
【特別企画】小澤 修一社長 一問一答 ※無料配信
――代表取締役社長を退任する役員人事が内定しました。就任からの2年間を振り返っていかがでしょうか?
2年間やらせていただいた中で、自分としても大きな気付きや成長がありました。そこに関しては非常にありがたいと思っている半面、今回の体制変更については、むしろ今までよりもアクセルを踏むようなイメージでいます。これから先の方が大変と言うか、もっとやっていかなければいけないという気持ちでいます。
――任期の中でやり切れたのか、あるいはやり残しがあったのか。手応えはいかがですか?
トップチームの方向性は、しっかり示すことができたかなと思っています。苦しい2年間でしたが、やはり今年のチームを見ていただければ分かるように、監督、コーチングスタッフ、選手が代わったからだけではなく、クラブが求める姿と地域が求める姿をリンクさせることができたかなと思っています。そういう意味では、しっかりと方向付けできた2年間だったと思っています。
――新たに代表取締役CRO(チーフリレーションオフィサー)に就くことが内定していますが、どのような仕事をイメージしていますか?
クラブ経営に携わる中で、求められるスキルが高度化してきていると感じています。Jリーグを含め、各クラブが10年後にありたい姿として経営規模を1. 5倍から2倍に拡大しようとする中で、どうやったら松本山雅がその流れから外れることなく成長し続けられるのかを考えて、今回の体制変更を進めました。
その中で求められるものが多岐にわたってくるので、役割と責任を明確に分けるということ。(代表取締役CEOに就く)横関(浩一氏)には、執行の部分、経営の部分をしっかりと任せて、私はCRO、「チーフリレーションオフィサー」と言いますが、企業や自治体、パートナー(スポンサー)、サポーターの皆さんといった多くのステークホルダーの方々との関係性を構築するような仕事をしていきたいと思っています。
――CROとは、日本語で表すとどのような役割になりますか?
あまりピンとくるものがありません。「R=リレーション」という言葉が一番重要だと思っていて、関係構築の責任者です。
――CEOとCROの役割の違いは何ですか?
CEOは経営責任者です。戦略を描いて、日々の経営と事業を推進していく機能だと認識しています。
CROは地域やステークホルダーとの関係性を深めて、活動の価値を高めていく機能だと定義付けています。
――社長交代という位置付けですか?
会社としては体制変更の出発点はそういった意図ではありませんでしたが、そう捉えられるという認識はしています。われわれにとっては、社会通念上の社長をさらに膨らませていくためのフォーメーションチェンジというイメージです。
――小澤氏と横関氏の役割を整理して、振り分けるということでしょうか?
そうですね。代表権を横関に一本化することも考えましたが、代表権を持つことで自分の役割と会社の事業を、より効果的に実績へ結び付けていくためにも、2名代表体制は続けた方がいいのではないかと、私から提案させていただきました。
今までも役割を社内、社外とすみ分けをしている部分はありましたが、それを明確に分けるイメージです。私は今までも外に出ることの方がずっと多かったですし、 経営会議や取締役会の議長は全て横関に任せていました。そういった意味では、社内ではそこまで違和感なく体制移行できると思っています。
――経営トップを横関氏に引き継ぐ形となりますが、これまでもクラブとともに歩んできたからこそ、大きくは変わらないものもあるのではないでしょうか?
そうですね。クラブとしてずっと同じビジョンを描いてやっているので、単純に「社長業を引き継ぐ」というイメージでは考えていません。もちろん(CEOとして)執行の権限はあるので横関がリーダーという形にはなりますが、私も重要事項を1人で意思決定していたわけではありません。しかるべき手順を踏んで、経営会議なり取締役会なり、そういったところで意思決定する形が徹底されていくと思います。
これだけ多岐に渡る事業を社長という役職の人間が1人で全部を賄うことは難しいと思います。それをこの2年間で痛感してきたところもあったので、今まで社長がやっていたことをさらに膨らませていくイメージで責任と役割を明確にして、お互いに力を発揮できるような状況を作りたい。そういったところでの体制変更です。
――1期2年で社長を退任することになりますが、過去2人の社長と比べ短い在任期間です。今回の人事を決めるにあたって、ご自身の意思が大きかったのか、組織として変化を望んでいたのか、どちらでしょうか?
どちらとも言えません。私自身が社長になった時もそうでしたが、いつの時も優先順位が高いのは「クラブがどうあるべきか」だと思っています。 そういった意味では、この2年間でしっかりと地盤を固めることができた中で、Jリーグが目指す10年後の姿として経営規模を1.5倍、2倍にしていくことを考えた時に、体制を変えて、もっとアクセルを踏めるようにしていかなければ追いつかないと思いました。
今回の人事は、クラブが設置した指名報酬委員会での意見交換を踏まえて決まっています。委員会でも(体制移行の)話はありましたし、私からも考えをお伝えしたり提案したりしました。その両面があります。
――ご自身の意思も関与しているということですね。
そこはあります。この2年間で感じてきたこととして、社長業はなかなか難しくて、思うようにいかないことも多くありました。このままこの体制で続けていったときに、本当に大きな成長戦略を描けるかというと、なかなかスピードが追いつかないと思ったのも事実です。
その中でも今の自分のできること、得意分野もあると思うので、そういったところにしっかりと舵を切る。クラブのためには、そのほうがアクセルを踏めるのではないかと思います。
――横関CEOはビジネスの世界に長く身を置かれていました。その経験や知見をより発揮してもらう方がクラブ経営にプラスになるという判断でしょうか?
成長のスピードの差だと思います。自分がやっても少しずつ成長していけるとは思っていますが、やはりそれでは周りのスピード感に追いついていけないことをすごく感じた2年間でもありました。それも自分の判断基準の中の大きな一つではありました。
――先ほど話していた「高度化」という意味では、パートナーやチケット、グッズ以外でも収入の形を増やしていくことにも繋がりますか?
それもあると思いますし、両面だと思います。 そこを達成するためには会社経営をしっかり固めていく作業と、関係人口を増やしていく作業が絶対に必要です。
やはり関係人口を増やしていくことでパートナー企業やサポーターが増えてくると思うので、私としてはそこをしっかりやりたいと考えています。そこから副次的に新しい事業が生まれるかもしれないし、収益源が生まれるかもしれない。そういったことにチャレンジしたいと思います。
――横関さんが経営トップに就くことで、トップチーム強化への投資など方向転換する部分も出てくるのでしょうか?
この2年間、取締役やトップチーム強化部も含めてコミュニケーションをとってやってきているので大きく変わるものではないと思っています。 ただ、さらに成長、進化していかなければいけないので、そのステップになると思います。
――ご自身が社長に就任される際、前任の神田文之氏が取締役に残り、社長業を引き継いでいく流れがあったと思います。2期目も社長を続けて、ご自身のカラーを出していきたい考えもあったのではないでしょうか?
会社のトップになるというのは全く違う景色で、その景色が見えれば見えるほど、なかなか難しいなと感じたのは事実としてあります。
もう一つは、自分がどうありたいかということはあまり関係なくて、クラブがどうあるべきかということの方が遥かに重要だと思っています。何か自分がやり残したことがあるからもう1年、2年やりたいという考えは全くありませんでした。
――社長をやってみて感じた難しさとは具体的に何だったのでしょうか?
本当に全般ですね。全ての次元を高めていかないと難しいと思いました。
昨期(2025年2月から2026年1月)の着地点で言えば15億円くらい(の決算)になると思いますが、J1の時(2019年)の27億円から比べて半分くらいになっています。これだけみんなで努力をしてもなかなか簡単には増やすことができなくて、ジレンマを抱えている部分がありました。
今の延長線上では、まだまだJ1には到達できないと思っています。今のJ1平均は50億円を超えてきている状況です。そこにどうやって到達するかというのは、喫緊の課題だと感じています。
それが全てではありませんが、トップチームにどれだけ投資できるかが、チームの強さに直結するのは間違いありません。そうするためにはクラブの収益を増やさなければいけなくて、新しいビジネスを生み出さなければいけません。そこが自分の中で一番大きな課題感としてありました。
その球(ビジネスチャンス)を拾ってくる機会は外に出る事が多い分、増えてくると思っています。球をどんどん拾って、中身をしっかりと込めてもらう。新しい体制には、そういったイメージを持っています。
――(J2、J1へ)カテゴリーが上がれば自ずと経営規模も拡大するのではないでしょうか?
目指しているところが違うという言い方になると思います。おそらくJリーグはカテゴリーが上がると、3億円から4億円くらいジャンプアップします。ただ、2019年のJ1での入場料収入は6億円から7億円くらいで、その時は1試合平均が約17,000人でした。(サンプロ アルウィンのキャパシティーを考慮すれば)入場料収入や入場者数が(2019年の)2倍、3倍になるかというと、それは難しいと思っています。
そう考えると、当時の27億円を目指してやれば、もしかしたらカテゴリー次第では到達できるかもしれませんが、それを50億円にしようと思ったら、今のやり方では難しいとも思っています。 それならば、パートナー企業様からもっと支援していただくためにはどういった価値を提供したらいいかなど、(カテゴリーを上げることとは)別のことも考えていかなければいけません。
「カテゴリーが上がったから(売上高が)自動的に上がっていく」という考え方をしていると、どんどん取り残されてしまうと思っています。
――今回の決断に関しては、どのくらいの時期から検討を重ねてきましたか?
去年の、なかなかうまくいかなかったシーズンの間から考え始めていました。任期の1年半くらいが終わって、やってきたことの成果を考えた時に、もう少しアクセルを踏み込まなければいけないなと。やはり責任の重い仕事ですので、自分がやりたいかやりたくないかだけで判断できることではありません。
そのことについて、常勤役員の間では定期的に話をしていました。今後の経営体制をどうしていくのかは常に話し合いをしているので、自然と出てきた話題でした。
――この2年間も小澤氏と横関氏の2人が代表権を持つ体制でした。体制を変えずに役割分担することも可能だったのではないでしょうか?
役割と責任を完全に分けないとスピード感が出ないと思いました。経営を2人で担う体制で取り組んできていますが、社内の経営会議や取締役会で物事を決めたり、即決したりしなければいけない案件がたくさんあります。
相談しながらもこの分野は意思決定を任せる、この分野は自分が意思決定する、それをイメージしたのが今回の体制です。
今までは私が一番上だった執行順位が横関に変わります。それは、会社の経営の部分、執行の部分は任せるという意思表示だと思っています。
――社長という役職が外れたことで、より身軽にパートナー営業などに動きたいと考えていますか?
もちろんです。(役員は)それぞれが役割を分けて、担務を持とうという話になっていて、営業の担務は私です。加えてアカデミーも見る形になるので、そこはしっかり責任を持ってやっていきたいと考えています。
――長くクラブを支えた神田氏が取締役を退任し、クラブを去ることになりますが、これも大きな変化ではないでしょうか?
この2年間は取締役として、本当にいろんなサポートをしていただきました。改めて感謝していますし、彼がいなければ乗り切れなかった部分もあります。今回、ご自身の考えで次のステージに進むため、退任の形になりました。
――横関氏にはどのような期待を持っていますか?
非常にロジカル(論理的)に物事を捉えてくれる人間で、私とは真逆のタイプだと思っています。 それが合わさることで生まれるパワーというのは、今までも感じていましたし、これからもあると思っています。しっかりと計画を練って遂行する力は、今の松本山雅にとって非常に大きな力になるのではないかと思っています。
――横関氏がいなければ、今回のような決断にはならなかった可能性もありますか?
ならなかったかもしれません。ただ今後の課題としては、外から来ていただくこともちろんそうですが、やはり経営の高度化に対応できるようにわれわれも成長していかなければいけません。企業自体も成長できるように、下から人が上がってくるような仕組みを作っていかなければいけません。そこは大きな課題だと思っています。
次の改選期には(役員体制が)今のままだとは思っていません。下から上がってくる人間、外から来ていただく人が生まれるように、この1年半を過ごしていきたいと思っています。


