【特別企画】2017シーズン開幕 反町康治監督に聞く※無料配信

取材日:2017年2月23日

いよいよ2017年シーズンが幕を開ける。山雅を率いる反町康治監督は、新潟時代を上回って自身最長となる6年目。昨季の経験を糧に、どのような思いでどのようにチームを構築してきたのか。そして松本山雅が目指すべきものは何か。キャンプを終えて開幕を目前に控えた時期に、現在の心境やチームの構築ぶりなどをたずねた。

「勝ち点1の重み」 体現すべきシーズン

-まずは改めて昨季を振り返って。あえて「課題」を挙げるとするとどこにありましたか?

84もの勝ち点を取っていながら最終的には「J1復活」という目標を達成できなかったというのが課題。だから今年は、「勝ち点1の重み」ということを十分に感じながら戦わなければいけない。「勝ち点1の重み」と言葉にするのは簡単だけれども、本当に1に対するこだわりをしっかり持たないといけないというのが大きなテーマ。周りの人たちは「あと一歩だったね」と言ってくれるけれども、じゃあ実際にその「一歩」が何なのかということを突き詰めなければならない。

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-スタイルも大きくは変えていない中で、今季新たに取り組んでいるアプローチというのはありますか?

今のところ、去年やってきたことがある程度間違いでないことは戦いぶりを見て感じている。だから今度はそのスピードなり精度なり、そういう部分を上げていくということに力点を置いてやってきている。そもそも去年に所属した選手もたくさん残っているから、練習のメソッドにしても試合の戦い方にしても、いろんな意味である程度整理されていると思う。安定したゲームをすることができるかなとは捉えている。まあ、安定しているのがいいのかといえばそうではないのかもしれないけど。

-チーム構築に際して大枠の手法は変わっていないですが、フィジカルトレーニングのアプローチは変わりましたよね?

それがシーズン中にどう出るかだ。フィジカル面で整わなくて…というのは、夏場であるとかシーズン後半であるとかになると出てくるんだよね。よくある話だけど。その中で新たな取り組みというかケガを減らし、ケガを未然に防ぐこと。ケガ人が全く出ないということはないから、出た場合に復帰までのプロセスも理学療法士が関わってくるのも含めて変わるし、そういう要素の積み重ねでシーズンの結果は大きく変わってくる。そこは新たな試みとして楽しみでもある。

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ただ本当に自分も監督人生の中で初めてだと思うんだけど、合宿の初日から最終日になるまでに人数が増えているなんてことはないからね。普通はケガ人で減っていくものだ。だから、新加入の選手も含めて段階を踏んで戦力を安定させながらゲーム、トレーニング、ミーティングができたという意味では今季が一番。それが成績に結び付くかどうかというのは別の話だけれどもね。それに、フィジカル的なアプローチは変わっても、自分のアプローチは変えていない。例えば映像もかなりインパクトのあるものを用意できるくらい試合を見てきたし。

-新加入選手も含め、誰が出ても遜色ない総合力があるのでは?

そう言いたいがまだまだ足りないところがあるから、ケガ人がしっかり治ってくればいい。新加入選手も100%と思いたいけど、試合をやってみないとわからない部分もある。あとは3月まではかりがね(の天然芝グラウンド)が使えないから、(第2節)愛媛戦の翌日を除いて外に出て練習試合をやるスケジュールでいる。その中で成果を見ていかないといけない。若手もブレイクを待つために、一生懸命やっているところだ。

「我々は松本山雅」 細部へのこだわり

-反町監督はかつて「3年一区切り」ということを口にしていました。今季は6年目で、2巡目のサイクルの最終年に当たりますが?

成長や成熟は当然しているけれども、それと同時に失うものもある。例えば難しい話だけど、昔はサッカーに対して真摯に取り組んでいたけれど、今はコマーシャリズムによって選手が壊れてひたむきにやる姿勢が失われたりするかもしれない。昔は合宿のときにはウェアなどを全部自分で洗ったりしていたわけだからね。でも今はグラウンドに着ているものをポンと置き去っても、スタッフが片付けて洗濯してくれて、朝にはキレイになって枕元にあるわけだ。もちろんそうした恵まれた環境は一つずつ勝ち取ってきたものだけれど、それが逆にチームの本来持っているものを失わせる可能性があるんじゃないかと危惧もしている。

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だからシーズン初めのミーティングで、「松本山雅のチームカラーは絶対に失ってはいけない」と言った。それはみんながハードワークしてひたむきにプレーすること。最後の笛が鳴るまで諦めずに戦うこと。それをなくしてしまったらもはや松本山雅ではない。新しく来た選手にも「我々は松本山雅なんだ」と釘を刺した。やらなくても失点はしないかもしれないけど、そういう細かい部分をキチッとやらないといけない。映像を見せながらそういう話をしょっちゅう言ってきたし、そのチームカラーはずっとなくしてはいけないものだと感じている。そういう意味では、昔を知っている選手が飯田くらいしかいなくなって、本当に「原点回帰」と言えるかもしれない。今は芝生のグラウンドでトレーニングができるようになって、洗濯もしてもらえる。昔は野球場のグラウンドでやっていた時代もあるわけだからね。

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それも含めて、今シーズンはやっぱり特別な1年にしたいよね。今まで築き上げてきたものの最終形をつくりたい。昨季はあの結果の中で「これ以上強いチームをつくれない」と言ったけど、それを乗り越えるにはもう最終形しかないということ。自分が辞めるとかではなくてね。

-J1初昇格を果たした14年と比べるとどうでしょうか?

主観的に見ても客観的に見ても、決してスーパーなチームじゃない。昇格したときだって、言ってしまえば他のチームが潰し合いをしたりお家騒動があったり監督交代劇があったりで足踏みして、その中で我々が間を縫うようにしてスルーっと行っただけ(笑)。それでも昇格したから強かったのかと言えば、相対的なものだから何とも言えない。実際は昇格できなかった去年の方が強かったかもしれないけど、それ以上に強いチームが2つあったわけだしね。

-リーグ全体の中から見た山雅の立ち位置というのも、警戒されて難しいものになるだろうと予想されますね?

難しいだろうな。みんなから注目されているし重圧も大きくなってくるし、我々のチームもどちらかというと目立つ存在だし。それを我々がどう感じてどう捉えて、そしてチャレンジ精神を持ってやれるかどうかがカギになってくるだろう。

-今季のJ2全体を改めて俯瞰するとどのような印象でしょうか?

今年はJ2からJ3への自動降格が2チームになった。そうすると戦闘能力というか結果に対する責任というか、そういうものが今まで以上に大きく必要になってくる。だからそれぞれのクラブがどんな判断をするかというと、どこも必死になる。そうすると「新人の監督でどうにかしよう」なんていう甘い考えはなくなってしまうわけだ。

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例えば去年の群馬はJクラブ監督の経験がなかった服部(浩紀)が率いていたけれど、今季は経験豊富な森下(仁志)を連れてきた。金沢も2012年からずっとやっていた森下(仁之)が辞任してヤンツーさん(柳下正明)を迎えたり。どのチームも監督が経験豊富で、Jクラブの監督が初めてという人はほとんどいない。あとはスペイン人監督だね。ロティーナの東京Vは18日の練習試合を見ての通り、上位に行く力があるよ。

-クラブ間の戦力差は縮まってきているのでしょうか?

そうだね、近付いていると思う。あとはお金持ちのチームが増えてきた印象もある。うちが今何位なのかはわからないけど、上にはたくさんいるでしょう。湘南はイーブンくらいだと思うけど福岡、名古屋、京都、千葉。徳島もそうかもしれない。そういう群雄割拠の中で上位争いにずっと食い込めるようにやっていく必要がある。

因縁の地・三ツ沢での開幕戦へ

-自動昇格ないし優勝をしたら、アルプス一万尺をサポーターと一緒に踊ってくれますか?

それは踊るよ。そんなさあ…映画みたいなストーリーはサッカーに必要ないと思うけどね(笑)。問題は去年の悔しさをどう生かすか。選手もそういうことを言っているでしょう?

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-そうですね。これも「どうでもいい」と言われてしまいそうですが、反町監督は現在J2リーグ戦199勝91分99敗。横浜戦で200勝か100敗が懸かるというシチュエーションになります。

まあ、何回も言うけど、そんなことは関係ないよ。毎試合毎試合準備してきた積み重ねがその数字になってきたということであって、特に興味はないかな。カズの50歳の誕生日とは違うよ。心情的に変わることも特にないし。

-とはいえ、今季の42試合を無事に終えると西野(朗)さんを抜いてリーグ戦の試合数が歴代2位に上がります。

歴代の試合数が多いということはそれだけ若い指導者が育っていないということだ。まあ、一日の長はあるかな。でも試合で若いヤツとも年齢が上の監督とも対戦してきたけど、若くても勉強になるヤツはいるし、逆に年齢が上でも全く勉強にならない人もいる。結局は年齢なんて関係ないんだよ。自分は36歳のときに新潟で採用してもらったけど、その当時は降格もなかったし成績も良くなかったからね。当時の社長は会ってもいないのにすぐOKを出してくれた。今じゃなかなかありえないだろうし、時代が変わったなあ。

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ああ、そういえば思い出した。三ツ沢といえば1993年のJリーグ開幕年の開幕戦で、(横浜)フリューゲルスの選手として三ツ沢でやったんだった。相手は清水だったね。そういう意味では何らかの因縁を感じるね(笑)。

編集長 大枝 令 (フリーライター)

1978年、東京都出身。早大卒後の2005年に長野日報社に入社し、08年からスポーツ専属担当。松本山雅FCの取材を09年から継続的に行ってきたほか、並行して県内アマチュアスポーツも幅広くカバーしてきた。15年6月に退職してフリーランスのスポーツライターに。以降は中信地方に拠点を置き、松本山雅FCを中心に取材活動を続けている。