【編集長コラム】最終節の山雅 力が宿る、その理由は ※無料配信

最終節の山雅には、有無を言わせない凄みがある。思えばJ2に参入した2012年以降、リーグ戦最終節は3勝2分0敗。そのどれもがスリリングかつドラマチックで、それぞれのシーズンの「集大成」と呼ぶにふさわしい好ゲームだった。今回は時系列順に振り返りつつ、その強さの源を探っていきたい。

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まずは12年。J1昇格プレーオフ進出の可能性は第40節栃木戦で敗れて消滅していたものの、最終節は目を見張るようなパフォーマンスを披露した。迎えたのは4位大分。プレーオフ圏内が確定済みだったうえ自動昇格の2位とも勝ち点3差とあって、2日前に松本入りして準備を万端に整えていた。

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だが試合は森島康仁、三平和司ら相手の強力な攻撃陣に決定的な仕事をさせず、スコアレスドロー。特に後半はシュート数14対7と圧倒するなど互角以上の戦いぶりで、試合後の田坂和昭監督(前山雅コーチ)は「松本は夏以降に非常に力をつけたため覚悟して試合に臨んだが、走力に何度も苦戦した」と振り返っていた。

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13年は歓喜と落胆が交錯した。勝ち点3差に山雅を含む4〜8位の5チームがひしめく大混戦で迎えた大一番。現山雅コーチの石丸清隆監督が率いる愛媛を迎え撃ち、J2でクラブ通算100ゴール目となるエース船山貴之のPKが決勝点となって1−0と勝利を収めた。

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試合終了直後に他会場の結果がアナウンスされ、山雅は7位。しばしの静寂に包まれた後、健闘をたたえる惜しみない拍手がピッチに降り注いだ。「このメンバーが来季も残ればおもしろいサッカーができると思う」。当時の取材ノートをひも解くと、船山はこんな手応えを口にしていた。このほか、出場停止だった飯田が試合後のセレモニーで披露した名スピーチは今も語り草の一つだろう。

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船山の言葉通り、14年は躍進。最終節はまさに「大団円」だった。第39節福岡戦でクラブ初のJ1昇格を決めており、現山雅の三島康平擁する水戸を迎えた一戦。山雅は序盤こそ耐える時間が続いたものの、39分に岩上祐三のFKから大久保裕樹が鮮やかなオーバーヘッドを決めて先制。その後も2点を奪って畳みかけた。

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そのシーズン限りでチームを去る野澤洋輔と玉林睦実を起用したほか、81分には現役引退を発表済みの飯尾和也も途中出場して花道を飾った。そして試合終了後には、サポーターが用意した緑色の紙テープ15,000本が一斉にピッチに投げ込まれる「グリーンシャワー」。アルウィンはかつてない幸せに満ちあふれた空間となった。

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唯一のアウェイだった15年も、筆舌に尽くしがたいほどの感動に包まれた。前節のセカンドステージ第16節神戸戦でJ2降格は決まっていたものの、日産スタジアムに乗り込んで横浜FMを相手に一歩も譲らぬ好勝負。中村俊輔のFKや齋藤学のドリブルを必死に食い止めるなどし、故・松田直樹さんを巡って縁浅からぬ両クラブの激戦はスコアレスドローで決着した。

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この試合では石原ら若手が奮闘したほか後藤、那須川と故障者も復帰して好パフォーマンスを披露。来季への希望を大いに感じさせながらの幕引きとなった。「必ずまたこの舞台に戻ってきたい」。そう思いを新たにしたサポーターの方々も多いのではないだろうか。

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そして昨季は史上最多19,632人が詰めかけたアルウィンで、横浜FCに逆転勝ち。立ち上がりこそ受けに回って9分に先制を許したものの、高崎がPKなどで2ゴールを挙げる。そして白眉は2−2で迎えた82分。低く鋭い弾道でニアサイドを狙った宮阪の左CKに対し、三島が長身をかがめながら決勝ヘッドを決めてみせた。

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さらに、故障者が立て続いたチーム事情があるとはいえ、現アンバサダーの鐡戸裕史がシーズン初先発に抜擢されて奮闘したのも記憶に新しい。清水が奇跡的な9連勝で2位に滑り込んだため3位でJ1昇格プレーオフに回ることとなったが、この試合自体は気迫に満ちあふれていた。

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なぜ最終節の山雅は結果を出せるのか、答えは明白だ。13年に対戦した愛媛の石丸監督は当時「(17,000人弱の観客に)異様な雰囲気をつくられ、若干浮き足立ってしまった」とコメントを残している。15年は降格決定済みのアウェイにもかかわらず約10,000人が駆けつけたし、16年には田中が「みんなが背中を押してくれたおかげだということは間違いなく、胸を張って言える」と感謝の弁を口にしていた。サポーターの声援が選手の闘志をかき立てるのはどの試合でも同じだが、集大成の最終節となればそれもなおさら。東京V-徳島、千葉-横浜FCなど他会場の経過も気になるところだが、目の前の京都を倒しさえすれば道は切り開ける。そのカギを握るのはまさに、「背番号12」の力に他ならないのだ。

編集長 大枝 令 (フリーライター)

1978年、東京都出身。早大卒後の2005年に長野日報社に入社し、08年からスポーツ専属担当。松本山雅FCの取材を09年から継続的に行ってきたほか、並行して県内アマチュアスポーツも幅広くカバーしてきた。15年6月に退職してフリーランスのスポーツライターに。以降は中信地方に拠点を置き、松本山雅FCを中心に取材活動を続けている。