
【試合展望】第21節 長野戦
“One Soul”――。
日に焼けて色が落ちた、小ぶりの横断幕を見ただろうか。いつ誰が書いたとも知れぬ手書きのメッセージで、びっしりと埋め尽くされているそれを。
前節のスタジアムは、ただ一枚掲げられたその旗印のもとに一つになった。
横断幕が「1枚だけしかない」のではない。「1枚だけに絞った」のだ。極限までシンプルに突き詰めた時、松本山雅にとって必要なメッセージはそれであると。
スタジアムには老若男女、さまざまな人が足を運ぶ。しかしひとたび緑を身にまとえば、分け隔てなく緑の友。手を叩いて、声を張り上げて、タオルマフラーを掲げる。ただ、松本山雅の勝利だけを願って。
――それが、“One Soul”であるということだ。
一度掲げたスローガンが他クラブと重なっていたため、One Soulを代案としたのが2009年。まだ松本山雅が北信越リーグを戦っている時代のことだった。
以降、その横断幕もフレーズも、いつも松本山雅とともにあった。
拮抗した試合の最終盤、スタジアムが叫んでいるかのような大音量の“One Soul”コール。いったい何人の選手が、その声に押されて足を動かしただろうか。それによって、どれだけ歓喜の瞬間を迎えただろうか。
そうやって、我々は魂の緑色を深めてきた。
そのことを思い出させられるような、“One Soul”まみれの前節。そして7月19日の次節、我々の魂が一つであることを、否応なく突きつけられる一戦が待つ。
信州ダービー。
語頭の「信州」を抜いてしまったら、どこのダービーか判然としない。すでに人口に膾炙している看板を下げる必要性は皆無だし、ましてや「これぞ」と言わんばかりの定冠詞を代わりにつけたりするようなこともないだろう。
あくまでも、「信州ダービー」である。
確かに松本が発信源となったフレーズではある。もともと信濃國のフットボール文化は常に中信地方が牽引してきたのだから、それも歴史の成り行きとしては当然。ことサッカーにおいては州都であり、蹴都でもある。
であるからして、我々は威風堂々と北方へと赴き、大勝利を収めて帰還するのみ。そこは不倶戴天の橙色に染められた、まつろわぬ者たちの地。我らにとっては天下の険でもあり、リーグ戦では2007年の北信越リーグ1部第12節以来、実に18年間も白星を挙げられていない。
だからこそ、今回は大いなる好機なのだ。
百獣の王であるはずの獅子は現在、千尋の谷で身をかがめている最中。5勝6分9敗(勝点21)の17位で、最下位まで勝点3差となっている。双眸の獰猛な輝きにはゆめゆめ警戒が必要ではあるものの、高空から組み敷くべき局面と言える。
先方にも意地があろう。
だからこそ、それを打ち砕く加勢が必須だ。
魂を緑色に染め抜いた一団が裂帛の気迫を示すとき、難攻不落の橙色の要塞が傾くだろう。岩をも通す一念。それこそ、我らが連綿と語り紡いできた旗印に他ならない。
“One Soul”――。
心一つに、証明すべき戦いだ。
ここは緑の山国であり、雷鳥こそ王であることを。
この戦いが「信州ダービー」であることを。
そして当面、最後の顔合わせであることを。
