【試合前コメント】霜田 正浩監督 第14節 北九州戦 ※無料配信

――信州ダービー後の会見は今までになく言葉少なでした。もちろん再三強調されていたように「悔しさ」が一番の理由ではあるでしょうが、改めてどのように課題を整理しましたか?

今までの監督人生では「勝っても負けても内容にこだわる、次に繋がる試合をする」というスタンスでしたが、先日の信州ダービーは違っていて、「内容はどうでもいいから勝ちたい」という思いでした。すぐそこまで勝利が来ていたのに、それをみすみす逃した悔しさしかありませんでした。

サッカーの世界に「たられば」はありませんが、「たられば」を言う時に主語は全部「僕ら」になります。僕ら次第です。「相手がうまかった」「相手のドリブルが、シュートがすごかった」ではなくて、細部にこだわるのもゲームコントロールするのも全部自分たち。残念ながらカップ戦はなくなってしまったので、今年立てた大きな目標に向かって進むことにフォーカスします。

――試合をクローズしにかかって守り切れなかったのもそうですが、風上の前半に追加点を取るべきだったという考え方も成り立つのではないでしょうか?

普通のゲームであればそこにフォーカスします。ただ、この前のゲームに関してはそこにフォーカスしても仕方がないと思っています。ミーティングで話したのは、「ロングボールも一つの武器だし、下から繋いでいくのも武器」だということ。それを使い分けてこそ、本当の意味でバランスの取れた戦いができると思います。「(徹底して)蹴るのか繋ぐのか」という二者択一の議論ではなく、サッカーとして相手に勝つための武器を増やし、その武器を使うタイミングを全員で一致させることが一番大事だと思っています。

相手を見て立ち位置を取るのはずっと今までやってきたことです。例えば相手が前から(プレッシングに)来ていたとして、そこにロングボールを少し多めに入れてひっくり返すのか、わざわざリスクをかけてショートパスを繋いでいくのか。もちろん美学としてはありますが、美学ではなく「結果」を求められているチームの状況、大会、試合でした。そこはリスクをかけず、相手陣地に入ってから自分たちのサッカーをやればいい。大宮戦ではそれが統一できていたと思います。

――外から見ると簡単そうに見えるかもしれませんが、試合中に戦況に応じて戦い方を変えるのは非常に難しい作業ではないでしょうか?感知して、解決策を見出して、発信して、共有して、表現する――という、いくつもの段階があります。

百歩譲ってそうだったとしても、85分から先の戦い方は誰が見てもどう考えても統一しなければいけませんでした。だから「内容が少し乏しかった」「でも1-0で勝ったから次のステップに行ける」「それを踏まえて反省できる」というのが一番良かったです。たとえ特定の選手がいなくても誰かができるようになってほしいし、意思統一のために発言できる人間を増やさなければいけません。

それをできるのが、僕はボランチだと思っています。だからボランチの人間だけを集めて話をしました。能力的にも経験的にもクオリティ的にもサッカーIQ的にも、うちのボランチはみんな走れるし、ボールを受けるのを怖がらない。そういう選手たちがもっと主導権を握ってゲームを動かして、本当の意味で車を動かすエンジンとなってほしいです。

――強い発信源となるには、まず言うことに説得力が必要です。それはどう生まれるかと考えると、言っている内容の正当性だけではなく、「この選手が言うならそうだ」という納得感があるかどうか。それはどのように醸成されるかというと、日々の取り組みを周囲が認めているかどうかに回帰していき、そうなるには一定の時間を要するのではないでしょうか?

僕自身がまずそうです。口だけになってはダメ。言葉もそうですけど、やはり行動です。選手の中でもキャプテンとかではなくても、リーダーシップを持って発信できる選手をたくさん増やすことが大事だと思っています。キャプテンシーのある人だけに頼るのではなく、みんなが自分事にして、「自分が誰かに頼られる存在になる」ことが大事です。

ここに来てから勝っても負けても、主体的にサッカーに取り組んでいくことを続けています。今週のトレーニングもそうでしたが、(ピッチの)中で選手たちがいろんなすり合わせをしていました。その数は去年より圧倒的に増えてきたと思います。僕がしゃべることよりも、彼らが中ですり合わせすることの方が多くなってきました。

もちろんサッカーの世界は正解がなく、「誰が正しい」とかではありません。ただ意思統一がいろんなグループごとにできて、それがチームになっていくのが一番いい。僕は方向性をつけて矢印を作りますけど、その矢印を太くする作業を選手たちがやってくれるといいと思っています。

――そうした要素を積み重ねつつも、原点となる部分で守備の厳しさを表現し続けることも大切です。紅白戦でもシュートブロックで前に出ること、顔を背けない(半身にならない)ことなどが発信されていました。どのエリアでどう守るかはチームによりますが、失点の少なさはゴール前でどれだけこだわれるかが左右してくる部分もあるのではないでしょうか?

少し緩かったりフワッとしていると失点してしまいます。金沢戦で殴られてから、そこはもう一回しっかりこだわろうと。人を捕まえること、厳しくすること、真面目にやること。それは自分たちがボールを持ってどんなサッカーをやろうが、相手がボールを持っている時は変わらないことです。そこをもっと突き詰めて厳しくやる。練習もそういう雰囲気になっています。

クロスを上げさせても中で弾けばいいし、シュート打たれてもGKが止めればいい。確かにそうですが、それだと結局そこ頼りになってしまいます。外のディフェンスと中のディフェンスとGKで、水も漏らさないように何層にも防御策を張って最大限に抵抗したいです。

相手のクオリティは関係なく、自分たちがまずゼロで抑える。そうすれば僕らは点が絶対に取れるチームだと思っています。ベースとしては失点をせず0-0の時間が長くなれば勝つ確率は上がっていくということで、それはみんな意思統一ができ始めてきていると思います。

そうやって、攻撃の矢印も守備の矢印も両方をやれるチームが最終的には強くなると思っています。それプラス、クラブの基準やルール、カラーなどがあります。松本山雅はやはりそんなに点を取られてはいけない。そのカラーは残したいし、3点4点と取ってもいきたいです。

――「カラー」はピッチ上で表現される現象ですが、それだけでなく「やるべきことを徹底する」「ディティールにこだわる」という部分も従来の松本山雅が大切にしてきた要素だったと思います。それも引き続き大切にしたいのではないでしょうか?

ボールを繋いで崩して…という美しい部分だけでなく、「試合に勝つ」ことを考えると、美しくないことも楽しくないこともやらなければご褒美はありません。僕らは優勝・昇格できると思っていますが、そのためにはハードなこと、やりたくないこと、面倒くさいことも含めて続けないとご褒美は得られないと思います。だから今は(練習で)和気あいあいとした雰囲気はなくなってきているかもしれませんが、つらい思いをしても試合で笑えればいいんです。

――楽しくて好きなサッカーを仕事にしているのは大前提ですし、そういうマインドの方が余裕を持って良いプレー選択と良いコントロールができる可能性もあるとは思います。ただ結果が出ずに終わることが続けば、クラブはもちろん選手の価値も上がらず、好きなサッカーを続けることができなくなってしまうかもしれません。

そうです。ここにいられなくなる、Jリーグにいられなくなる…そんな話はいくらでもあります。そうなってから「ほら、あの時やっておけばよかった」では遅いんです。「若いときに流さなかった汗は、歳を取ってから涙に変わる」という昔の言葉があります。若いうちに苦労をして汗をかいておいた方が絶対にいいと思います。