【試合解説】第41節 相模原戦 ※無料配信

残留圏の18位と勝ち点4差で迎えたアウェイ相模原戦。J2ライセンスを持たないJ3宮崎の結果次第では19位でも残留の可能性があるが、得失点差を考えれば引き分けも許されない。まずは絶対に得点を奪わなければいけない試合だった。

ルカオ 生かし方次第でさらなる脅威に

「相模原もそうかもしれないが、我々も相当硬くなってしまって、その緊張がだいぶ手に取るようにわかっていた」と名波監督。立ち上がりから互いに失点をしたくない気持ちが強く出た。守備では前から奪いに行くよりも、ブロックをつくって穴を開けない。攻撃ではブロックの外周りでボールを動かすことが多く、ボールロストしやすい縦に差し込むパスが少ない。予想通りとも言える展開の前半だった。

重要なのはメンタリティだ。「なかなか縦パスを入れられない状況だったり、相手がブロックを組んでいる状況だったので、ストレスを感じている選手と感じていない選手がいたと思う。僕は正直感じていなかったし、ルカオが起点をつくれるのでサイドから預けてCKを取る回数も前半はあった。そういうシーンを作りながらセットプレーで一発と考えたほうが、ゲームプランとしてフラストレーションも溜まらない戦い方になっていたと思う」と前は言う。

今までも大事な試合で、無理に縦パスを差し込んでカウンターから失点というパターンを多く見てきた。まずは焦ることなくボールを動かしながら、チャンスがあれば縦に差し込む。「もっと点を取りに行け」と思う方もいるかもしれないが、リスクを回避しながらいかに少ないチャンスをものにするか。プレッシャーがかかる残留争いの中では、前のように精神的に余裕を持ちながら、現実的な戦い方ができるかが大事になってくる。

その中で存在感を発揮していたのが、初先発となったルカオだ。まずは6分のオープニングシュートを振り返りたい。

6分、セルジーニョのクロスから、ルカオがオーバーヘッドで狙う

左サイドのスローインをセルジーニョが受け、中央のルカオにシンプルなクロスを送る。ルカオは相手DFと競り合うと、後ろにこぼれた浮き球をオーバーヘッドで狙う。ボールはわずか右に外れ、先制点とはならなかったが、脅威を与えるには十分なプレー。ルカオもこのプレーで久々のゲームに気分良く入れただろう。

その後もルカオが絡むとチャンスに繋がり、相手のセンターバックも嫌がっていたはず。ここ数試合の榎本のように、ロングボールに対して強靭なフィジカルを生かし、泥くさく競り合ってマイボールにする意識も強かった。

しかし押し込む時間もありながら、もう一歩ゴールに迫れない。ブロックを作った相手を「どう崩すか」も大事だが、「どう組織を壊していくか」という発想があってもよかったかもしれない。つまりペナルティーボックス内、もしくはボックス付近にいるルカオにスクランブル的に入れるという選択肢だ。

ミスの許されないペナルティーエリア内にラフにでも入れられると、相手はストレスが溜まる。ルカオの強さであれば、大きくクリアされずにボールがこぼれる可能性も高い。相手は何をされるのが怖いのか。この日のルカオは点の匂いをまとっていただけに、より有効に生かすことができれば得点は近付いたかもしれない。

セルジが意地の一発も 状況は覆らず降格

90分になっても一刺しできず、ボールを奪いたい焦りから自陣でファウル。FKからファーサイドの梅井大輝に折り返されると、最後は児玉駿斗に押し込まれた。土壇場での失点に誰もが「終わった」と思ったが、96分に意地を見せる。

96分、セルジーニョが3人をかわしてFKを獲得する

左サイドでセルジーニョがロングボールのこぼれ球を拾う。奪いにきた成岡輝瑠、児玉、梅鉢貴秀を交わし、高い位置でFKを獲得。自らキッカーを務めると、力強い弾道でオウンゴールを誘った。このゴールで何かが変わるわけではなかったが、下を向いてもおかしくない状況で、最後まで諦めない姿勢を見せた。

そのまま1-1でタイムアップ。約1時間後に他会場の結果を受けて、J3降格が決まった。試合終了時はまだ可能性を残していたが、降格が濃厚という状況を踏まえ、名波監督は「みんなの責任ではないというのがまず一つ。自分自身でシーズンを通して、しっかりと反省を踏まえようということ。ただ、今すぐに考える必要はないと。現実をしっかりと見据えながら、こういったビッグマッチを経験したことを生かさなければ、きょうという日の意味がなくなるということは、試合前も含めて選手たちに伝えた」と口にする。

前任者・柴田峡監督のもとでスタートした今季。名波監督に代わってからも結果を残せなかった。「選手に責任はない」とかばったが、シーズンを通して戦ってきた選手は誰もが自分の責任だと痛感しているはずだ。敗戦後は「切り替えて…」とよく言うものだが、この「シーズンの敗戦」は切り替えられない。J3降格という現実は選手だけでなく、チームを支えるクラブ関係者、サポーター、そして地域の人々の生活を一変させてしまう。それほどまでに重い。

プロサッカー選手はそれくらい大きなものを背負って戦っているものだが、相応の覚悟を持ってピッチで戦えていたのか。胸に手を当ててそう考えたとき、多くの後悔が駆け巡るのではないだろうか。切り替える必要はないと思うし、そんな簡単に切り替えられるような軽い出来事でもあってほしくはない。最終節は残しているが、今は選手一人ひとりにこの重い現実と向き合ってもらいたい。

飯尾和也

文章:コラソン 飯尾 和也

元 松本山雅FC センターバック。
ヴェルディ川崎、ベガルタ仙台、サガン鳥栖、横浜FCなどでのプレーを経て、2011年 松本山雅FCへ加入。松本山雅FCのJFL→J2→J1昇格へ貢献し、2014年シーズン終了後引退。 現在はメンタルサロン コラソンの代表を務める傍ら、講演会等も行っている。
Jリーグ通算311試合出場
U-16、U-18、U-19日本代表