コラソン試合レポート ATHLETAマッチ2015 栃木SC戦

前週、日産スタジアムで横浜F・マリノスを相手に1-0で勝利した勢いもそのままに臨みたいプレシーズンマッチ第2戦は、去年、J2を舞台に熱戦を繰り広げた栃木SCとの勝負。これは余談だが、去年まで現役選手としてピッチに立っていた僕にとって、この栃木県グリーンスタジアムは思い出深い場所のひとつだ。シーズン序盤、なかなか試合に出られなかった僕がようやく初スタメンを果たし、そしてその試合でチームも勝利を収めることが出来たという僕にとってのラッキープレイス。グラウンドを見ていたらそんな記憶が蘇り、ちょっとだけそんな感慨に耽ってしまった…って、私事ですみません(笑)

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さて、それでは試合を振り返ってみよう…と、その前に。最初にこれだけは知っておいて欲しいことがひとつあるので、先ずそれを。この試合の前日、チームは地元でイベントに参加(山形村アイシティ21で開催された『キックオフイベント』)。夕方までをこのファンとの交流に費やした後に試合会場である栃木へと3時間かけて移動し、宿泊場所に到着したのは夜の10時を過ぎていたそうだ。

もちろん、応援をしてくれるファンは大事だし、交流が出来るイベントを大切にしなければいけないのはプロとして当たり前のことではある。このスケジュールを「大したことない」と言う人も、もしかしたらいるかも知れないが、それはちょっと待って欲しい。自分が選手時代、このような状況と似た日程で試合に臨んだことがあったが、まるで身体に錘(おもり)を付けたかのようなだるさを感じ、本来の動きが出来なかったことを覚えている。

選手もプロである以上、どのようなスケジュールが組まれようともそんなことを言い訳にすることはない。今回の強行日程のテーマは、試合後に反町監督が会見で述べた「(このような)状況の中で何が出来るか、を見たかった」という言葉に集約されるのではないだろうか。体が重く感じられる厳しい状況の中でも、試合が始まれば走って走って走り抜く「山雅らしさ」を見せられるか。これからはいよいよリーグ戦も本番を迎え、当然のことながらタフな試合が続くだろう。体力面は言わずもがな、メンタル的にも真に「闘える」選手を見極めるための場。そんな側面もこの試合にはあったのかも知れない。

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さて、前半。試合の立ち上がり、先ずはプレッシャーを前からかけたい山雅のFW陣だがなかなか思い通りに事は運ばない。前がかりとなったボランチの背後を相手に上手く使われてしまう場面が目立った。

象徴的だったのが11分と14分のプレー。前線がプレッシャーに向かっている中、ボランチの背後に抜かれたボールを受けられてしまい相手に前を向かれてしまった。このエリアで敵にボールを受けられてしまうと、J1では失点につながる可能性が高い。パーフェクトを目指すのは難しいが、それでもこのような場面は極力、減らしたい。

原因は二つあると僕は考えている。一つめは、先ほども挙げた試合当日のコンディション。例えば、ボールに対して自らの体を数十センチ、寄せることが出来るか否か。その差が、次に出てくるボールを取れるかどうかにもつながってくるし、一人ひとりの出足が遅れるとプレスをかけることが出来ず、逆に前がかりになったその背後のスペースを狙われ、使われてしまう。そういった微妙な部分・反応や初動の差はコンディションに左右されるものだ。

原因の二つ目は、相手のシステムとの噛み合わせ。山雅の「3-6-1」と、栃木の「4-4-2」では山雅にとって分が悪い点がある。栃木の攻撃的な中盤の選手が中に入り、センターバックとボランチの間で受けられると山雅にとっては泣きどころとなってしまうのだ。

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と、このような原因を僕なりに考えてはみたが、実のところ全く心配はしていない。37日の開幕戦にはコンディションを万全に整えて臨めるのは間違いないし、去年もどのようなシステムの相手とも大きく崩れることはなかったからだ。

そろそろ試合に戻ろう。対戦相手である栃木SCに、そのバイタルエリアを上手く使われてしまい後手に回っていた前半。18分には最終ラインが乱れ、自陣でボールを失うと対応のミスからファウルを犯し、相手にFKを与えてしまった。

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このエリアでボールを失うと、リーグ戦でも失点につながる可能性が高い。本番では最新の注意が必要となるだろう。しかし、逆にいえばプレシーズンマッチでこの点に気付けたのは収穫だったと思う。今回は、FKから相手に先制ゴールを許してしまったが、リーグ戦でもこのように先制されるシチュエーションは十分に考えられる。それだけに、僕が興味深かったのはその後の試合運びだ。

相手に先制を許し、1点ビハインド。そんな負けている場面で考えなければいけないことは、それ以上点を与えることなく、自分たちがゴールを決め得点すること。言葉にしてしまえば当たり前のことなのだが、言うほど簡単なことではない。どのチームもクオリティが高いJ1において、失点した山雅は当然、前がかりにならざるを得ない。そうなった時に、相手に得点を与えないということは、思っているよりも難しいことなのだ。

先ず、大事なのは相手に先制点を許さないこと。でも、山雅の場合はたとえ前がかりになったとしても守備を固める場面に切り替わった時、戻れるだけの「走力」という武器がある。この日も、コンディション的には決して万全とはいえない状況であったとは思うが、チーム全員が誰ひとりその足を止めることはなかった。そして74分にはMF前田選手の技ありの個人技が炸裂。栃木ディフェンスの裏に飛び出し、 左足で蹴ると見せかけ右で上げたクロスにDF田中が反応し同点。去年同様、後半は走力で相手を上回っていたことは本当に頼もしい限りだ。

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試合自体は11の引き分けで終わったものの、この試合でもいくつかの大きな収穫があったと思う。先週はオビナ選手に大いに期待が出来る、と書いた。今週、存在感を示したのが見事な同点ゴールをアシストしたMFの前田選手。前田選手が上げたクロスに田中選手がヘディングを合わせゴール、同点となった場面だが、山雅が点を取るためにはこの2人のコンビネーションが非常に有効だと思えた。この場面ももちろん素晴らしかったが、76分、90分と相手のボランチとセンターバックの間の危険なエリアで受け、を前に仕掛けることが出来た。相手チームにとっては「嫌なポジションを取るなあ」という印象を与え、脅威を感じさせられたのではないだろうか。それに、守備に対しても非常に意欲的に取り組んでいたと思う。船山選手(船山貴之:現川崎フロンターレ)が抜け、心配していたポジションではあったが、先発した池元選手も含め良いライバル意識を持ち、お互い高め合っていくことが出来れば、これから迎えるリーグ戦においても山雅か得点するチャンスも生まれるだろう。

そして、この試合では地味ながらも非常に目を引いたのが岩上選手と岩間選手の二人。岩上選手は、前半から何本も裏へのスプリントを繰り返し見事な走力を見せつけてくれた。岩間選手は、23度と追いかけるボールへの執着、そして攻撃でもクロスボールに対して躊躇なく入っていく点など去年よりも運動量が更にアップしているように見えた。試合後、本人に話を聞くことが出来たのだが、実際、調子も良さそうだった(このインタビューの様子は動画コンテンツからご覧ください)。新規加入組はもちろん、彼らのような既存の戦力にも是非とも頑張ってほしい。

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この試合が行われたのは31日。遂に37日のJ1開幕まであと1週間を切った。開幕戦といえども34戦ある中の試合の一つに過ぎないのかも知れない。でも、やはり松本山雅FCにとっては、J1という晴れ舞台での大事な大事な初陣だ。選手にはその日に備え、しっかりとコンディションを整えてもらいたい。そして、熱きサポーターの皆さん。オフシーズンの山雅不足をこの開幕戦にぶつけてほしい。

そして…サポーターも選手も、皆が笑顔で名古屋から帰りましょう!

飯尾和也

文章:コラソン 飯尾 和也

元 松本山雅FC センターバック。
ヴェルディ川崎、ベガルタ仙台、サガン鳥栖、横浜FCなどでのプレーを経て、2011年 松本山雅FCへ加入。松本山雅FCのJFL→J2→J1昇格へ貢献し、2014年シーズン終了後引退。 現在はメンタルサロン コラソンの代表を務める傍ら、講演会等も行っている。
Jリーグ通算311試合出場
U-16、U-18、U-19日本代表