【試合後コメント】名波 浩監督 第34節 相模原戦 ※無料配信

――まずは総括をお願いします。

シーズンの総括ですが、アウェイ2連戦から始まりました。決して盤石ではないですが、合格点をあげられるスタートを切って、GWの前くらいに首位争いをするくらいになったところまでは順調だったと思います。クラブとして来てしまった第2波のコロナの影響は確か4〜5節でしたが、なんとか乗り切ったことによってチームとして自信がつくと思っていました。

それから天皇杯の県予選、本大会も含めていろんな選手を試しました。年齢もキャリアも関係なく、違うポジションや組み合わせも含めてトライアルができた春先だったので、あそこでもう少し勝ちを積み上げられればよかったのかなと思っています。

そして夏前の7月中旬前から来た、クラブとしてのコロナ第3波、そこと主力選手がJ2に抜かれたタイミング。それでも決してチームがバラバラになることなく一枚岩でしっかりと団結して戦う方向性が選手たちが示してくれましたし、昨年のように選手同士でケンカをしたりするシーンもなく、前向きにいろんなことにトライしてくれたのではないかと思います。

欲を言えば八戸といわきのどちらかで勝って首位に立つこと、その後の鹿児島戦で勝って入れ替わる状況を作れればよかったですし、鹿児島が鳥取に0-6で負けたゲームの次の日のYS横浜戦、それから直接対決になった藤枝戦。非常にキーゲームになったと思います。キーゲームを上げたらどのクラブもきりがないと思うんですけれど、我々は「これに勝てば」というシチュエーションが何回かあって、それをことごとく落としてしまったというのは本当に残念でした。

皆さん一人ひとり「このゲームがキーだった」というのを挙げれば十人十色だと思います。先ほど(セレモニーで)述べた、南九州の2クラブ。「くせ者」の2クラブに4試合で勝ち点1というのが最後は大きく響いたと回想しています。

このJ3リーグ、今シーズンはJ2から4クラブが落ちてきたので非常に難易度が高く、レベルの高いリーグになると思っていましたけれど、引き分けの少ないクラブがあって、3ポイントへの執着心をより強く持たなければいけなかったり。昇格してきたいわきがそのままパワーとスピードで突っ走るリーグになってしまったので、我々としてはその背中を一生懸命追いかけるしかなくなってしまい、最初に貯金があればもう少し違った形になったとも思います。

最後は勝ち点1、得失点差16。この勝ち点1差を埋めきれなかった1年間だったと思います。先ほどの「3ポイントへの執着心」とは裏腹な答えになるかもしれないですけれど、0を1にするゲームを何試合か持たなければいけなかったし、もちろん直接対決でもう少しいい数字を残せればよかったです。

ただ年間通して選手たちは本当に「耳」が育ったと思いますし、戦う姿勢の中で仲間を思う気持ちも強くなったと思います。謙虚に、決して自分たちが上に立つことなく、しっかり地に足を付けて戦ってくれた34試合でした。いいものをしっかり残して悪いものをそぎ落としていくことはどこのクラブでもやっていると思いますが、ここのクラブは一度いい夢を見ているクラブ。そこに到達できるまでまだまだ努力しなければいけないと思いますし、いろんなサポート、叱咤激励を受けながら来シーズン以降も戦っていかなければいけないと思います。

メディアの皆さんには1年間、本当にこの信州のサッカーの熱を上げるため、それから山雅がJ3から這い上がるために苦楽を共にしていただいたと思っていますし、また来シーズン以降もクラブのサポートをお願いしたいと切実に思っています。本当に1年間ありがとうございました。以上です。

――名波さんがおっしゃった南九州の2クラブのどのような部分が「くせ者」で、そこに対して勝ち点が1しか取れなかった要因があるとすればなんだったのでしょうか?

紅白戦のメンバーがだいたい2日後のゲームに出るというのが定例でしたが、あのゲームは紅白戦のメンバーが出ていません。まずホーム開幕戦であったにもかかわらず準備が足りないとか熱量が低いとかそういう部分があったのが自分たちの反省点です。

なぜ「くせ者」に感じるか。大嶽(直人)さんが作って年間を通してやり切った3トップ気味の形。五領(淳樹)と米澤(令衣)がワイドに張る形が、自分たちの守備にハマりづらいだろうなと思ったのが一つ。それから宮崎に関しては岡田優希のボール運びやシュートセンス。ワイドに張ったり、前に出る選手のプレーの特徴。そこを自分たちが消し切れるかという中で、練習試合やその前年の活躍も含めて少し嫌だなと思っていました。

いわきに関しては最初全くデータがなかったので、どういうふうに戦うかもそうですし、福島の2チームは最初突っ走ってましたけど、自分たちが戦う前にどの辺にいるかを見極めてできればいいなと。ちょっと深いタイミングでの対戦だったのでいいと思っていましたけど、最終的には最初から最後まで走り切ったいわきが昇格しました。妥当な順位だと思いますし、妥当な試合内容だったなと思います。

――序盤戦は特に、並びも選手起用も含めて柔軟に使ってこられて、選手一人ひとりの伸びしろだっりチームの伸びしろを生かすことをされていました。結果を出すということと個々を伸ばす、チームを伸ばすバランスはどのように感じていましたか?

もちろん難しいミッションだと思うんですけれど、育成なくしてこの地域の繁栄はないし信州サッカーの熱量が上がることはないと考えています。クラブとしても危機感を持っていました。ホームグロウンの選手もそうですし、高卒や大卒の新人、もしくは2〜3年目の選手を重宝して使わなければ行く末は暗転してしまいます。やっぱり明るい未来を築くためには、地元の選手が活躍したり、自分たちが育て上げた選手が上のステージに行ったり、国際Aマッチで活躍したりするのがベスト。それを思い描いて作ってきた1年でした。結果に関しては誰ができたか、そういう形だったか。自分がメンバーを選んでいるので、自分に責任があります。

――1年間の取り組みを見ている中で、キーワードとして攻撃においては「前選択」、守備では「中締め」「縦ズレ」「クロスを入れさせない」といったキーワードを継続して植え付けてきました。一進一退しながらでしたが、当初名波監督が思い描いていた完成度はシーズンを通じてどう振り返りますか?

去年は個々でサッカー観の違ったのを自分自身がまとめ上げようとしすぎていました。もしくは選手の意思を多少尊重しすぎてうまくいかなかったのと、選手間でトラブルが多々あったので、それを修正しようというところからチーム作りに入りました。その中で守備をベースに作っていくというのは皆さんにも伝わったと思うし、失点が70以上あった昨シーズンを考えたら、試合数より減らすこと。実は20点台を目標にしてきましたけど、それ相応の成果を挙げたのではないかと思います。

成果という意味では、ボールをいくら繋がれようが、30mに侵入されようが、(ペナルティ)ボックス内で仕事をさせないこと、クロスを上げさせないこと。シュートを打たせないということは数字にもしっかり表れましたし、シュートブロックの数、クロスを上げさせない数、ボックス内に進入させない数、そういったものは中位から上位をきちんと占めていたと思います。ただ、ただ残りアウェイ2連戦が2試合で8失点。これは自分は思い描いていなかったですし、どんな状況であってもやっぱり2点以上取られるとチームとしては非常に落ち込むし、そこからパワーを使ってさらにリスクを冒して攻撃しなければいけなくなるという中では、難しいものを残り3節の中で2試合出してしまったなと。そこは年間通してやってきたことができなかったところもありますし、難しいものがあったと思います。

――それを踏まえた中できょうの試合は実質的に昇格云々という試合ではなかったですけれど、集大成として見せられたか。(田中)隼磨選手が出場して最終的に決勝点が生まれましたが、「培ってきたことを出す」という観点からすると、なかなか難しい試合だったと思います。どのように振り返りますか。

シンプルに前選択になるという意味では、立ち上がり7〜8分は上に上がって、相手の背後に落ちるラフなボールがなかなか出せませんでした。そこから背後を狙おうと。特に自分たちの(右)サイドが有効に使える状況でも使えずに、逆に相手に先にボックス脇で起点を作られてしまうことが多々あって、それをゲームの流れの中で80分くらいまでなかなか変えられませんでした。(小松)蓮の決定的なシーンが2回くらい続いたところからやっと自分たちの良さが出て、セカンドボールを拾ってワイド、という流れができました。その中できょうもゲーム強度で言ったら、50分くらいはそれができたと思うので、前の動き出しも出し手のチョイスも含めて、もっともっとそういうシーンが生まれなければいけなかったと思っています。

――田中隼磨選手のラストゲームになりましたけど、改めて田中選手に向けて一言をいただいてもいいですか。

キャンプから帰ってきてからちょっと長い話をして、それから夏過ぎにも長い話をして、そういう流れになるだろうなというのは何となく想定していました。僕も大きい風呂敷を広げた感はあったんですけれど。そういう時にもう「チームがどんな状況でもラストはベンチに入れて必ずプレーさせる」それから「クラブとしてしっかりセレモニーをやってもらう」という話を2人でしてここまで時が過ぎました。

ダービー戦の翌日の紅白戦でしっかりプレーしていて、もうグループに入って下川、宮部、(吉田)将也など同じポジションの選手と競争に入れるかな…くらいの状況まで来たのですが、また傷んでしまいました。1年を通してそこが残念でした。最後に「辞めます」と決断したときの顔が「プレーしたい」という表情に見えたので、「本当に自分で無理と言わない限りはベンチに入れるから、4日間の過ごし方とコンディション作りは100%任せる。練習も入りたくなければそれでいい」と話をしました。

最後の最後にファニーゲームを一緒にやりました。なかなか隼磨がボール触れないのでみんながボールを(田中隼磨に)回したり、隼磨のシュートを若い選手たちがどんどんクリアしちゃったり、本当に楽しい雰囲気で終われました。昇格がほぼなくなった中での雰囲気づくりというのが、暗いものにならず楽しい雰囲気で終われたので、それがきょうのゲームにつながったと思います。

個人的には松田直樹の想いを隼磨がしっかりとくんで、このクラブの浮き沈みに絡んで、全てで自分の責任を感じながらやってくれたと思います。大きな荷物をしっかり下ろして新しいステージに進んでほしいですし、その新しいステージでは、きょう現在は持ち上げられているけれども、もしかしたらどん底に落とされるかもしれない。そういう覚悟を持って、この松本山雅というクラブを背負って立つ存在であってほしいと思います。

――この場でお答えいただくのが難しいのを承知で伺います。セレモニーの挨拶の中で「来年以降このクラブに輝かしい未来が待っていることを祈っています」と言っていましたが、ご自身としては来季以降についてどのように考えていますか?

その言葉に関しては「いい方向に進んでほしい」ということで、深い意味はないです。誰がやろうが、自分がやろうが、そういう方向に進んでほしいと個人的には言っただけです。実際にきょうのゲーム、契約満了の選手が出ていたりもするので、そういう意味も含めて、しっかり前を向いて今後のサッカー人生を歩んでいこうと。それに対して、残る選手もいなくなる選手もみんなが山雅を応援しているよということを代表して伝えたまでです。

――どんな試合の後でも冷静に分析して話をするのが印象的でしたが、悔しさや喜びも背負ってきたものがあったと思います。34試合を終えたいま、監督個人としての気持ちはホッとしているのか、次に向かってられるのか。いかがでしょうか?

現役時代から監督に至るまでどのシーズンが終わっても、やっぱりシーズン終盤は疲労・疲弊が体も頭も蓄積されています。残念な思い、悔しい思いがいの一番に出ます。あとはゆっくりしたいという気持ちも非常に強いです。現役生活でいろんなカップ戦や代表の試合も含めて500試合以上、Jリーグの監督になって200試合以上、どのゲームも終わった時には間違いなく次の準備をしなければいけないし、反省しなければいけません。そういう課題を持って次へのトライをしてきていて、それは変わらないと思います。監督をやらないとしてもそういう目線は変わらないし、今は選手の目線、監督の目線との両方で自分はサッカー人として生きています。山雅もそうですけれど、山雅にかかわらず日本サッカーに今後も貢献したいという気持ちが率直な今の気持ちです。

――34試合続けて応援してくれたサポーターへの思いを改めて聞かせてください。

いろんなクラブに知り合いの選手がいたりスタッフがいたり、中に入っている社員の方がいたり、J3でもたくさんいます。どこのアウェイに行っても、北は八戸から南は鹿児島まで、どこに行っても本当に緑の方々が多いですし、駅で会おうがホテルで会おうがいつもポジティブな言葉をかけていただきました。本当に申し訳ない気持ちと身が引き締まる気持ちと、いろんな気持ちが自分の中で交錯しました。こんなクラブは日本でここだけです。お世辞抜きでこのクラブはサポーターがしっかりと支えているし、クラブ、選手、現場の上に立たず平等な立場でクラブに接してくれている、選手に接してくれているなと強く感じます。なのでここから未来の3年、5年、10年、100年、クラブを支えてほしいです。もっと応援してくれれば、選手はさらに大きな責任を背負うと思い、さらに磨かれるんじゃないかと思います。そこに大いに期待して、大きな感謝を込めたいと思います。 

――今シーズンのチームは「原点回起」というスローガンのもとに始まりましたが、チームとして体現できたこと、できなかったことをそれぞれお願いします。

最終的に昨シーズンは走れない、対人や球際で体を張れない、ボックス前で体を投げ出せないチームだったと我々スタッフは分析しました。外の方もそういう評価だったと思います。それを改善するという意味ではキャンプから十分に走りましたし、身体作りをしました。それから声かけの中でも常に前向きにトレーニングにトライしようとやってきて、ゲームの中でそれを表現できた試合は非常に多かったんじゃないかなと思っています。

プラス、「劇場型」のゲームが何試合かありました。きょうのゲームに代表されるように、モヤモヤとした中でも終盤に自分たちのパワー、それからゴール前に結び付けるであろう気持ちを出せたゲームも多かったと思います。それをしっかりとサポーターの方が後押しして、一体感を持ったホームゲーム、アウェイゲームが繰り広げられた試合が多かったんじゃないかなと思います。「1個ステージが上がったらどうなの?」と言われたら、まだまだ努力が足りないと思いますけど、来シーズンは1個上がったステージでやるような気持ちでいれば、おのずと結果はついてくると思います。