【特別企画】都丸 善隆SD一問一答 「2025後半戦に向けて」※無料配信

2025年シーズンも前半戦を終えた。松本山雅FCは6勝5分8敗(勝点23)で12位での折り返し。目標としているJ2昇格から逆算し、現在地をどのように分析しているのか。都丸善隆スポーツダイレクター(SD)の囲み取材をインタビュー形式で再構成した。


――前半戦を12位で折り返しました。得点や失点の数も含めて、ここまでの戦いを振り返っていかがですか?

まずは昇格をミッションとして掲げている中で、12位という順位は成績が出ていないので、皆さまのご期待に応えられてないことを真摯に受け止めないといけないと思います。6勝5分8敗で負け越している状況ですし、得点は21、失点は26。 1試合あたり1失点を上回っていて、得点より失点のほうが上回っている。そういった部分で言えば、特に守備に課題があると感じています。

ただルヴァンカップや天皇杯など、カップ戦で普段リーグ戦に出場していないメンバーが、ベテランも若手も中堅も持ち味を出してくれました。勇敢にアグレッシブに戦ってくれて一定の成果を挙げたことに関しては、非常にポジティブに捉えています。選手の頑張りに敬意を表したいと思っています。

昨シーズンまでヘッドコーチを務めていた早川監督に率いてもらう中で、クラブの志向する攻撃的なサッカーというところ。霜田前監督の攻撃的なエッセンスを踏襲しながらスタートしました。その流れをくみながら守備の改善やバランスの修正を念頭に置いて戦ってきました。

攻撃面ではボール支配率が51.2%(前々節終了時点)でリーグ6位。攻撃をしている時間帯だったり割合は多いと言えるとは思いますけど、シュート数が1試合平均11. 1本でリーグ14位。ボールは保持しているものの、シュートまで行けていない状況があるのは課題だと思います。

カウンターアタックや速攻が少なくて、スピーディーな攻撃ができていない側面も課題だと思います。その点は攻撃の優先順位をもう一回認識しないといけないし、相手の守備陣形が整う前に攻め切ることで一番点が入ると思っています。そのチャンスを逃してしまっている可能性はあるのではないかと捉えています。

あとは遅攻になった場合でも、相手のアタッキングサードに入っていく手前でボールを保持はします。ただアタッキングパス、もしくは仕掛けが少ない印象があります。ゴールを目指す積極的なプレー、ランニングでボールに絡んでいく、追い越していく。そういうプレーもまだまだ必要だと思います。

守備面で言えば、コンパクトにして、中を締めて外に誘導していく。 そこにプレスをかけてインターセプトだとか、タックリングでボールを奪う。前線からのプレスに関しては、一定の成果が上がっていると思います。

インターセプト数が1試合平均1.5でリーグ5位。 ボールの出どころに狙いを定めて、積極的なチャレンジができている状況を作れていると思います。

本来であればプレスを機能させてから速攻で、手数をかけないで攻めるのが攻撃の一つのトレンドだとは思っています。ただショートカウンターの回数自体が少ないので、そのあたりの守備から攻撃に繋げるというところ。奪った後の「前」という意識が少なくて、そこからポゼッションに入ってしまう。 そのあたりは意識を変えていかないといけない部分はあると思います。

あとボール奪取だとかタックルというデータを見ると、昨シーズンはリーグ最下位でした。そこに関してはかすかに改善されてはいますけど、まだ劇的によくなっているという状況ではありません。まだまだ改善の道半ばだと捉えています。

――ボールを保持しながらなかなかシュートに行けていない遅攻のところでも、もう少し攻撃の再現性がほしいようにも感じます。そのあたりはどう見ていますか?

攻撃の根本的な課題として、サポートの距離、角度、タイミングだったり、良い距離感で近くでリンクできていないところはあると思います。それがビルドアップもそうだし、プログレッションの局面もそうですけど、ボールを持っている選手が出しどころがなくて困ってしまう。そんなシチュエーションがまだまだあると思っています。

そういう状況になると相手からプレスを受けて、ボールを失うリスクが増えてしまったり、ボールの近くに人がいない状況で失うと守備者もすぐに機能できない状況になります。「攻守一体」の観点から言えば、距離感がフワッと悪い意味で広がってしまうと、攻撃も守備も機能しない状況が生まれてしまうと思います。

話を攻撃に戻すと、良い距離感と角度でサポートが作れていれば、もっとリンクしてくると思います。そうなればビルドアップでもプログレッションでもアタッキングサードでの崩しでも、コンビネーションが生まれたり、ランニングで相手を混乱させるようなシチュエーションが作れたりすると思っています。

――そこは選手に直接アプローチする立場ではないにせよ、早川監督と綿密にコミュニケーションを取っているイメージでしょうか?

試合が終わった後は基本的に毎回話をしますし、ポジティブな要素だったり課題をすり合わせながら進んでいます。私からも「ここ数試合は同じ課題が続いてるので、改善にトライしてほしい」というリクエストもタイミングを見ながらしています。

――現在は3バックですが、キャンプの際には4バックで攻撃を構築していました。当時はサイドに人数をかけたときに、クロスに対して中に人がいない現象も見られたと思います。今はそういったシチュエーションは少ないかもしれないですが、クロスからの得点が少ないことも課題に挙げられますか?

クロスとかドリブルの本数はリーグの中でも下位だと思います。 特にその2つにこだわっているとか、攻撃の形を限定しているつもりはなくて、手法が何であれゴールという目的に向かう。 選手たちがイメージ共有しながらそういう状況を作れることが大事だと思います。

クロスという点で言えば、サイドを打開できるかも一つのポイントですけど、中にターゲットになるような選手がいるかいないかというのも少なからず影響してくると思います。今はFWに高さがある選手は少ないので、そういうところも影響はあると思っています。

――速攻という課題も挙げていました。そこには切り替えの意識もリンクしてくると思いますが、地道に取り組んでいくことになりますか?

攻撃の優先順位が大事になってくると思います。ただ攻撃のことだけではなく、カウンターとなれば守備とセットな部分もあります。 プレスがうまくハマってボールを奪って入れ替われたら、もちろん前にスペースがあったり、前方にプレーしやすい状況にはなります。

守備でコンパクトな状況を作りながら、インターセプトができるような前向きの守備をしながら、攻撃に繋げる。インターセプト数は比較的多いほうではあると思いますけど、奪った後に手数をかけないで攻めるというよりは、ボールを大事にしながら一息ついてしまう。 ボールを大事にしすぎて、攻撃が遅くなってしまうところは課題としてあると思います。

奪った後にボールを前に運ぶというのは、監督も練習から伝えています。そこは根気強く続けていかないといけないと思います。

――守備ではセットプレーでの失点が増えてきています。ゾーンやマンツーマンなどの守り方もありますが、やはり減らしていきたいところでしょうか?

セットプレーからの失点が7。ほかのクラブに比べて特別多いわけではなかったとしても、割合的には多いと思います。失点の大きな要因になってしまっているところはあるので、改善点として認識してます。そこはコーチングスタッフが相手の狙いとか、自分たちの強みとか、そういうものを踏まえながら配置を考えたりしています。

基本的にはゾーンでやることが多いですが、その微修正というのは毎節話をしています。改善されると確信しています。

――同じ横からのボールで言えば、クロスからの失点は少ないように思います。

クロスも基本的にはゾーンで対応するようなシチュエーションが多いですが、そこからボールに対して前にチャレンジするのは、山雅に残っている伝統だと思います。

クロスもそうですが、ペナルティエリア内でボールとゴールを結んだ線上(BGライン)に人が集まって、BGラインに集結・集中する守備。そこで目を背けたり背中を向けたりしないで、身体の面を作って対応するというのは毎日積み重ねています。それが成果にも出ているとは思います。

――身体を張る意識が高まっている一方で、失点数が減らないことにはもどかしさもあります。

失点のパターンはいくつもありますけど、守備のアンバランスというか、ポジションバランスが崩れた中で速攻を食らったり、集結・集中できるような陣形にならない間に攻められる。対応に後手を踏んでしまうようなシチュエーションは多いと思います。

これは攻撃にも関係することですけど、試合を通じて攻守のバランスを失わないこと。攻撃も守備も良い距離感でサポートを作れると、先ほども話したように攻守一体になります。 その状況をできるだけ長く保ちたい。

もちろん終盤で点を取りに行かないといけないときは、ある程度リスクを冒して前に出ていくシチュエーションもあると思います。そのあたりは得点差とか、時間帯とか、プレーエリアとか、状況を踏まえた中で選手たちの判断が重要になってきます。 もちろん監督の指示もそうです。

そこでアンバランスになってしまう必要がないのに、無理して人数を前に割きすぎてしまうとか、空けてはいけないポジションを空けてしまう状況はまだまだあると感じています。

もちろん後半になってくると全体的に間延びしてくることはあると思いますけど、強いチームはそういう時間帯になってもバランスを失わない。 攻撃しながらもリスク管理をしていたり、間延びしないというのは共通する要素だと思います。そこは見直さないといけないです。

――序盤戦は終盤にかけてスライドの遅れも顕著に現れていました。そういった現象は少なくなってきたのではないでしょうか?

序盤戦は後半の後半に落ちる状況はたしかにありました。最近はメンバーも比較的若い選手が増えてきて、走力という部分は強みなので、終盤になってもガクッと落ちない一因としてあると思います。

あとはアンバランスになってしまって、チームがコントロールされていない状況になると、無駄なエネルギーのロスとかスプリントして戻らないといけない状況が余計に起きてしまいます。そういう試合運びのうまさというのも、最後に走り負けしないことに繋がってくるとは思います。

変にエネルギーをロスしないで、バランスを崩さず、勝負どころで出せるか。もっとそういう状況を作らないといけないし、それが最後の守備の粘りとかにも繋がっていくとは思います。

走力のところで言えば、データで相手チームに上回られてしまうことは多くあるので、そこのベースアップは大きな課題だと思います。(第18節)栃木SCでは中盤での球際の争いはほとんど持っていかれていたし、1対1の勝率もリーグ最下位です。

走る、戦う。1対1で負けない、勝つ。そういうサッカーの根本のところは、まだまだ大きな課題だと捉えています。

――そこはキャンプで追い込んで習慣化するチームもあれば、シーズン中に追い上げていくチームもあると思います。どちらかと言えば後者のイメージでしょうか?

キャンプの時期というのは、フィジカルのベースを上げるのも大きな目的だと思います。そこは早川監督とか國保(塁)フィジカルコーチと話をしている中で、ケガでの長期離脱を避けながらベースアップしていくことを求めたいと思っていました。

実際にキャンプ中は肉離れだったりというケガはほとんど出なくて、そういう意味では、國保フィジカルコーチのコンディショニングにはリスペクトを持っています。選手たちがピッチに立てる状況を作ってくれたことに関しては、良い仕事をしてくれたと捉えてます。

ただ、フィジカルのベースアップというところで言えば、キャンプ中もそうですけど、シーズン中のメニューのボリューム調整とか、高強度のランニングを入れていくとか。走り負けているという現状もあるので、そこは追求しないといけないと思っています。

――ケガのリスクもあるとは思いますが、夏場に走り負けないためにも必要になってくるのでしょうか?

夏場だけではないと思いますが、リーグが中断する期間もあるので、一つテコ入れできるタイミングかもしれないです。ただそこでケガ人が出てしまって、勝負の後半戦のところで欠員が出てしまうのも避けたいです。ケガをしないことをクリアしながら、ちょっと刺激を入れることもできる時期かなと考えています。

ただ、基本的には通年です。練習もオフ明けには2部練習もやってきました。今は暑いのでコンディションを考慮して、ボリュームをコントロールしてはいますけど、若手とか出番が少ないメンバーは全体練習後にセッションも入れています。 フィジカルのベースが上がっていくようなトレーニングは、通年やっていきたいと思っています。 

――早川監督はキャンプから規律を重んじてきましたが、そのあたりの成果についてはいかがですか?

早川監督のマネジメントは非常に丁寧だと思います。やはりアカデミーの指導歴も長いですし、選手たちと向き合って、会話を重ねながら同じ方向に進んでいくというマネジメントは非常にうまいです。

規律という点では厳しい罰則もありますが、それによって選手たちの意識が改善されたところもあると思います。特に体重を測ったりというのはおろそかになってしまいがちですけど、細かいところから徹底してやっていく流れでスタートしました。

選手たちも比較的忘れずに体重を書いてくれるようになりましたし、そういう細かいことをきっちり仕上げていくこと。コンディション面をこちらが把握しやすくなっているところもありますし、選手たちのサッカーに対する意識や取り組むマインドは変わってきていると思います。

あとはメンバーを外れた選手にも声をかけてフォローしたり、早川監督だけでなくスタッフ全員で気を配ってくれるところもあります。チームワークで選手を支えながら進められているところもあると捉えています。

――夏の移籍市場に向けては、補強を考えている部分もあると思います。現状はどのようなピースがほしいと考えていますか?

シーズン当初から層が薄いと感じているポジションはありました。そこに対しての補強は12月からずっと取り組んできていて、実際にオファーした選手もいましたけど、さまざまな要因で成就しませんでした。ルーカス(バルガス)が途中で入ってきましたけど、それ以降は獲得できなかった状況もあります。

ただ、もちろん引き続き探してはいます。持ち味のある選手を加えたいポジションは複数ありますが、予算も限られています。何ポジションにも資金が分散してしまうよりは、ある程度は集中投資をして、質の高い選手を獲得するというイメージはしています。

――ポジションに優先順位をつけるのか、選手のクオリティに集中投資したいのか。どちらの考え方でしょうか?

ポジションで優先順位をつけています。例えば1番に全部使う可能性もあるし、2番まで考えたときに1番目を少し抑えて、2番もある程度のクオリティの選手を獲得することも考えてます。

あとはもちろん移籍市場はずっと動き続けているので、選手がもし流出してしまうポジションがあるのであれば、そこは準備をしておかないといけないです。移籍も選択肢の一つだし、新人も選択肢の一つではあります。 今の山雅は平均年齢が若いですが、そこに食い込んでこられる大学生もいるとは思います。

そういう選手たちも加えながら、厚みだったり質を高めていく。私も前任の仕事がそんなものだったので、江原(俊行スカウト)と連携しながら選択肢を模索しています。

――まだまだ試合に絡めていない選手もいますが、そういった選手の移籍も選択肢に入ってくるのではないでしょうか?

そういう話もあります。天皇杯とルヴァンカップがあるときは、リーグ戦で出番がない選手たちが躍動して、勇敢に戦ってくれました。そこは敬意を持っていますが、リーグ戦1本になったときにメンバー外が続く可能性があったり、試合に多少絡んでいてこの選手がほしいと言われた場合に、全体のバランスの中で選択を検討することはあり得ると思います。

ただ、人数が多いことによるメリットもあると思います。紅白戦とかをやるときに、人数が少ないチームはユースだったり、外から練習生を借りるシチュエーションもあります。そうなると質が落ちてしまうとか、戦術的なものを求め切れないようなところも出てきてしまいます。

そういう意味では山雅の場合、外から練習生を呼ばないと練習が回らないようなことは、GK以外はありません。そんなにチームがバタバタせずにやれているし、若手も伸びてきて主軸になっている選手もいます。そこは慎重に見極めながら判断していかないといけないと思います。

――若手の成長という部分で言えば、ここまではどのように評価していますか?

キャンプで練習試合をやったときとかは、やはり昨シーズンの主軸の選手たちがスタートから出ることが多かったと思います。スタートから出ていない選手でも、良くなっていきそうだと期待していた選手はいて、実際にその選手たちは試合に絡んできています。

ポジションの層が薄くなったことが追い風になった選手もいますが、若手の伸び率だったり成長速度はすごいなと驚きました。そこもチームづくりの面白さの一つだと感じてます。

――育成型期限付き移籍で加わった選手たちについては、現状をどう見ていますか?

期待していた通りになっていない選手もいれば、夏ぐらいに出てきてくれたらいいかなという選手もいました。その選手が少し早めに絡めるようになったりもしましたけど、その後に停滞してしまったり、若さが出てしまうところもありました。

彼らもこの苦しい時期をどう乗り越えていくかというのは注目しています。夏を過ぎたくらいにグンと伸びてくる選手もいると思っています。

――安藤選手が長期離脱してしまった影響というのも感じましたか?

多大にあると思っています。 動き出しのタイミングもすごくうまいし、ボールの収まりもいいです。ボールを収める仕事をしてから、またゴール前に入って点を取るところもできて、チームの主軸になる選手だと思っていました。彼の離脱は、チームに少なからず影響はあると思います。

サッカーは組み合わせなども大事だと思います。それこそまだホットラインという感じではないかもしれないですが、 菊井のパスに田中想来が抜け出すシチュエーションは増えてきていると思います。2人の関係性だけで相手の守備ブロックを打開してしまうような関係は、もっと増えてくる可能性はあると期待しています。

――今季はチーム運営費の節減にも取り組んでいます。それがチームに与える影響はなかなか可視化出来ないと思いますが、うまくやりくりできている部分もあると感じますか?

影響はあると思います。 例えばキャンプ地のところで言えば、グラウンドとホテルが近くて2部練習ができて、食事もすぐ取れる環境で長くやれたとしたら、もっとコンディション面は整っていたかもしれません。ただ、人のせいとか物のせいとか、環境のせいにしないというのは、大事にしていかないといけない考え方です。

どのクラブでも、100%環境が整っていることはないと思います。 今は松本山雅がJ3にいて、資金的にも限られていて、練習場も確立された場所があるわけではない。移動もあるし、食事がすぐに取れない状況もありますけど、ハンデがある中でも成果を挙げてきたチームはあると思います。

そのために、自分たちが何ができるか。どういう工夫をしていかないといけないのか。そういう方向に目線を向けていかないといけないと思います。「お金がない」や「環境が悪い」で片付けてしまうと、やはり進歩がないので、そういう姿勢というのは選手にもスタッフにも求めていきたいところではあります。

例えば試合中も、レフェリングによって損をする試合もあると思います。でも得する試合もあるし、どうしてもJ3のレフェリーの方の経験値はJ1に比べると低いことが多いです。判定が不安定になることも織り込み済みでやらないといけないし、それを言ってしまったら進歩もないです。それで負けたと言っていたら、成長するチャンスを逃していくことにも繋がります。

「人のせい」「物のせい」「環境のせい」にしないというのは、引き続き求めていきたいと思います。

――アカデミーの選手も練習参加していますが、育成組織との連係についてはいかがですか?

地方クラブという性質上、アカデミーから輩出される選手を編成に組み込んでいくのは、これからもっと必要だと思っています。高い金額で選手を買えるような経済状況ではないので、自前の選手を育てていって、その選手たちが主軸になって活躍してくれるのが一番です。地元の方々も喜んでくれますし、クラブとしても忠誠心を持った選手が長くプレーしてくれるのは理想的だと思います。

今はユースから上がってきた選手たち、もしくはユースから大学経由で戻ってきてくれた選手たちが主軸になり始めています。屋台骨を担い始めてくれているので、とても良い流れが生まれてきていると感じます。

それは今後も続けていきたいですし、こちらがただ待ってるだけではなくて、アカデミーの選手が伸びるような環境を作っていきたい。練習参加の頻度を増やしていくとか、トップチームのコーチングスタッフからアドバイスしてもらうとか、そういう関係性は濃くしていけると思います。

それこそ中学3年生の選手にも練習参加をしてもらいましたが、それは今までの歴史の中では恐らくなかったと思います。 年齢や性別は関係なく、能力の高い選手たちが一緒に練習するという試みはかつての所属クラブでもあり、その良さも感じてきました。

――J3も後半戦が始まりますが、リーグ全体の傾向についてはどう見ていますか?

J3に限るかは分からないですが、高強度で走って戦ってプレーするチーム、もしくはスピーディーなチームが比較的成果を上げている傾向はあると思います。逆に比較的丁寧にサッカーをするようなスタイルのチームは、苦戦しているケースも多いと捉えてます。

ただサッカーはどんどん移り変わっていくので、ポゼッション型のチームにもまた新たなエッセンスが加わって、それが主流になっていく時代もあるかもしれません。ただポゼッション型と言っても、フィジカル的なことだったり戦うベースみたいなものは年々要求度が高まっています。それを度外視して技術、戦術だけで勝ち切ることはもうできないと思います。

そういうタフさとかがまた加わったポゼッションだったり、もっと運動量が多くて、モビリティが高い中で、ボールを大事にしながら崩していくチームも出てくると思います。松本山雅には反町監督時代に培われた手堅さだったり規律、オーガナイズがあったと思いますが、そこから攻撃的なエッセンスを見直していく流れにあると思います。そこは継続しながら成果を挙げる方法を模索しています。

また、サッカーの魅力が薄れていると言われる時代にもなってきていると思います。

去年J1の試合を見に行ったときに、前に小学生ぐらいの子どもが4人横並びで座っていました。ただ、その子たちは目の前でサッカーの試合がやっているのに、隣の子とずっとゲームをしていたんです。

それが招待券だったのかどうかは分からないですが、そこそこグレードの高い席だったと思います。でも、そこに座って目の前のサッカーを見るのではなくて、ゲームに熱中している。「これはまずいんじゃないか」と思いました。

実際にサッカー離れみたいなものは、水面下で進んでいる感じがします。創造性があまりに損なわれてくると、若い人たちを惹きつけるスポーツとして残り続けるのか。それは分からないところもあります。

一生懸命にやるのはもちろんですけど、もっと知的で、テクニカルで…。そういうエッセンスをなくしてしまうと、サッカー界にとってよくないのかなと思うところもあります。

――従来から松本山雅FCを応援してくださる方々のボリュームゾーンは、クリエイティビティよりも突出したハードワークに魅力を感じる人が多いようにも感じます。

11人全員が(クリエイティブに)やる必要はないと思います。 守備はもちろん手堅くハードにやりますが、攻撃では前線の選手たちのコンビネーションだったり、クリエイティブな要素だったり、そういうものがキラリと光るみたいなバランスは成立しうると思います。

11人でパスを繋いで丁寧にやっていくわけではなくて、手堅さの中に何かキラリと光るものがある。そういうエッセンスは残したいと思っています。

私は昨シーズンの終盤の試合も見ていましたが、特に3バックになってからは、面白いサッカーをするなと思っていました。11人で攻撃的なサッカーをやるというよりは、ある程度守備を堅くしながら、前線の1トップ2シャドーの連係だったり、スピーディーなカウンターだったり。角度を変えながら絡んでいくような崩しは面白かったです。

ああいうものがあれば、見ている人に楽しんでもらえるようなエッセンスが打ち出せるかもしれない。それに共感してくれる人もいるんじゃないかと思っています。

――後半戦での巻き返しに向けて、最後に見通しを聞かせていただけますでしょうか。

前半戦は勝点3を取りに行って、勝点1も失ってしまった試合もあったと思います。もちろん常に勝点3を取りに行かないといけないと思いますが、最悪でも勝ち点1を取るようなバランスを保ちながら、勝点3を取りに行く。そういう手堅さがある中で、勝負どころを抑えて最後にリスクを冒すことも必要だと思います。

先ほどもお話ししましたが、「攻守一体」がまだリンクしていないと思います。今のサッカーは「攻撃」「守備」「守備から攻撃への切り替え」「攻撃から守備への切り替え」という4局面がシームレスにどんどん循環していく中で、それが少しブツ切りになってしまっている現状はあると思うんです。それを攻守一体にしたい。

そのためには攻撃のときに良い距離感でサポートして、近くで絡めるような状況を作らないといけないと思います。それでもし失ってしまっても、すぐに囲い込んで取り返しに行けるような状況を作るのは、根本的に大事だと思っています。

そういう状況ができればアンバランスにならず、カウンターを食らってしまうようなシーンも減ってくるし、試合運びも安定してくると思います。 あとは今シーズンは逆転勝ちした試合がなくて、先制されると盛り返せない。その状況もやはり打開しないといけません。劣勢なときの戦い方の共通認識とか、個人での打開力とか、そういう選手たちを補強するのも必要なことだと思います。

攻撃ではポゼッション率は高いのにシュートに行けてないということを考えると、やはり優先順位の見直し。あとはカウンターで、相手の守備陣形が整っていないときに点を取りに行く。効率の良い攻めみたいなところももう一回見直したいです。

速攻は速攻で一番最初に狙う。それができないときに、遅攻でポゼッションしながらプログレッションしたり、ラインブレイクしていく。そういう使い分けみたいなところは、まだまだ見直せると思います。

今は若手が台頭してきて、彼らが主軸として引っ張ってくれているところはありますが、これからよりシビアな試合が増えてきたり、緊張感が高まる試合が増えてくる中で、ベテランの選手の存在感が際立ってくるシチュエーションもあると思います。

昨シーズンの終盤もそうだったと思います。若いチームの試合運びの幼さだったり、大舞台への弱さというのは絶対にあります。そういうときに経験のある選手が大人の試合運びだったり、経験に基づく助言だったり、ムード作りができるか。

ベテランの選手が大きな貢献をしてくれる時期が、これから来るんじゃないかと思っています。経験に裏付けられた的確なプレーとか、流れを読んだプレーとか、私は見ていてそういうものが好きです。ベテランの選手がそれを要所要所で出してくれて、大人のチームに導いてくれることを期待しています。