【報道対応】柴田 峡監督(2020.12.14)※無料配信
――従来は暫定的に指揮を執ってきたが、来季の続投を受けての思いは?
評価してもらったことに感謝し、重責を担うことになったという実感はある。また襟を正して前に向かっていかなければいけないと自覚した。勝負の世界だが、勝つに越したことはない。(今季途中からは)誰がやろうとクラブとして来年に繋げることを念頭に置き、目の前にあることを一つひとつクリアして取り組んできた。ボタンのかけ違いがあったら前に進めなかったし、あの状態のままシーズンを終えていた可能性もあった。それはそれで割り切ってやらなければいけない。
来年の対戦相手にとっては誰が監督だろうと関係なく、そのサッカーに勝つための戦術を取ってくる。相手チームも替わっているかもしれない。その一方、歴史としては例えば「甲府と何勝何敗で福岡と何勝何敗」というように「相性」という言葉で語られる結果がある。「山雅とは相性悪いみたいだね」と相手が感じるだけでアドバンテージがあるかもしれず、「負け癖、勝ち癖」というものも実際にある。どれだけ良い内容でも結果が出ずうまくいかないという試合を体感する一方、やることなすことすごく当たってうまくいく「不思議の勝ち」もある。観念的だが、連勝にはそういう理屈でも何でもない部分の要素も必要だと思う。
――続投に当たって大切にしたいことは?
メンバーもある程度替わっていく中、今の彼らに何ができていて何が足りないのか。新メンバーで変わった風も吹いてくるが、このチームに脈々と息づいているアイデンディティは大切にしなければいけない。プラスは残すしマイナスはなくしていかなければいけない。
例えば選手たちには駆け引きをして自分たちで考えることが欠けており、布さん(布啓一郎・前監督)もそこは指摘していた。それはソリさん(反町康治・元監督)がやっていたからという話ではなく、足りないと思われるのであれば直していかなければいけない。
あとは圧倒的なサポーターの後押しを得て運動量を絶やさず頑張れるひたむきな姿勢も、うちのアイデンティティで長所の一つ。これは継続していかなければいけない。具体的にどう攻めてどう守るかなどピッチ上の方法論はもちろん持っていなければいけないものだが、根底に流れているもので言えばアイデンティティやスタイル。それをまずはベースとして持った上で、どう攻めてどう守るか、誰を使うか、オプションはどうなのかという話になる。
それ以前のクラブの在り方、地域の中での松本山雅の必要性、選手はどのような役割を担っていかなければいけないのか。これはクラブとしても考えなければいけないし、選手も考えなければいけない。今年はJリーグで不祥事が相次いだ。スポーツ選手は地元に元気を与えなければいけない存在であり、社会にどのような必要性があるのかを再認識していくことが必要。それを踏まえた上でのチームづくりをしなければいけない。
――選手にはどのようなことを求めたいか?
「ピッチ上で選手が躍動感を持って」というのはよく出るフレーズだが、選手が「楽しい」と思ってくれないと僕はつまらない。サッカーをやるのは彼らで、できるだけこちらの介入はない方が良いし、サッカーは自分たちで判断する方が一番楽しいスポーツ。こちらがデザインした方がより勝ちに近付いていくのであれば、選手たちには「我々と一緒につくり込んでいく」というマインドで関わってほしいし、よりサッカーを深く知ってほしいし、よりサッカー小僧になってほしい。仕事に対して深く追求していくこと、造詣を深めていくことは将来的なマイナスには決してならない。サッカーを仕事にしていくとしてもそうでないとしても、一つのことを突き詰めるのは悪いことではない。そういう姿勢を求めていきたい。
あとはサッカー選手でありながら一人の人間としての姿勢を大事にしてもらいたい。ピッチ上には人間性が出るもので、ルーズな人間はルーズなプレーをする。そういうところは何を以ってルーズでなくしていくのか。アカデミーの子どもたちにも言っている話になるかもしれないが、基本はここ。「伸びよう」と思っている選手が30人いるのか15人しかいないのかで、練習の雰囲気は大きく変わる。
だからこそ練習場での熱を大事にしたいし、それは(サンプロ)アルウィンでも出る。そこそこの力がある選手は練習でできないことを本番でできるが、若い選手はそうじゃない。だから毎日の練習の熱を大事に、試合前の50分間のアップと同じようにしたい。そういう選手でなければいけないし、そういう選手がそろっていなければいけないし、そうでない選手は淘汰されるようでなければいけない。それは勝者のメンタリティにも関わってくる話で、これが一番。表面的なテクニックや戦術だけでは勝てない。今季いろんなチームと対戦し、そういう部分にこだわっているチームとそうでないチームとでは全然底力が違った。まずそのベースがあって、戦術があるべき。スタイルとかマインドを彼らと共有して育んでいきたい。
――編成の立場から現場に立つことによる利点は?
現場のリクエストを聞いてもらうのは強化、現場を説得するのが強化。ではどこで折り合いをつけるか?ということを共有しやすい。選手に近い言葉で強化とのすり合わせができる。強化をやっていた人間として、選手にとってはメリットがあるかもしれない。選手たちにとって良い環境、クラブにとって良い環境を整える。ズレが生じる場合、その距離を近付けることはできるだけやっていきたい。
――山雅の監督としてどんな部分に重点を置きたいか?
このクラブにお世話になって10シーズン目を迎えて、改めて他とは少し違うと感じている。「こんなにも地域に密着している」ということを、来てすぐの方はなかなか理解できないのかもしれない。今年はコロナで練習試合ができていないし満員のアルウィンはないが、あそこが満員になるし練習試合には500人もいらっしゃる。この熱は来て体感してもらわないとわからない。
私はその人数が5倍になり、10倍になってきたプロセスを見てきた。これを大事にしなければいけないし、クラブの中で現場に近い人間として理解しているのは自分だと思っている。サッカー云々もそうだが、マインドやアイデンティティを発信できる立場にいられることはとてもありがたい話だと感じている。
家族のように思ってくださるサポーターの皆さんと、できるだけ多くの勝利を共有したい。できない試合でも前向きに取り組んでいるマインドを共有していただけるようにしたいし、かりがね(サッカー場)は「地域のパワースポット」にならなければいけない。選手がピッチ上で歯を食いしばって、躍動感を持って、苦しみながらも楽しんでボールを蹴っている姿を見てほしいし、それに結果も出れば地域により活力も生まれる。それには「頑張ってほしい」と思ってくださるサポーターの方々との相互作用が大事。サポーターと選手、サポーターとクラブ。お互いに良い作用を生んで良い方向に向かっていけばと思っている。