コラソン試合レポート 第1節 名古屋グランパス戦
今期、見事にJ1昇格を果たした松本山雅FCにとっては待ちに待った開幕戦をいよいよ迎えた。対戦相手はJ1の常連であり、就任2年目となる西野朗監督が率いる名古屋グランパス。チームの特徴としては、強豪ひしめくJ1の中でも屈指の個人技の高さを誇る点が挙げられるだろう。
この試合、僕が注目したのは、特に技術・スピード・高さを持った名古屋の攻撃陣を、山雅がJ2時代から積み上げてきた組織的な守備力でどこまで凌ぎ切り、そこからの速いカウンター攻撃を用いてチャンスをどれだけ作り出せるか、という部分だ。今後のリーグ戦を戦っていく上でも、山雅にとっては、ここがポイントの一つになると思う。
注目選手、先ずは古巣対決となる田中隼磨選手を挙げたい。彼にとっては34戦ある中の1戦。でも、名古屋でJ1優勝も経験し、自身にとって特別な存在のクラブであることは間違いないだろう。個人的な感情は当然あるだろうが、チームスタメンにJ1出場経験のない選手が6人と半分以上を占める山雅の中で、田中選手の存在は精神的な面でも貴重な存在だ。
そして、もう一人。僕が注目するのはオビナ選手。ワントップを任される彼は、チームの命運を握っている存在、といっても過言ではないだろう。彼が機能するか否かはこのリーグ戦を戦う上でも非常に大事。だからこそ、注目をしてみたい。
午後2時、山雅FCにとって記念すべきJ1公式戦のキックオフを告げるホイッスルが鳴った。前半、立ちあがりの4分。縦に入った名古屋FWノヴァコヴィッチ選手のボールに対して、22番小屋松選手に走り込まれゴールキーパーと1対1となるピンチを招いた。
こんな場面もあったが、これ以外は球際でも戦えていた。もっと硬さが見られるかと思っていたが、そんなことはなく悪い立ち上がりではなかったと思う。
その中で、17分。バイタルエリア(ボランチとCBの間)で池元選手が縦パスを受け、オビナ選手にポストプレーをして、オビナ選手が抜け出し左足でシュート、という場面があった。これまでのプレシーズンマッチ2試合を見た限り、オビナ選手とシャドウの池元選手が近い距離感でチャンスを作ることが少なかった。それだけに、今日のこのプレーは良かったと思う。これからの試合の中でも、このような攻撃を増やしていければ得点チャンスも増すだろう。
また、21分にチームとして連動したプレスでボールを奪った場面も良かったと思う。
しかし、チームとしてやりたいことが出来てはいたけれども、名古屋グランパスの「個の能力」の前には時折、脅威を感じる場面もあった。
そんな中で迎えた32分、岩上選手のコーナーキックからオビナ選手がゴールキーパーの前で合わせ、先制。山雅にとって待望のJ1初ゴールが生まれる。まさしく山雅の狙い通りであり、キッカー・岩上選手のキックはJ1の舞台でも武器となることを感じさせてくれる初得点となった。キーパーとDF2人に競り勝っての得点を決めたオビナ選手。
しかし、その喜びも束の間の33分。名古屋FW永井選手のポストプレーからFW小屋松選手が抜け出し1点を返されてしまう。この時の対応は前述した4分の場面と同じで、敵に前線で起点を作られ2列目から走り込んだ選手に決定機を作られている。極力、真ん中で起点を作らせないことが必要だし、作られてしまった場合には周りの選手がカバーしあって防ぐことが重要だろう。
ここで前半終了。決してチャンスは多くなかったが、「これが山雅の戦い方だ」ということを示せた前半戦だったと思う。
そして後半に入ると、僕が注目選手に挙げたオビナ選手が、俄然その存在感を放ち始めた。54分には、ボールを収めて起点を作る活躍。61分には名古屋田中マルクス闘莉王選手を背負いながらもボールを受けてかわじ、起点となった。このプレーは、単純なようだが山雅にとっては非常に重要なプレーだ。オビナ選手は日本でプレーするのが初めてで、決して少なくない不安を抱えていたと思う。しかし、フォワードは、1点を取るとノッてくるものだ。前半、得点を決めたオビナ選手は、得点後、自分のプレーに自信を持って試合に臨んでいたように見えた。また、オビナ選手は攻撃面だけでなく、守備のコーナーキックでも、マークにつかないフリーマンとして大きな役割を果たしていた。
63分のコーナーキックからのプレー。またしても岩上選手のキックからニアで合わせた飯田選手が放ったヘディングシュートのこぼれ球を池元選手が押し込み、勝ち越しとなる2点目を上げる。1点目のオビナ選手に続き、同じくフォワードの池元選手が点を取ったが、やはり点を取ることでノッてくることは間違いない。これからのリーグ戦に向けて、このフォワードの二人が開幕戦で得点を決めた意味は大きい。
後半70分前後から名古屋は田中マルクス闘莉王選手をフォワードに配し点を奪いに来たが、それでも山雅の勢いは止まることはない。右からのクロスのこぼれ球がオビナ選手の前へと転がり、クロスに対して走り込んできた喜山選手にラストパス。76分、喜山選手はこれを利き足となる左足で冷静に決めてゴールネットを揺らす。山雅のストロングポイントである、走力を活かしてクロスに対して人数をかける攻撃が出来ていたからこその得点だ。
これが今までのJ2リーグだったら、試合はこのまま終わっていただろう。しかし、そうはいかないのがJ1という国内最高峰のステージだ。
ここからチームが誇る「個の力」を全面に押し出した名古屋グランパスの逆襲が始まる。見事な個人技で押し込まれ始めた78分。セットプレーの崩れから田中マルクス闘莉王選手にヘディングシュートを決められてしまう。そして、名古屋は更にFW川又選手を投入することで、身長180センチオーバーのヘディングに強い選手がピッチに6人揃った。
その僅か2分後となる80分にも、セットプレーから競り勝った名古屋川又選手がヘディングで落とし、落ちたボールがノヴァコヴィッチ選手の足元へ転がる。決して簡単なシュートではなかったが、振り向きざまに左足で山雅ゴールを突き刺した。反町監督のコメントにもあった通り、J1ではちょっとした隙でも得点に結びつけてくる。本当に1歩2歩の世界だが、あと1歩寄せられていればこの失点は防げたかも知れない。これは山雅FCに反町監督が就任して以来ずっとこだわり続けている部分であり、J1で戦う今年、よりこの点を突き詰める必要があるだろう。
試合は3対3の振り出しに戻り、名古屋はより攻勢を強めてくる。そして89分。クロスボールに対してノヴァコヴィッチ選手に対応していた松本のDF後藤選手がファウルを取られてしまい、PKを与えてしまう。クロスに対するノヴァコヴィッチ選手へのディフェンス陣の対応を、僕はこの試合が始まってからずっと注視していた。僕自身、選手時代には同じポジションで、自分よりも背が高くヘディングの強い選手と対戦をしてきた経験から言えるが、このような場合、常に近い距離で、クロスが上がった時にしっかりと競り合えるポジショニングを取ることが(身体をぶつけられる駆け引きというものが)求められる。このPKを取られるまでは、必死にマークを外そうとするノヴァコヴィッチ選手に対して対応していたのだが、このプレーに関しては激しいチャージをしてしまいファウルを取られてしまった。しかし、このPKに対しGK村山選手がファインセーブを見せてくれ、試合はそのまま3対3で終了した。
たかが開幕戦、されど開幕戦。開幕戦の勝敗と戦い方は、その後のリーグ戦を大きく左右するのは間違いない。そういう意味では、勝ち点1を守ったGK村山選手のPKストップはビッグプレーだった。
僕が選手を辞めて迎えた、初めての山雅FC公式戦。戦う選手はもちろん、名古屋まで応援に駆け付け共に戦ったサポーターにあらためて胸を熱くさせられた。これから長く続くリーグ戦も、選手とサポーターが一体となって戦い、感動を与えてくれるような試合が観たい…そんな想いを強くした一戦だった。
文章:コラソン 飯尾 和也
元 松本山雅FC センターバック。
ヴェルディ川崎、ベガルタ仙台、サガン鳥栖、横浜FCなどでのプレーを経て、2011年 松本山雅FCへ加入。松本山雅FCのJFL→J2→J1昇格へ貢献し、2014年シーズン終了後引退。 現在はメンタルサロン コラソンの代表を務める傍ら、講演会等も行っている。
Jリーグ通算311試合出場
U-16、U-18、U-19日本代表