【試合レポート】第32節 千葉戦

取材日:2021年9月26日

千葉  0-0  松本

フクダ電子アリーナ/3,895人
警告【千】新井一、チャンミンギュ、田口、サウダーニャ【松】佐藤、橋内、常田、野々村

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耐え抜いてドロー 名波体制初の無失点

【評】山雅はディフェンスに奔走し、ゴールを割らせず勝ち点1を持ち帰った。序盤からほぼ一方的にボールを支配される展開。しかしクロス対応やセットプレーなどで決定的な穴は空けず、カウンターを狙いながらゲームを進める。後半はさらに守勢を余儀なくされたものの、やはり綻びは見せない。決定的なピンチもGK村山がビッグセーブを2度見せてゴールマウスを守り、名波監督が就任して13試合目で初のクリーンシート。攻撃は機能しなかったものの勝ち点1を上積みし、山雅は7勝10分15敗の勝ち点31。順位は19位に後退した。

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ほころび見せず 貴重な勝ち点1をゲット

山雅は耐え抜いた。

シュート数は4対18で、CK数は0対13。まさに圧倒されたものの、最後の一線だけは譲らず無失点で切り抜けた。名波監督も「結果として勝ち点1を持ち帰ったのは一つ成長したところ。チームバランスが崩れていない相手、攻撃の迫力がある相手にゼロでやり切ったところは収穫」と振り返る。熾烈な残留争いの中で、石にかじりつきながら最低限の勝ち点を死守した。

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ゲームプランは入念に練り上げてきた。田口泰士と熊谷アンドリューの実力派2ボランチを警戒し、陣形も3-1-4-2としてトレーニングから準備。そして千葉は5セット目――つまり60分以降にチーム全体の運動量が落ちるとみて、終盤に勝負を懸けるよう意思統一した。外山は「まず60分は失点ゼロ。残り30分は絶対に僕たちの方が走れる。残留争いで気持ちも引き締まっているはずなので、そういう展開にもっていきたい」と話していた。

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果たして前半はその通りに進んだ。190センチの1トップ・櫻川ソロモンに起点をつくられ、2シャドーと左右ウイングバックも絡む千葉の攻撃に対して守勢に回る。「大外だけでなく中にも見木(友哉)選手や(櫻川)ソロモン選手がいるので、そこにボールがこぼれてきたときに拾えるポジショニングと、逆サイドに振られたときに少しでもボールアプローチに行ける距離を意識していた」と下川。統一感を失わずに対峙した。

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それでも左右をえぐられ、セットプレーの守備が序盤から連続した。だが、ゴールは割らせない。「サイズを言い訳にはできない。みんなで声を掛け合って最後のところで体をぶつけたり、ムラさん(村山)やハシくん(橋内)を中心に声をかけてくれたり、やれることを話し合って集中できていた」と大野。マッチアップの身長差で負ける組み合わせは多かったものの、果敢に体を当てて自由を剥奪した。

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そしてスコアレスで迎えた後半。粘り強さを保ったまま時間が進み、60分を迎えた。しかし、形勢は変わらない。引き続き千葉が攻めの手を緩めず、一方的にボールを動かしながら襲いかかってくる。これは誤算で、指揮官は「おそらくプレスの強度自体は落ちたと思うが、我々に出ていくパワーがなくて、後ろの選手がスローインをクイックで始められないくらい疲労していた」と振り返る。

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それでもなお、ゴールだけは譲らなかった。櫻川にも見木にも船山貴之にも決定的な仕事をさせず、体を張ってシュートブロック。こぼれ球にも先んじて反応し、必死にかき出した。時間が進むにつれて、最低限の勝ち点1でも確保するよう自然と意思統一。常田は「チーム全体として共有できて、サッカーのやり方を全員がしっかり頭に入れてやれた」と汗をぬぐった。

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絶体絶命のピンチは、GK村山が最後の砦として立ちはだかった。83分、自陣左CKからのシーン。櫻川にタイミングぴたりのヘディングを至近距離から打たれたものの、持ち前の鋭い反応でセーブした。直後のピンチも再び防ぎ、窮地脱出。「前節は(失点に直結するミスをして)多大な迷惑をチームにかけた。取り返すのはピッチの中でしかできないと思って1週間準備してきた」という言葉を、プレーで体現してみせた。

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「守備の時間がずっと長くて厳しいゲームだったが、今の自分たちにできるのは勝ち3、勝ち点1をもぎ取っていくこと。内容は別として、今できる最低限のことはできた」と河合。もちろん誰もが勝ち点3を目指してゲームに入るのは大前提だが、残留争いの現実を踏まえれば勝ち点1を持ち帰るのも重要なミッションだ。それを誰もが暗黙のうちに共有し、スコアレスドローに持ち込んだ。

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ただ、想定以上に攻撃が機能しなかったのは大いなる改善点。後半のシュート数はゼロ本で、敵陣30メートル以内に侵入できたシーンも数えるほどだった。山口と伊藤の2トップが仕事をする機会は皆無。ボール奪取後の精度に難を残して即時奪回をかいくぐれず、再び守備に回る悪循環に陥った。平川は「セカンドボールを拾えなかったりファーストプレーで奪われてしまったりして、チーム全体が引いてしまう展開が続いた」と話す。

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残留を争う他チームも勝ち点を積んだため、山雅は再び19位の降格圏に沈んだ。大宮、金沢、愛媛の3チームは白星を挙げて3をもぎ取り、群馬、北九州、相模原はいずれもドロー。残り10試合の局面で、下位チームのほとんどがしたたかに勝ち点を上積みしている。結果論だが、ここで山雅が取り残されていたら――と想像するだけでも背筋が凍るというものだろう。

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そして実際、山雅は3試合負けなしで流れを繋ぎ止めている。金沢戦の土壇場で拾った勝ち点1を次節の北九州戦で3に昇華させたように、次節のホームゲームで白星を挙げればいい。しかも相手は、前回対戦時に苦汁をなめさせられた栃木だ。「自分たちのホームの最高の場所、サンプロ アルウィンという場所で勝ち点3を手にすることが大事」と村山。我らの家で、勝どきをあげる下地はしっかりと整っている。

編集長 大枝 令 (フリーライター)

1978年、東京都出身。早大卒後の2005年に長野日報社に入社し、08年からスポーツ専属担当。松本山雅FCの取材を09年から継続的に行ってきたほか、並行して県内アマチュアスポーツも幅広くカバーしてきた。15年6月に退職してフリーランスのスポーツライターに。以降は中信地方に拠点を置き、松本山雅FCを中心に取材活動を続けている。