【特別企画】レジェンド 柿本倫明からのエール ※無料配信
山雅の歴史をひも解くと、常に瀬戸際の戦いに身を置いていたことがわかる。近年で言えば、JFL昇格を果たした2009年シーズンはまさに死闘の連続だった。北信越リーグ1部は4位に沈んだものの、全国社会人選手権(全社)を制して全国地域リーグ決勝大会(地決)の切符を獲得。そしてアルウィン開催だった決勝ラウンドで優勝を果たして昇格を決め、夢への大きな一歩を踏み出した。8年が経って最終節を控えた現在の山雅も、同じようなギリギリの状況。時がうつろって人は入れ替われども、いまに生かせることはないだろうか。当時を知るレジェンドの一人・柿本倫明に話を聞いた。
-2009年当時にチームの中心だった柿本さんにうかがいます。現在とは所属リーグも選手の質も環境も違うのは前提ですが、当時のチーム状況はどうだったのでしょうか?
チームがJリーグを目指すという中で、結構瀬戸際だったところがありました。負けて結果が出なければ「チーム自体がどうなるか」ということすら危ぶまれる状況でした。今シーズンの山雅とはサッカー的にも戦力的にも全くの別物ではありましたけど、かなりの緊張感があったのを覚えています。当時は(天皇杯で)浦和に勝ったというのが自信になったし、それで勇気をもらえたのが大きかったと思います。
-その中で、ご自身としてはどのような心境だったのでしょうか?
個人的には上のカテゴリーから来て「元Jリーグ選手」という肩書きを持つ立場だったので、なかなか結果が出せずに焦りはありましたね。
-当時のリーグは「地獄の北信越」と呼ばれるほど激戦で、山雅は4位に終わって地決に進めず、全社枠での出場に望みを懸けることになりました。5日間で5連戦という全社のレギュレーションは死闘そのものだったと思いますが?
全社は本当に、肉体的にも精神的にもかなり追い込まれましたね…。今年(フットボールコーディネーターとして派遣されているアルティスタ東御で)久しぶりに経験しましたけど(笑)。ただあのときはチーム全員で「何とか勝ち抜こう」という一体感があって、試合に出ている選手も出ていない選手も同じ意識でやれていたと思います。
-「One Sou1」という意味では今にも相通じるものがあるかもしれませんね。そして見事に地決に進んだわけですが、そこでの戦いぶりを振り返るといかがでしょうか?
地決の決勝ラウンドがアルウィンであるということで、「何としてでもとにかく地元に戻ってこよう」というのを合言葉にして臨みました。やっぱり地元でやる以上そこには地元のチームが出ていなければいけないし、地域の方々と一緒にJFL昇格を祝いたいという気持ちが非常に強かったですね。今回はJ1昇格プレーオフに行けるか行けないかということで、当時と今とで似ている状況かもしれません。
-あれから8年が過ぎて山雅を取り巻く環境は本当に大きく変わってきましたが、当時も今も共通して言えることはありますか?
常に僕たちは「新参者」であって、チャレンジャー精神を失ってはいけないということ。2012年からJリーグに上がって6年が経ちましたけど、現状に甘んじるのが当たり前だという雰囲気になってもらいたくはないですね。やっぱり常に日本のトップを目指してやってほしいと思っています。
-チームとは少し離れた立場からご覧になっていて、今シーズンの戦いぶりに関しては率直にどのような印象を持っていますか?
特に終盤戦にかけてギリギリの戦いになればなるほど、今までなら思い切ってやれていたところで少し自信がなくなっているようにも感じますね。攻撃だけじゃなくてディフェンスも含めてみんなで連動して全員で1つのボールを奪いに行く戦いをしていたような気がしていたのに、その部分で少し迷いが生じていたのではないかと。
-ご自身の経験を踏まえた中で、そうした状況で最終節に臨む選手たちにメッセージを送るとしたらどのようなものになるでしょうか?
次の1試合でプレーオフに行けるか行けないかが決まってくるというのはかなり追い込まれる状況ではあると思います。でも、単純にもう少し自信を持ってプレーしてもらいたいのと、あとはほんの少しの勇気を持って挑んでもらいたいということですね。それは応援してくれている人も感じることだと思います。消極的にならずプレーしてくれれば、おのずと道は開けてくるはず。原点に立ち返って、攻守にわたってダイナミックな「反町サッカー」を表現してほしいですね。
-あとはサポーターの皆さんの存在も欠かせないと思います。当時もやはり、声援は力になりましたか?
ピッチで力を出せるかどうかという意味で、かなりの割合を占めるんじゃないでしょうか。僕は少なからずそうだったし、当時のメンバーにとってみれば「最後の一歩」が出る原動力になっていたのは間違いありません。そういう意味では、今回もホームで大勢の山雅サポーターの前で試合ができるということはメンタル的には確実にアドバンテージになると思います。
僕の現役時代を振り返っても、シュートを打ったことに対してサポーターがコールをしてくれたりチャントを歌ってくれたりするのは結構聞こえるものでした。シュートが外れてしまったとしても「自分のプレーで沸いてくれたんだ」と感じて自信に繋がるし、「次は決めてやろう」という気持ちになりましたね。今回もぜひサポーターの皆さんにお力添えを頂きながら、何としても勝利をもぎ取ってほしいと思います。
1977年、福岡県出身。大阪体育大卒業後の2000年にJ1福岡に入り、以降は大分、C大阪、湘南でFWとしてプレー。Jリーグ通算155試合29得点の記録を残した。08年に北信越リーグ1部の山雅に加入し、背番号10の主将としてチームを支えた。10年に現役引退し、11〜16年は山雅の初代アンバサダーを務める傍らユースアカデミーのコーチとしても活動。現在は北信越リーグ1部のアルティスタ東御にフットボールコーディネーターとして派遣されている。
編集長 大枝 令 (フリーライター)
1978年、東京都出身。早大卒後の2005年に長野日報社に入社し、08年からスポーツ専属担当。松本山雅FCの取材を09年から継続的に行ってきたほか、並行して県内アマチュアスポーツも幅広くカバーしてきた。15年6月に退職してフリーランスのスポーツライターに。以降は中信地方に拠点を置き、松本山雅FCを中心に取材活動を続けている。