【特別企画】GLIM SPANKY スペシャルインタビュー(後)※無料配信

7月22日の第19節ヴァンラーレ八戸戦で、サンプロ アルウィンでのスタジアムライブが実現したGLIM SPANKY。ハスキーな女性ボーカルとブルージーなギターが印象的な長野県出身の2人組ロックユニットで、音楽シーンの第一線で活躍を続けている。2回目のサッカー観戦となった松尾レミさん(Vo,G)と幼少期からサッカーに親しむ亀本寛貴さん(G)に、スタジアムライブ翌日の特別インタビューを敢行。後編ではGLIM SPANKYと松本山雅FCに通じる要素を掘り下げていく。

前編はこちら

取材日:2023年7月23日

――松尾さんは試合前のトークショーで、アーティストを目指す人に対して「根拠のない自信が大事」という趣旨の話をされていましたね。もちろん根拠があればそれに越したことはないでしょうが、「周囲の評価がどうあれ自分を貫く」という意味では、サッカーも音楽も通じるところがあるかと感じました。

松尾レミ サッカー選手は一見するとステージ上で輝いているように見えますが、日々の厳しい練習があって、どこかを傷めてしまうこともあると思います。それはアーティストも同じで、スポットライトが当たって楽しい職業とか、みんなから憧れられる職業だと思われがちですよね。ただ、ステージに出ていない部分はすごく地道で、華やかでもなんでもない部分がほとんど。私なんて曲を作っているときは、とても人間の生活とは言えない状態になることだってあります(笑)。機械ではないのでコンディションの問題もありますし、喉も筋肉なので、ちょっと使っていないだけですぐに衰えてしまいます。

そういう意味では持久力も必要だし、それを保つのもかなり大変です。それでも自分が好きでやっていることなので、どれだけ締切に追われて曲作りがシンドいと思っても、私にとっては生きがい。表現するのが大好きでやっていると思うと、やっぱり乗り越えられるところはあります。

亀本寛貴 サッカーも音楽もいろいろと大変な過程はありますけど、結局は「結果が評価される仕事」なので、そこのシリアスさはすごくありますよね。そういう意味では自分を信じてやるというのは、基本として一番大事なことだと思います。

©︎上飯坂一

松尾 サッカーのチームがあるように、GLIM SPANKYもチーム。仲間がいることの大きさもあります。そういう部分でもすごく通じるなと思っているし、根拠のない自信を貫いていくのは自分にしかできないこと。練習の量や場数はもちろん多いほうが慣れるし大事なんだけど、自信って自分の中で湧き立たせるしかないものです。

それがあったからこそ、たとえお客さんが0人だったとしても、誰からも「GLIM SPANKYはいい」って言われなくても、誰よりも自分の曲を自分で愛そうと思ってやってきました。その根拠のない自信はいまもあります。そうやって嫌なことがあってもなんでも自分を奮い立たせて、それでも「私の曲は私が一番好きだ」と思いながらやってこられたと思っています。

――亀本さんは高校でギターを始めたときに「サッカーは毎日練習をやるのが当たり前だったから、ギターも同じようにほぼ毎日やっていた」という話もされていました。そういった日々の積み重ねや継続することの重要性も感じますか?

亀本 八戸戦のときに選手を近くで見ていて感じたのは、やっぱり質です。試合前の練習でも試合中でも、ディフェンスラインの選手のファーストタッチ一つをとっても違いました。音楽もそうですが、プロと一般の方でパッと見では同じことをしていても、音の立ち上がりの速さとか打点の正確さとかが全然違うんです。

じゃあ、その違いはどうやって生まれるのか。僕は「練習はするものだ」という習慣がスポーツで身に付いていたんですよ。バンドは文化系なので誰でも簡単に始められますけど、基本的には遊びとか趣味。なかなかスポーツに打ち込むようなストイックな感覚を持ちづらくて、伸び幅に個人差が生まれてしまいます。でも僕にはそういう習慣があったので、向いていたんだと思います。

サッカーは八戸戦みたいに3点も取れば大量得点で、1点取るだけでも大きいスポーツです。ただ、1点が入るまでの攻撃は全部失敗で、どこかで失敗が起きているからこそ得点になっていないわけですよね。パスが通らなかったり、ドリブルで抜けなかったり、ボールを取られたりとお互いに失敗を繰り返すスポーツだから、いちいち「失敗してしまった…」なんて思ってもいられないですよね。

そういうメンタリティは、音楽をやっている中でも特にライブではすごく重要です。失敗を気にするとパフォーマンスに影響するので、そこで一定を保ちながらさらに上げていく。サッカーの経験が生きていると思います。

©︎上飯坂一

松尾 私、いつもそれ言われるよね(笑)。ライブで「歌詞を間違えた…」って頭を抱えてたら、「サッカーなんてミスが当たり前なんだ。だから一つの失敗で落ち込むな」って。

亀本 そうだよ、ロナウジーニョも言っていたからね(笑)。いつものプレーを試合中にずっと100%こなせることはないので、失敗して当たり前だと思います。

――亀本さんは、反町康治監督が指揮していた時期から松本山雅を好きでいてくださっています。いまのチームは当時とは違うスタイルに挑戦していますが、アーティストの皆さんもトレンドに伴って進化や変化をしていくものだと思います。もちろん「GLIM SPANKYはこうだ」という確固たる軸はありながら、その一方でさまざまな挑戦をして変化を止めないことの難しさもあるのではないでしょうか?

亀本 基本的には音楽はポップカルチャーなので、トレンドに対する変化が非常に大きな世界です。だから常にアンテナを張りながら、自分の音楽にどう落とし込んでいくか、時代の流れの中で常にどう発信していくか。それを考えるのは当たり前で、そうじゃないと生き残っていけないと思います。

一方でサッカーの難しいところは、いい選手がいて監督も戦術も良くても、2〜3シーズン経つと対策されたりして機能しづらくなることがありますよね。CL(UEFA Champions League)で優勝するような海外のトップチームを見ていても、リヴァプールの(ユルゲン・)クロップ監督でさえ勝ち続けるのが難しくなるわけです。選手もピークを越えたり入れ替わったりする中で、そういう変化はすごく大変だと思います。

松本山雅はこれまでJ1に2回昇格していますけど、2回とも1年で降格してしまいました。それが1部で生き残っていけるチームになるためには、いままでのやり方にプラスしていく必要があるのかもしれません。そこを変えていく意味でもいまはとても重要な時期だと思うので、僕はワクワクしながら見させてもらっています。

松尾 私は自分ではそう思っていないですけど、頑固なところがあると言われるんですよ。でも自分のやりたいことや好きなことが明確にある中でも、変えたいと思えるところを増やしていったり、自分の技を増やしていったり。やりたいことは変えないけど、やれることを増やす。そういう変化を日々していきたいと思っています。

例えばコロナ前は、イヤモニ(インイヤーモニター。自分の演奏を確認するためのイヤホン)を使って演奏することに大反対でした。1960年代のロックの美学に憧れを持ってやってきたので、最新機器なんて使いたくなかったんですよ(笑)。でも時代の流れによって何を大事にすべきかはどんどん変わるし、自分のいらないこだわりによってリスナーの皆さんが楽しめなくなることは一番ダメ。どんどん化石になっていくだけです。

©︎上飯坂一

でも自分の変えられるところを変えていくことで、ずっと生き続けられるかもしれない。新しい音楽を発信していきたいと思っているので、イヤモニも使うようになりました。少しずつかもしれないですけど、そういう変化を今後も続けていきたいと思っています。

――フィールドは違いますけど、GLIM SPANKYさんと松本山雅FCは通ずる部分も多いですね。同じ長野県から文化を発信していく存在として、何か伝えたいことはありますか?

亀本 自分たちは常々、長野県出身であることを誇りに思っています。でも八戸戦のパフォーマンスの後に田中隼磨さんとお話ししたときに「長野県の看板を背負って」と言ってもらって、それをより強く自覚した部分があります。「自分たちは長野県の看板を背負っているんだ」と。その誇りを持って、全国に自分たちの音楽を発信していきたい。長野県発のGLIM SPANKYを全国に響かせていこうと思います。

松尾 ロックにもいろいろなロックがありますけど、自分たちは大きな場所が似合うロックをやりたいと思っています。海外を見ても、かっこいいサッカーチームにはかっこいいロックミュージシャンのファンがついていることもたくさんあります。だから自分たちももっと成長して、かっこいいサッカーチームに似合う曲を書いて、音楽で一緒にチームを盛り上げていける未来がくればいいと思います。

山雅はユニフォームもめちゃくちゃかっこいいし、グッズもすごく好きです。長野県の自然を表すような緑色は、ワールドワイドなイメージが強いとも感じます。だから、すごくおこがましい言い方かもしれないけれども、そういうかっこいいチームにはかっこいいロックが似合います。私たちもそういうロックを作りたいと思っています。全てにおいてかっこいいチームとしてムーブメントを起こせるように、長野県を背負っていきたいですね。

――ありがとうございます。最後に、「Into The Time Hole」から1年3カ月ぶりとなるアルバム「The Goldmine」が11月15日にリリースとなります。GLIM SPANKYとして進化を続けていく中で、今回の作品にどのような思いを込めたかを教えてください。

亀本 いままで話したこととも本当に通じることなんですけど、今回のアルバムはこれまで以上にチャレンジングで、大作になると思います。サッカーのスタジアムもそうだし、大きな舞台が似合う楽曲たちがそろっているので、ぜひ楽んで聴いてもらえるとうれしいです。

松尾 ちょうど八戸戦の前々日(7月20日)に撮影があって、ジャケットなどのアートワークもすごくいいものができています。亀本が言った通り、いままで以上に広い会場を意識した音作りだったり、みんなでひとつになれる楽曲を収録したので、そういう部分も期待していただければと思います。この楽曲たちを通じて、また新たなカルチャーを発信していきたいです。

インタビュアー/大枝令