっぱり積み上げていく必要があります。最初から「気持ち」「気合」「根性」と割り切ってボールを運ぶことを放棄するのは、僕が求める順番ではないというだけです。でもやっぱり、積み上げてきたものを出せれば勝てるのにちゃんと出せなくて負けるとか、ちゃんと出してるのに点を取られて負けてしまうのは非常にもったいないとも思っています。

僕はプレーモデルをチームに落とし込みたいと思っていますが、プレーモデルだけでは勝てないものです。そこにはやっぱり気持ちと気合と根性が必要だし、身体を張ることが必要。「プレーする」部分と「ファイトする」部分の両方が必要なんです。「ファイト、ファイト、ファイト」だけ言っていてもどう「プレー」するのかがわからないけど、「プレー、プレー、プレー」でも「ファイト」しなければいけない。

その中で先に積み上げていくのは、どうプレーするか。僕らが勝つためのプロセスはそのプレーをするということであり、だから「プレーモデル」なんです。「ファイトモデル」を掲げるチームはありません。だけどデュエルが必要だし、球際に勝たないとといけない。そういう気持ちの部分で、「魂を込めて足を振った」といった要素がなければダメ。でもそれは日頃の練習からやってないといけなくて、「監督に言われたから今日は魂を込めます」というわけにはいかないんです。今週もバチバチやるようになりましたけど、普段の練習から魂を込めて、気合と気持ちを込めて、根性も入れながら練習していかないと、いざ試合になったときに「勝負強さ」は出てきません。したたかなチームがしたたかな練習をしているのか。「したたかさを練習する」というのはなかなか難しいものです。だから今までそこを全面的に押し出してはこなかったですけど、ファイトしたナイスゲームと、プレーしたナイスゲームの両方が存在しています。

もちろんプレーもしてファイトするのが一番いいんですけど、プレーモデルを定着させるのには時間もかかります。その中で今までできてたことができなくなったことにもいろいろと理由があって、できる人間とできない人間が混在すると、なかなかうまくいかない部分も出てきます。そうした問題と、今までと違うことにチャレンジしようとすると、そちらにフォーカスして今までやってきたことができなくなるパターンも出てきます。それも成長の伸びしろ、プロセスだと思っています。けれど、ファイトすることは明日からでもすぐできる。どうプレーするかは時間がかかるけど、どうファイトするかそれはもう明日からでも毎日やれます。

しっかりファイトして勝負強さを身に付ける。したたかさを身に付ける。それプラス、いいサッカーをやる。その2つは別々ではなくて、一緒のものだと思っています。やっぱりいいプレーをして、ファイトできるチームを作りたい。そうなってほしい。だから僕は選手をうまくしたいけど、強くもしたい。強くなってほしい。メンタル的に、フィジカル的に、戦術的に、たくましくなってほしい。タフになってほしい。それは選手も伝えましたけど、やっぱり僕自身が練習やミーティングにそれこそ魂を込めなければ、選手たちもただ聴いているだけになってしまいます。そこは自分の反省も踏まえて、ああいうゲームを二度とやってはいけないので、ファイトする部分にフォーカスしたいと思いました。

――結果から逆算しつつ、勝つ確率を高めるためにプレーモデルがある一方、それを度外視しても戦うところは戦う、守り切るという側面もあります。その中で、相手がプレスに来て怖いけどはがそう、立ち位置を取って前進させよう…という考え方も、精度は別として成立し得るものでしょうか?

そうです。だけど、そこで失って失点をしてしまうリスクがあります。僕らは今「かけなければいけないリスク」と「かけてはいけないリスク」があります。リスクをかけるか無謀と取るかというところで、そこはちゃんと判断をしたいです。今までずっとそういうチーム作りをしてきて、ある意味で無謀なチャレンジも経験してきました。それで選手がうまくなったこともありました。だけどチームの成績が出ないこともありました。それは僕自身がずっと学んできたこと。ある程度時間をかけなければできないことは時間をかけながらやるけど、今すぐできることはやっぱり今すぐやりたい。絶対にやりたい。だから例えばこの間の讃岐戦は2-0で勝ったけど、みんな誰ひとり満足していなくて、「もっともっとやらなきゃいけない」「もっともっと僕らはできる」という反応でした。ああやって、勝って反省するのが一番いいんです。

だから僕は勝つことをまず優先しますが、「どう勝つか」という部分にもこだわりたい。「きょう2-0で勝ったらいいよね」とは誰ひとり思っていないわけです。僕はすごくいいことだと思っています。勝つことを優先しながら、どう勝つかにこだわるという姿勢は、選手にも浸透してきたと思います。だからこそなおさら、(琉球戦は)1-0で勝ちたかった。勝って反省したかった。「ボールを繋げられなかったし、全然ビルドアップもできなかった。でもスーパーゴールの1点を守り切ったよね」と。そうやって僕は勝ちながら反省していくのが一番いいと今は思っています。

理想を追い求めて、「何が何でも全部後ろから繋いでいきましょう」という理想を実現できれば、もっともっと上にいけるかもしれません。ただ、それで落とした勝点で昇格できないのであれば、みんな本当にそれを信じて取り組めるかどうかという話になってきます。僕は今年優勝しようと思っているし、時間をかけても38試合で全部やろうと思っています。だから今日できることは今日やるし、時間かけてやり続けることも、定着するまで何回でもリマインドして、反復して、定着するまでやらなければいけない。それをやりながらどこまでやれるか。そうやって山を登って、登っている実感をちゃんと持ってもらうことがきっと大事なんですよね。

選手がどう思っているかはわからないけれど、練習を見ても誰ひとり諦めていないし文句も言っていないし、もっともっとうまくなろう、強くなろうという姿勢を感じます。勝つために味方同士で厳しさを伝えられるような雰囲気も出てきたし、すごくいい傾向だと思っています。だから僕自身も選手たちのことを信じていられるし、自分がこのままブレずにやり続けられるし、でもやっぱりリマインドは定期的にやらなければいけないと思っています。

――リマインドは必要だとは思いますが、例えばJ1のトップレベルであるとか日本代表であるとか、水準が変われば集団のスタンダードも変わってくるものですよね?

もちろんです。それは「習慣」であって、習慣を変えるのには時間がかかります。だけど僕は、このチームにその習慣をつけてマインドを変えたいんです。このチームにそれを植え付けたいし、それができる選手たちがいると思っています。今はもうだいぶ少なくなくなったと思いますけど、「山雅やっぱり3バックだよね、5バックだよね」と思う方も未だにいるかもしれません。でも4バックだってできます。今年をずっと見ていれば「山雅にやっぱり4バックはできない」と思っている人はいないと思うんですよ。「やれないからやらない」のではなくて「やろうとすればやれるようになる」のです。

なんで4バックにチャレンジしたか。4バックにチャレンジすることが目的ではなくて、「他のこのプレーをやることが目的で、それをやるには4バックの方がいい」という考え方で僕は4バックでやるだけ。もちろん3バックのメリットも5バックのメリットもあるし、最後に守り切るときは平気で5バックを使おうとも思っています。

そうやって指導者がやりたいサッカーを落とし込んでいく上で、選手たちが過去にどんなサッカーをやってきたか…といった要素はけっこう大事です。それによって浸透するスピードが変わってくるからです。それは僕は言い訳にはしたくないですし、実際になるべく早く浸透はできたと思います。ただ、浸透は早くしたれけどそこから定着するまで、そこから次の進化に行くまでのところで行ったり来たりしています。

――3バックの話題になったところで、次節の福島は前節まで3バックでした。監督退任に伴ってどうなるかは不透明ですが、3バックだとすると8試合ぶりになります。

どうなるかはわかりませんが、相手が何をやってくるかわからない状況のときほど自分たちにフォーカスするチャンスだと思っています。僕らはどうやってボールを動かすか、どうやってプレッシングをするか。僕らがやってきたプレーモデルをもう1回高いレベルでファイトしながらトライする。そういうチャレンジングな試合にしたいと思っています。一番はやっぱり監督が代わる劇薬を使えば、チームにギアが入ります。それを含めて倒さなければいけません。

――先ほどの「プレー」と「ファイト」の文脈でいうと、おそらく福島は少なくとも「ファイト」の部分は120%の状態だと推測されるのではないでしょうか?

僕らも相手のファイトがどうこうは関係ありません。自分たちがああいう琉球戦をやってしまった以上、もう1回ファイトしないと自分たちが目指すところにたどり着けません。そういう部分を一番のモチベーションにしたいと思ってます。大きな目標を達成するのに、一番やらなければいけないのは目の前の試合にちゃんと勝つことです。