【報道対応】神田 文之社長 一問一答(2024.4.11) ※無料配信
――4月24日の株主総会を以って役員改選となり、代表取締役社長の退任が発表されました。まず現在の受け止めから聞かせてください。
ここ数年、直近では昨年末からクラブ全体で検討を進めてきた答えの発表がこのタイミングになりました。もともと株主総会の案内通知を送る作業は毎年このタイミングでやっておりまして、何カ月も前からこのタイミングで発表することは予定されていたことです。私自身はどんな立場であっても、このクラブにどう向き合うかをやってきました。総括するのはまだ少し早いと思っていますが、クラブが良い方向に行くことが一番大事だと私自身もクラブ全体も考えていると思います。
――社長に就任して5期10年でした。在任中の思いを振り返っていただけますか?
素晴らしいファン・サポーターがいる、地域に支えられたクラブだということは間違いありません。そんなクラブの社長を務めさせてもらったことは光栄でした。今後に繋げる上では、もう少し次の社長がやりやすい環境にしたかったですけれども、関わる人がみんなオーナーシップを持つクラブになっていくための新たなスタートになればいいと思っています。
――今シーズンも思うような結果が出ていない中で任期満了のタイミングとなりました。責任を追及する声もあったかと思いますが、その部分はどのように受け止めてきましたか?
当然、社長としての責任は常に受け止めるべきだと思っていました。一方で会社組織の任期満了というタイミングは会社としてはすごく重要なことでもあります。会社としてはこのタイミングで次のステップに進む判断が一番正しいと思いましたし、それに則った次の体制によってチームもいい方向にいけばいいと思っています。
――今後の新社長に託したいことはなんでしょうか?
やはりオーナークラブではなく、本当に手作りでやってきたクラブです。次の社長は小澤(修一)になる予定ですけれども、「小澤頼み」というよりは、周りがさらに小澤をもり立ててサポートする会社組織になることが一番大事だと思っています。
――今回の体制変更の経緯を聞かせてください。
5期10年という長い期間にわたって社長を務めさせていただきました。常勤としては1代目の社長で、会社組織を作っていく上ではまだまだ一歩目の会社だったと思っています。そんな中でオーナーがいない市民クラブとしてどういう会社組織になっていくか、私も在任中にいろいろ考えてきました。その中でやはり、さまざまな方が多く関わる地域のクラブとして、クラブスタッフ全体がオーナーシップを持って関わる組織を作った方がいいとすごく感じていました。
ここ数年はチームの結果が難しい中であっても、社長という職に求められているものとチームに求められるものを、少しずつ整理し始めていた状況でした。結果が出ずに苦しい期間を歩んでいますけれども、私自身がそこから逃げずに向き合ってきました。さまざまなご批判を受けることはスポーツビジネスで起こります。そこで一つの盾となってクラブスタッフや現場やサッカーの継続性を守る役割は一定程度あるべきだと思って、意見を聞きながら向き合ってきた流れは私としてはありました。
それでも「クラブスタッフ全体がオーナーシップを持つ」という観点からすると、私が必要以上にそれを受け止めて体を張ることが、逆にあまり山雅の体制に望まれる姿ではないかもしれない――とも思うようになりました。他の人間の当事者意識が薄まるようになるかもしれないし、10年という期間を含めて、ここで一つ区切りを作った方がいいなと思いました。
どんどん社長が降って湧いてくるクラブでもないと思っていますし、とはいえ中からどんどん社長が生み出されるような簡単な話でもないと思います。その中で歴史を知る人間も必要だし、新たにスポーツビジネスを追求する会社にならなければいけません。Jリーグ全体や日本全体の中でクラブが置かれている環境を踏まえた上で、今回の非常勤も含めた大幅な取締役の刷新になったのが大きな流れです。
それに加えて、この1期2年はやはりJ3に2年ということになりましたし、昨年も赤字決算になります。社長としてその責任は非常に重要だと感じますし、この区切りで私が責任を取ることが望ましいとも思いました。
――「10年」というスパンはご自身の中でも一つの区切りとして考えていた部分もあるのでしょうか?
スポーツ団体ガバナンスコードの中でも「10年」は一つの区切りだと言われています。やはり考えることが非常にありましたし、ただ本当に主体的に私もこのクラブを良くしたいという一心で関わってきたので、その思いに今も変わりはありません。もっと社長のつもりで働く人間が増えることがこのクラブにとって幸せな方向かなと感じるようになりました。
――今回は社外取締役も一斉に退任となります。クラブの創成期から深く関わって、歴史を作ってこられた方々です。
まずは非常勤の取締役の多くが、この会社設立時からの皆さんです。創成期のメンバーに私も支えられて過ごした10年だったと思っています。クラブを取り巻く環境が変わってチームの浮き沈みも感じた中で、地域の皆さんにより応援していただけるクラブとして、どういう姿を目指していくかを考えました。その中でやはりガバナンス強化や透明性の担保がより求められると感じることがありました。今回は社外取締役という形でセイコーエプソンさんや松本市さん、あとは米田さんという3名の新しい社外取締役を迎え入れることになりました。半年以上前から話をさせていただいて検討をした結果、そこにうまく人がはまった状態を作れたと思っています。
――神田社長自身も取締役として残りますが、どのような理由になりますか?
あくまで株主総会の後ということになりますが、これまでもずっとこのクラブは「継続性が大事だ」と内外から意見があったと思っています。新しい代表取締役2人に、私が10年このクラブを見せさてもらったことをまずはしっかり移していく。思いも含めて移行していく。そのための大事な期間だと思っています。さまざまなご意見も出る可能性はあると思っていますが、私自身はそこは今の置かれている責任から逃げるつもりはありません。立場が変わってもその2人をサポートして、クラブとして取締役全体として責任を果たしたいと思っています。
――新たに代表取締役となる2人の役割分担などはあるのでしょうか?
創成期や10年前から比べると地域からの期待や責任は大きくなっていると思います。代表取締役社長には小澤が就任予定ですが、代表権を2人にしました。Jリーグに向き合う仕事や中との接続なども多岐にわたっているほか、会社組織も物販から総務・経理も含みます。その役割分担もしっかり分けた中で次の取締役の構成もあるべきだと思い、検討の結果、代表が2人になることが決まりました。
――10年の在任期間を振り返り、「できたこと」と「できなかったこと」をそれぞれ振り返っていただけますか?
「できた」ということはなかなか言いづらい部分もありますが、会社組織全体は社員の数も含めて一定程度の成長はできたのかなとは思います。組織の整備やガバナンス強化もしてきたつもりです。ただサッカークラブとして大事なのは、会社をしっかり経営しながら、チームを勝たせるということが求められる役割の一つでもあったと思います。「会社組織で収益をあげてチームに投資していく」という流れは作れた部分もあったと思いますが、「チームを勝たせる」ということについては難しかったと思っています。勝てた時代があった分だけ、勝つことの難しさも今ひしひしと改めて感じています。
ただ私が社長の立場から変わったとしても、短期的にチームが強くなるのかどうか。何かの好転のきっかけにしたい思いはありますが、やはりトップチームに直接に短期的な影響を与える立場ではないと思っています。
――右肩上がりの時期から、近年は下がっている状況でもあります。そこに対する受け止めはいかがですか?
まさにトップチームの成績が原動力となって急成長を遂げたと思います。そのおかげで会社組織も新しい違う景色を見ることができ、規模が成長した事実が一つあります。その成功の裏で「フットボールの積み上げ」という部分だと、最短距離で行った分だけ現時点では難しさを感じている状況です。そこは育成組織が10年で一定の成果が見えてくるのと同じように、フットボールにおいても短期的に勝ちたい気持ちは常に変わらないんですけども、中長期にわたってクラブを強化する目線を、次の社長含めてこのチームに関わる人に持ってもらいたいと思います。難しさはありますが、みんなで育んでいってほしいと思います。
クラブ全体を取り巻く環境が上向かない感覚があったと思いますし、それに関して私も責任を感じます。その一方で、この2年の赤字のほとんどはチームへの投資によるものです。J3というカテゴリーを早めに突破したいということで、過去に積み上げた分を投資した形です。それは経営上コントロールが効かなかったというよりは、「応援していただく地域の皆さんに求められるお金の使い方をしなければいけない」という経営判断でした。けれども結果が伴わず2期連続の赤字だというのは、やはり何かしら変化して好転を求めていく段階になったと思っています。
――小澤修一氏を代表取締役社長に推挙したのはどのような経緯と理由でしょうか?
私の意見でもあり創成期のメンバー含めた全員の取締役の意見です。彼はもう山雅に携わって19年と、一番と言っていいほど長い人間です。元選手でもあるしクラブのいろんな立場の仕事をしてきた中で、その歴史と彼の人間性という部分です。中の人間がしっかり彼についていくかということが、組織運営上は一番大事だと思います。そこはやはり、人柄という要素が一番でした。
ただ、もう少しチームの状態が安定してからバトンタッチできることがベストでした。経営的に見ればやはり、お金を稼いでチームに投資できる会社の体制を作っていくことが次の経営陣に求められていることだと思います。その意味では新しいスポーツビジネスの価値というか、収益化できる余地も費用削減できる工夫もまだ残っているので、そこにしっかり取り組みながらチームにお金を流せる会社組織の運営がさらに求められます。そのサポートはもちろんしたいです。あとは育成組織を含め、契約形態が違う中で繋がっている人間が多いクラブでもあります。クラブに関わる多くの人間のメンター的な機能は社長に求められる役割だとも思うので、一定程度サポートしながら、小澤の人柄を生かせる組織になればいいと思っています。
――今季山雅に来た横関浩一氏を代表取締役執行責任者としました。横関氏に期待するのはどのような部分でしょうか?
横関にはスポーツビジネスを深める部分を期待したいです。山雅のスタッフにはなかなかない経験とキャリアを持っていますし、元選手でもあります。数年前から接点を持ってきた中で、ビジネスに向かう姿勢はこのクラブのハードワークする姿勢にぴったりだと思いました。冷静な判断やビジネスの展開にも非常に力がある人間だと思っています。小澤と横関は同じ年齢(1979年生まれ)です。2人のコンビと器で(業務を)網羅的にカバーできると一番いいと思いました。
――トップチームの成績やパフォーマンスがクラブの魅力を作っていく側面もある中で、疑問を抱かれてきた部分も少なからずあると思います。課題を感じながらの退任だと思いますが、その部分の魅力をどう再構築していってほしいでしょうか?
大きく2つあると思っています。一つは「強いチームを見たい」ということ。やっぱり強かった山雅を見てくれた方にとって、現状は非常に苦しい姿だと思います。強いチームの姿を見せることが集客と収益に繋がるということは、現時点で大きな要素です。
もう一つは新しいファン・サポーターを獲得すること。それを永続的に続けていくのがスポーツビジネスの特徴だと思いますが、今はまだ山雅の試合を見に来たことがない方もこの地域に多くいらっしゃいます。そこに対して新しい接点を設ける企画をしていく、プロモーションでイベントをクラブが打ち出していく。そこはまだまだ伸びしろがあるしやらなければいけないクラブだと思っています。そこは課題が残ってしまったと思いますし、私も立場変われどそこをしっかり作り込んで、クラブの収益を生み出す何かを作っていきたい思いがあります。
――この10年、「変えてはいけないこと」と「変わるべきこと」を選別しながら判断してきたと思います。その中で、先ほどから「オーナーシップ」という言葉が頻繁に出ています。これはおそらく「自分事として主体的に関わる」という意味を含めていると思いますが、この部分が最も根幹に据える「変えるべきではないこと」という認識でしょうか?
私が社長に選ばれた理由もおそらくそういう側面があったと思っています。カリスマ的にグイグイ引っ張るリーダーは魅力的ですが、このクラブのリーダーに求められるものはやはり、皆さんが「ここに関わろう」とか「応援しよう」と思える会社とクラブ作りであって、その部分で自分も当時選ばれた一人だったと思います。元選手のキャリアで応援する皆さんとマインドが伝わりやすい人選だったというのが当時の意図だと思っていて、今回もやはりそこは私なりにもこだわりました。
苦しい時代のときはリーダーにいろいなものが向くので、ここの時代をどう乗り越えるかはやはり難しいことではありますし、いくらオーナーシップを持ったとしても誰かにそれが向く現実は変えられないかもしれません。それでも今回クラブスタッフからも感じたのは、年々「自分事」として外からの声を受け止めてくれているということで、それが私の一つの大きな支えになってきました。新体制をクラブスタッフに伝えた時も、またそのレベルが一段上がったと感じるような部分もありました。やはり言われてやる力よりも、自ら山雅を作っていく一員だと思ってくれるクラブスタッフが多いほど会社は成長するし、そこに期待したいと思っています。
――オーナーシップを持ってもらうには、情報の共有が必要でもあります。とはいえ、限られた発信のなかでコミュニケーションロスが多く生まれてしまっているように感じますし、トップチームの成績が振るわないこともあって多くの声が上がっています。
難しい部分だと思います。例えば阪神タイガースや広島カープの社長さんは皆さんに広く顔を知られている存在でしょうか。そう考えると、ほとんど監督やチームに目線が行っていると思います。山雅を応援してくださる温度感などを考えると、「社長が表に出て目立つことが本当にいいのかどうか」はずっと考える部分ではありました。一方で少し表現下手なことは私も含めてあったと思っていますし、サポーターミーティングでもそういうご意見をいただいてきました。クラブが「伝えられること」と「伝えられないこと」をしっかり整理して情報発信するのは今後さらに求められるところですし、私が積み残した課題なのかもしれないと改めて感じました。
――従来の社外取締役の方々は、アルウィンスポーツプロジェクトの時代から尽力されてきました。そろって退任されるということは、Jリーグを目指して歩み始めた時期からフェーズが変わって新たなステップに移行するような非常に大きな決断ではないかと感じます。そこについての認識などはいかがでしょうか?
やはり大きな判断だったと、まず振り返っています。近年はチームを勝たせる経営もそうですし、スポーツビジネスのあり方もやはりどんどん変化しています。その中でクラブが求められる姿もまた変わっていく。次の体制を整えることでクラブがより発展的になるのであれば、このタイミングで創成期のメンバーの皆さんから「卒業すべきではないか」と言っていただいたのかなと思っています。
その一方で、私も小澤も創成期のメンバーに非常にお世話になって今があります。その創成期のメンバーが「もう卒業してもいいよね」という状況を作るのは自分たちの仕事だと、小澤とは数年前からずっと話してきました。それが今回のタイミングだったかどうかというと非常に難しい部分ではありますが、創成期のメンバーの思いを引き継ぐのはやはりすごく重要な部分です。私も引き継いできたつもりですし、やはり創成期の思いは語り継ぐものであって、「変わるもの」「変わらないもの」という観点で言えば「変わらなくていいもの」だと思っているので、クラブの歴史を大事にして、小澤に背負っていってもらえればと思います。
今回は非常勤の皆さんが発展的に卒業して社外取締役3名の体制に移行します。スポーツビジネスの発展を考えると、エプソンさんに副業という前提でそうした人事が可能かどうかご判断いただきましたし、松本市さんにも臥雲市長をはじめご判断をいただきました。Jリーグを経験された米田さんに関しても、山雅のポテンシャルに共鳴いただきました。新たにスポーツビジネスに向き合うために、まず最小かもしれませんけどそういう社外取締役がアサインできたと感じています。
――「スポーツビジネスの追求」という側面も先ほどから強調されていますが、逆にいうとそこが現状の松本山雅のウイークポイントでもある、ということでしょうか?
昨年、オフィシャルスポンサーは件数ベースで過去最高でした。ここは一定程度の営業活動ができいてるんですが、やはりお願いできるこの地域のマーケットは限られてもいます。J1を経験した当時に比べ、他クラブの平均予算がどんどん上がっています。J1だと40〜50億。当時は30億あればJ1でも勝負できる時代だったんですが、今は首都圏のクラブが資本を有効活用して成績につなげています。それが今のスポーツビジネスで起きていることです。
スポンサー企業さまの支援を仰ぐことは引き続きお願いしたいですが、J3でも地域のファン・サポーターの皆さんが来てくれて、ある程度まだ山雅に関心を持っていただく人がいます。そのこと自体がチャンスでもあると思います。何か情報発信ができる価値がクラブにあって、何か届けられれば反響をもらえる状態があることがチャンス。小坂田公園で指定管理を始めるなど手前からやり始めていることも、長い将来を見ると少しでも収益を積み上げるチャンス。それがチームを強くするために必ず必要になると思っています。
「地域との接続」はこのクラブにおける一丁目一番地ではある一方、それだけでも苦しくなる。Jリーグ全体を見渡した中で、非常にプレッシャーを感じていました。「それだけではいけない」という思いもあって、私自身がその2つの課題に対して向き合いながらもうまくいかなかった部分があると思います。次の体制でそこをクリアに役割分担して、小澤と横関を筆頭に体制を作ってほしいと思っています。
――「オーナーシップ」と「スポーツビジネス」がキーワードになっていますが、その基になる価値の根源はピッチ内の結果とパフォーマンスと、それを応援するサポーターの方々によって生み出されるスタジアム空間ではないかと思います。その根底が現状では難しいところにいる中、次の体制にはどのようなことを期待したいですか?
新しく社外取締役のメンバーを誘う時も、やはり一度試合を見てもらうと、どんな方でも(サンプロ)アルウィンのサポーターの熱量を感じていただけます。それがクラブの本当の魅力の一つになっていて、いろいろなものを引き寄せる根源になっているのは事実です。「サポーターが創っている」「サポーターと僕らが一緒に創っている」といろいろな見方があると思いますが、「ここに山雅の価値を置いて何ができるか」がすごく大事だと思っています。
これは「(意図的に)作られた現象」ではないと思います。オーナーシップを持つサポーターの方々やチームバモスの皆さんのパワーは非常にすごいものがあって、やはりこれをスポーツビジネスとして何かしらに変換していかなければいけない。それが松本山雅の課題ですし、可能性だと改めて感じています。それはマーケットだけの話というよりは、何かしらの可能性を持つ熱量がこの地域にあるということですし、引き続きそれを追求していきたい。それは小澤や横関も同じように感じていると思います。