【試合解説】第42節 長崎戦

前節にJ3降格が決定した中で迎えた最終節。相手は前節でJ1昇格の可能性がなくなった長崎だ。互いに勝っても何かが起こることはない。だが、選手はピッチに立てば「相手に負けたくない」という本能が働く。山雅にとっては何よりも、この状況下でも最高のホームの雰囲気をつくってくれるサポーターがいる。選手たちはウォーミングアップでピッチに立った時点で、それをひしひしと感じただろう。

勝ってサポーターに勝利をプレゼントするというモチベーションも高まったはずだ。1年でのJ2復帰への強い決意と希望を示し、引き続き応援したいと思わせられるような試合ができるか。大きなミッションを担って試合に臨んだ。

横山と稲福 若手がチームに希望もたらす

立ち上がりからそういった意欲を感じる試合だった。しかし、長崎がここまで積み上げた勝ち点は75。山雅の34と比べて倍以上の勝ち点数を稼ぐチームには、それだけの理由がある。そして、勝ち点を奪えないチームにもまた理由がある。力の差を結果で示されたようなゲームとなったが、まずは「希望」にフォーカスしていきたい。久しぶりに先発に抜擢されたスピードスター・横山だ。

「春先に使ってもらっていた時期とはちょっと違うのではないかと思う。というのはボールに関わる回数が多かったと思うし、ゴールに向かっていくシーンもあった」と名波監督。その言葉通り、スペースにランニングしてボールを引き出すだけでなく、時にはくさびのパスを受けて起点もつくる。また、スピードを生かしたプレスで相手にストレスを与え、守備でもチームを助けていた。

45分には決定機をつくり出す。自陣でセルジーニョが前を向いた瞬間、左サイドのスペースを目がけて加速。ボールを引き出すと、見事なワンタッチコントロールからスピードに乗り、ドリブルで一気に切り裂く。相手GKとの1対1を迎え、最後は並走してきたルカオにパスを送ったが、DFにクリアされてしまった。

45分、セルジーニョのパスから横山が決定機

頭の中では「確実にゴールできる」という判断のもと、ルカオへのパスを選択したのだろう。結果論にはなるが、自ら左足でシュートを打ってほしかった。それでも、このシチュエーションをつくれたのは横山のスピードがあってこそ。追走してきたのがスピードに自信を持つウェリントンハットということも考えれば、改めて横山の速さは「本物」だと実感できた。

さらに55分からJデビューを果たしたアカデミーの星・稲福。名波監督は「セカンドボールへのアプローチが甘かったときに2シャドーが追いかけた中で稲福が何度も何度も刈り取って、もしくは刈り取れなくても相手のスピードを殺すようなアプローチができた。攻守一体のチームが躍動感を持って、最後の残り30分くらいはやれたのではないか」と仕事ぶりを評価した。

稲福のプレーをじっくりと見るのは初めてだったが、1点ビハインドから奪い返すという流れを切ることなく、チームの躍動感を後押しするようにプレー。デビュー戦とは思えないくらいゲームに入れていた印象だ。相手を敵陣に押し込む中で、カウンターを仕掛けたい長崎。その狙いを遮断し、シンプルに味方へ預けて2次攻撃に繋げる。セカンドボールを回収する巧みなポジショニングからは、「鼻が効く」選手だと感じた。

通年続いたルーズさ 練習から改善必須

それでも猛攻は及ばず、概ね長崎の思い通りに逃げ切られて1−2。失点はいずれもカウンターでのクロスからだった。名波監督はボールの失い方を反省点に挙げたが、センターバックを務めていた身としては、失った後の対応が気になってしまう。

26分の1失点目は前がかりになった中、相手陣内でボールを失うと、都倉賢にうまく左サイドの背後に引き出された。出し手がワンタッチパスであったことを踏まえれば、ある程度は仕方がない。しかし状況は相手と同数。最後は植中朝日にニアを突かれ、足先で触られた。47分の2失点目も似たような状況だった。佐藤がボールを失うと、これも都倉に左サイドで引き出され、インナーラップをかけた米田隼也が背後を取る。クロスをファーで待ち受けていたウェリントンハットに頭で押し込まれた。

47分、人数が足りていた中で2失点目を喫する

いずれも人数は足りていた。一瞬の判断と声掛けで、しっかりと人をつかめてさえいれば、十分に対応できただろう。これは年間を通して言い続けてきたことだが、最後まで修正されることはなかった。なぜ解決できないのか。それは試合で勝つための準備段階、すなわち日頃のトレーニングにあると感じる。今節を前に名波監督は「アスリートは本音で話さないといけないときのほうが圧倒的に多い。『ここはこれでいいや』としてしまうのは悪で、ストレスにならないようなコミュニケーションを推奨しながら、選手同士がやらなければいけない」と語っていた。

練習を見ていても常に気になっていた。ルーズなマークで失点したり、ついていくべき場面でついていかなかったとしても、誰も強く指摘しない。本気で勝ちたいのであれば、その場で怒鳴り、時にはケンカするくらいでもいい。互いに「勝ちたい」というゴールを共有できていれば、それで気まずくなることもない。むしろ勝つための熱量やエネルギーになる。練習から大きな事象を見逃しているからこそ、試合で出てしまう。多くの課題が残った今季だが、このルーズさをなくしていかなくては、来季もJ3を笑顔で終われることはないだろう。

今季の全日程が終了した。選手に対して厳しい指摘が多くなってしまったが、立場は違えどOBとして山雅を愛している。このチームを強くしたい気持ちは選手と同じ。だからこそ、本気で指摘しなければいけないという使命感で書かせてもらった。今季の結果は本当に悔しいし、今でも現実としては受け入れがたいが、来季はまた強い山雅が見られると信じて応援し続けていきたい。

飯尾和也

文章:コラソン 飯尾 和也

元 松本山雅FC センターバック。
ヴェルディ川崎、ベガルタ仙台、サガン鳥栖、横浜FCなどでのプレーを経て、2011年 松本山雅FCへ加入。松本山雅FCのJFL→J2→J1昇格へ貢献し、2014年シーズン終了後引退。 現在はメンタルサロン コラソンの代表を務める傍ら、講演会等も行っている。
Jリーグ通算311試合出場
U-16、U-18、U-19日本代表